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第98話 時を超えし愛


「ソフィア様が・・・星が生み出した生命・・・?」


ソフィアは頷く。


「この星には神と同じように、もちろん普通の人間も存在していたわ。だけど、私だけは違うの」


「違うって、何が・・・?」


頬に冷や汗が伝う。


「当時、ウラヌスは自ら覚醒させたエーテルの力を使い彼に従う者達を味方につけ、戦力を急激に拡大していった。今で言う神術ね」


「これにより星を満たしていたエーテルが急速に消費されていくようになると、星はそれを止めるため一人の人間を創造し、使者として送り込む事にした」


「・・・それが私」


俺はアシーナと目を見合わせる。


「この事実をクロノスに話した時も、今のあなた達と同じ反応を示したわ」


ソフィアは口元を押さえ微笑んだ。


「星は私と行動を共にしていたクロノスにも、ウラヌス達を止めるべく彼らの使うエーテルを回収する力を授けた。抑止力の一つとして」


「俺の持つ、この力だな?」


「そう。ただ、その力は本来は闇の力なんかじゃないのよ。慈愛に満ちた優しい力なの」


ソフィアは祈るように手を合わせた。


「とてもそうは思えんが・・・」


俺は首を傾げる。


「あ、あの。失礼ながら・・・クロノス様は、お父様、いえゼウスに討伐されたのですよね? 世界にとって正しい事をしていたはずのクロノス様が、一体どうして?」


アシーナは恐る恐る問いかける。


「クロノスが、私を世界を導く指導者に据えようとしたからよ」


「ソフィア様を・・・指導者に・・・?」


ソフィアは困惑した様子で微笑んだ。


「そもそも人間を王に据えようなんて、大胆過ぎる行動だったのよね。だから失敗してしまった」


「これまでずっとウラヌスが、神が世界を統治してきた。人間が世界の王となる。プライドの高い神族にとって、それは人間よりも下であると認める行為。巨神族とはいえ、神族に変わりはないクロノスがその座を人間である私に譲ろうとしたのだから、反発されるのも無理はないわ。ましてゼウスはウラヌスの直系子孫。人間に従うなんてできるはずがないと思ったのね」


「クロノスだけが真実を知りその危険性を理解していた。争いを起こさないために、何度も話し合いで解決しようと試みた。その甲斐あって巨神族と人間はクロノスを信じてくれた。けれど、ゼウスを含めた神族の面々はそうはいかなかった・・・」


「クロノスのやり方に違和感を覚え、次第に猜疑心を募らせていった神族はゼウスにつき、巨神族と大半の人間はクロノスについた。そして、二大勢力による世界を巻き込む大規模な全面戦争に発展した」


アシーナは唾をのむ。


「それが・・・ティタノマキア・・・」


ソフィアは頷く。


「ゼウスの人間に対する憎悪はそこから来ていたのか」


「そうね。ゼウスが紋章を確立し神だけが神術を扱うようになるまでは、人間も同じように超常現象を扱う事は普通だった。恐らく、苦戦を強いられた事が尾を引いているのね」


「なるほどな。人間の血が入った俺を蔑むわけだ」


ソフィアは苦笑いする。


「それはそうと、どうして俺はこの時代に生きている? ピュラと同じように時空を超えてきたとでも言うのか?」


ソフィアは首を振る。


「いいえ。あの子が受けたのは時を超える時空術。あなたは違うわ。あなたを身ごもったのはクロノスがウラヌスを倒した後だから・・・そうねぇ。生まれるのに約4000年かかった、という事になるわね」


「おい。いくら母親とはいえ、くだらない冗談で笑えるほど優しくはなれんぞ」


俺はため息を漏らす。


「もう! 冗談じゃないわよ。本当に4000年かかったの」


ソフィアは軽く咳払いする。


「私はあなたを身ごもった時に神託(オラクル)により一つの未来を知った。あなたがこの星を救う可能性を秘めているという事を。それを知ったすぐ後にゼウスが反旗を翻しティタノマキアが起こってしまった・・・」


「ティタノマキア以降、運がいいのか悪いのか、私はゼウスに見初められ殺される事なく妻の一人として迎え入れられた。私は人間ではあったけど、星が作り出した特別な生命体。エーテルのコントロールなんて朝飯前。ゼウスは本能的に私の持つ人間離れした才能に気付いていたのね」


ソフィアは自身の下腹部を優しく撫でた。


「クロノスの子だと分かれば、ゼウスは確実に私とお腹の子を殺す。私はお腹の中のあなたを守るため、まだ胎児だったあなたにゼウスに気付かれないよう薄いエーテルの膜を張りあなたの存在を隠した。何度も彼の寵愛を受けたわ。それでも、彼の子を身ごもる事はなかった。それもそうよね。だって、私のお腹の中には既にあなたがいたんですもの」


「いつまで経っても子を授からない私に苛立ちが募ったのね。ゼウスは私から妻という身分をはく奪した。それでも、オリンポス神殿で神々に神術を指導する事でゼウスに貢献するフリを続け、自分の命だけは何とか守ろうとした。何よりお腹の中のニケのために」


「いくら星が生み出した長寿の命とはいえ、さすがに限界が来ていたのね。これ以上ニケを隠し通すのは無理と判断した私は、落ち着いて生む事が出来る場所を探した。それがこのアテナイの地。ニケを生んだ私はここでそのまま力尽きた」


ソフィアは深く息を吐いた。


「これが、あなたが生まれた経緯よ。本当はもっと未来の平和な時代に生んであげたかったんだけどね。私が限界を迎えちゃったから」


ソフィアは申し訳なさそうにうつむいた。


「だけど、結果的に良かったわ。ゼウスが私との子だと勘違いしてくれたおかげで、あなたは殺されずに済んだんですもの。それに、アシーナちゃんに出会う事もできた」


ずっと・・・自身のエーテルを消費し続けていたというのか?


俺なんかの為に・・・何千年もの長い間、苦痛に耐え凌いできたというのか?


たった一人で、戦っていたというのか?


愛してもいないヤツなんかの傍でずっと・・・


どれだけ苦しんだのだろう。


どれだけ悔しかったのだろう。


どれだけ寂しかったのだろう。


うつむく母を抱きしめる。


強く。噛みしめるように。これまでの時間を埋めるように。


「ニケ・・・痛いわ」


「俺なんかの為に・・・ありがとう・・・母さん」


「ありがとう・・・・・」


俺は失った時間を取り戻すように、ただひたすらソフィアを抱きしめていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


とても励みになっています!


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