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第96話 オリーブの神木


すっかり日も落ち、ニケとアシーナが眠る部屋は既に真っ暗になっていた。


アシーナの眠る横でアルテミスも仮眠を取っている。


二人の胸のオリーブのお守りはお互いに呼応するように仄かに輝きを放っていた―――。




「ここは・・・」


太陽がまぶしい。


辺りはどこまでも広がる草原、空気は澄み渡りそよぐ風が草木を優しく揺らしていた。


辺りを見渡すと、突然目の前に見た事もない巨大な木がそびえていた。


やや透けて輝くその木は、どこか神秘的ですらあった。


「何だ・・・? 初めて見る木なのに、何故だかとても安心する」


俺は頭の中を整理する。


俺はゼウスの攻撃をまともに食らったはず。


どう考えても導き出される答えは一つだった。


俺は、死んだという事だ。


であるなら、ここは死後の世界・・・?


それとも理想郷エリュシオン?


いや、それはないか。仮にここがエリュシオンだとしたら、精霊たちが存在しているはずだ。


となると、やはり死後の世界だと考える方が自然か。


「やれやれ。ゼウスを殺すと息巻いていた癖に、その仇に殺されるとは。笑い話にもならんな」


『ニケ!!』


突然、良く知る声が響き渡った。


辺りを見回すが誰もいない。


だが、確かに聞こえた。まるでこの空間全体が音を発するような感覚・・・


「ニケ!!!」


俺が空を仰ぐと、常盤色(ときわいろ)の長い髪の女性が俺に向かい飛び込んできた。


俺は咄嗟に女性を抱える。


「アシーナ・・・」


「ニケ! 良かった! 死んじゃったかと思ったわ!」


アシーナは抱えられたまま腕を伸ばし抱擁する。


「いや、どうやら俺は死んだらしい」


待て。それならどうしてアシーナがここにいる?


「まさか、アシーナも死んだのか?」


「え? ここって死後の世界なの? 道理で景色が綺麗なわけね」


アシーナは美しい景色に目を輝かせる。


「あれ? でも神木がある・・・どういう事?」


「お前、まさかゼウスに負けたのか?」


「う~ん・・・よく思い出せないのだけど、あの時私・・・お母様を殺してしまって・・・その・・・気が動転して自暴自棄になって・・・それから、連戦に連戦を重ねて・・・」


「そう。ニケにコテンパンにやられて、それでエーテルが尽きちゃったのよ」


「お父様はニケに止めを刺そうとしたから、ニケだけでも助けようとして・・・そうだわ! それでお父様の攻撃をまともに受けちゃったのよ!」


アシーナは突然顔を覆いその場にしゃがみ込んだ。


「私、何してたんだろう・・・いつまでもお父様の言われるがままで・・・戦場に立つ時点で覚悟しなきゃいけなかった事なのに、お母様と戦って・・・取り乱してガイアもハデスも殺すとか言い出して・・・」


「挙句の果てにはニケにまで八つ当たりして・・・お母様の言う通りね。精神的に未熟すぎるにも程があるわ。アレスの事、偉そうに説教していた自分が恥ずかしい・・・」


「やはり、メティスはお前が倒したのか」


アシーナは黙って頷いた。


「こんな事言っても取り返しのつかない事は分かってる。だけど、本当に殺すつもりなんてなかった・・・お母様の言った事を信じる事ができなかった。あの時、私を置いて出て行ってしまったから・・・だから、間違っていると分かっていてもお父様にすがるしかなかった・・・」


「・・・全て、精神的に未熟だった私の罪。どうしようもなく子供だった私の罪。だから、ここに行き着いたのかもね。この死後の世界に」


俺はアシーナに手を差し伸べる。


「今更悔いても遅い。メティスは帰ってこない。だが、お前は結果的にガイアもクロノスも殺さなかった。俺に、思いをぶつけてくれた」


「適切な表現なのか分からないが、メティスは成長したお前の姿を見れて嬉しかったんだと思う」


「・・・ニケ」


アシーナは俺の手をそっと握る。


「これからは、俺がメティスの代わりにお前を導いてやる」


俺はアシーナの手を引き上げ、ごまかすようにそっぽを向いた。


「いや、違うな。俺がずっと傍に居てやる。お前の・・・パートナーとして・・・」


「・・・だから、俺についてこい」


恥ずかしさを紛らわすように頭を掻くニケに、アシーナは全力で抱き着いた。


「うん。もう迷わない。本当に、ありがとうね・・・ニケ」


「とは言っても、すでに死んでしまっては守るも何もないが・・・」


その時、俺たちの胸のオリーブのお守りが強く輝きを放った。


「きゃっ?!」


目の前にそびえる木と同じ色に輝いているお守りに違和感を覚える。


『ごめんなさい。青春の一幕を目の当たりにして、年甲斐もなく心が躍ってしまったわ』


先程の様に辺りに何者かの声が響き渡る。


「今度は誰だ? また誰かゼウスに殺されたのか?」


『もう・・・そんな物騒な子に育ってしまうなんて、私は悲しいわ。ニケ』


今、何て言った・・・?


まるで母親みたいな言い方だ。


『でも、とても真面目な子を選んだのね。そこは安心かな』


「さっきから何を言っている? それと、いつまでも隠れていないで姿を現したらどうだ?」


巨大なオリーブの木が輝きを増した。


やがて光は人一人分の大きさに凝縮されていく。


そして、黒いドレスを着た女性が静かに地面に降り立った。


「綺麗な人・・・」


アシーナは思わず女性に見惚れていた。


「初めまして。ニケ。アシーナちゃんは何度か会っているわね」


アシーナは首を傾げる。


「失礼ですが、どこかでお会いした事ありましたか? 一度会った人の顔は忘れないのですけど、どうしても思い出せないのですが・・・」


「あ、そっか! 何度も神託(オラクル)を授かろうと熱心にやって来るのを見ていたから、勝手に知り合いになった気でいたわ!」


黒いドレスの女性は無邪気に両手を合わせた。


「この子ね、ニケの事が愛おしくて堪らないのよ。来るたびにあなたの事を口にしていたんだから。ね、アシーナちゃん?」


アシーナのその艶やかな顔が真っ赤に染まっていく。


そしてショックで膝から崩れ落ちた。


「全部・・・聞かれていたの・・・?」


「あなた、こんなに思ってくれる子なんて滅多にいないんだから、大事にしなさいよ?」


黒いドレスの女性は腰に手を当て人差し指を立てる。


何故だ? 理由は分からないが、この女を見ていると落ち着かない。そして無性に腹立たしい。


「おい、いいから名前くらい名乗ったらどうだ?」


「そうだった! ごめんなさい!」


女性は身だしなみを整える。


「私はソフィア。これでも一応、元人間(・・・)よ」


「なん・・・だと・・・?」


俺は彼女の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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