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第95話 繋いだ思い


アース侵攻戦から三日―――。


ニケ、ピュラ、アシーナ、の三人はアテネ島・アテナイ村の療養所で静かに眠っていた。


心地よい風が白いカーテンを揺らしている。


窓の外には巨大なオリーブの神木が覗いていた。


アルテミスはアシーナの横に座りその手を握る。


「アシーナ様・・・」


返事はない。


美しい寝顔にアルテミスの心はより一層胸が締め付けられた。


「申し訳ございません。アシーナ様・・・傍に居ると誓ったのに・・・」


アルテミスが悲しみに暮れていた時、後ろのベッドがわずかに軋む音がした。


振り返るとピュラは眠そうな目を擦り辺りを見回していた。


「た、大変!! ガイア様にお伝えしないと!!」


アルテミスは慌てて部屋の外へ出て行った。


駆けつけたガイアはピュラの姿を見ると深く息を吐いた。


「無事に目覚めて良かったわ」


「あらあら! 眠そうなお顔もとってもキュートね♪」


「わっぷ」


ペルセポネは可愛さのあまりピュラを抱き寄せその豊満な胸に埋めた。


「やめないか。治癒術は施してあるとはいえ病み上がりの病人なんだ」


「はっ?! 申し訳ございません、つい・・・」


なぜか興奮状態のペルセポネは、後から部屋へ入ってきたクロノスに肩を叩かれ我に返る。


「ニッキー達は・・・まだ目覚めそうもないわね」


ガイアは寂し気に眠るニケの顔を見る。


「ニケ達の回復力に委ねるしかないな・・・ピュラは元々自身の持つ自己治癒力が高いのだろう」


「アルテミスと言ったな」


「は、はい! 何でしょうか?」


アルテミスは自然と姿勢を正した。


「そう固くなるな。自然体でいてくれればいい。それより、皆をアテネ神殿に集めてくれるか? お前達にも話しておこう。今世界で何が起きているのか。そして、これから何をすべきなのか」


「ニッキーとアッシーはどうするの? ニッキーはともかく、アッシーはまだ何も知らないでしょう? というより、信じ切れていないと言った方が正しいけれど・・・」


「アシーナには、二人が目覚めた時にタイミングを見て俺から話す。アシーナもニケが傍に居た方が安心だろう」


クロノスは窓から見える神木を一瞥し、部屋から出て行った。


アルテミスは窓を閉め、眠るニケとアシーナを見下ろす。


しばらく口を紡ぎうつむく。


アルテミスは不安気な表情のまま、名残惜しそうに部屋を後にした―――。




「そ、それは本当の話なのですか・・・?」


アルテミスは開いた口が塞がらなかった。


「紛れもない事実だ」


クロノスは困惑する面々に冷静に伝える。


ガイアは黙って話を聞いていた。


アレスは王の間の隅で腕を組んでいる。


「ゼウス。奴が存在する限りこの星に未来はない。それを防ぐためにも、ニケの力が必要だ。そして何より、三国間の協力が不可欠なのだ」


「ゼウス様の事に関しては大体の予測はついていましたが、あのクロノス神がまさか現代に転生するなんて・・・」


ミノス王は驚いた様子で話を聞いていた。


「俺とアフロディーテはクロノス神、そしてガイア様を信じます。もとよりガイア様にお力添えすると決めていましたし」


「いや~ん!! 嬉しい事言ってくれるわねアッピー! 大好き♪」


ガイアはアポロンの腕に抱き着いた。


「・・・ババァ。話が進まねぇだろうが」


アフロディーテはガイアの首根っこ掴んでアポロンから引きはがす。


「バッ・・・?!」


「さ、さすがに失礼ですよ! アフロディーテ様!! お兄様も止めてください!!」


アルテミスはアフロディーテの態度を見てアタフタする。


「ガイア様にはこれくらいでちょうどいいのよ。あなたも気を遣うだけ無駄よ」


ガイアを手にぶら下げたままアフロディーテは笑顔で答えた。


アポロンはため息をつき肩を落とす。


「もう! アッフィーたら恥ずかしがり屋さんなんだから! ペポネもそう思わない?」


ぶら下げられたままガイアは頬を膨らませる。


「男と腕を組むくらい別にいいじゃない。減るもんじゃあるまいし。見かけによらず初心ねぇ~♪」


ペルセポネもガイアに合わせる。


「こ、こいつら・・・!!」


楽しそうな二人にアフロディーテは怒りで自慢の金髪が逆立った。


アレスはそんなガイア達を一瞥し息を吐く。


「つまり、オリンポス神殿を襲った連中は本来であれば敵ではなく、争う必要もなかったということか」


「そういう事になる。まあ、誤解のあるやり方であった事は間違いないが・・・」


「そうですよ! メティスの教育がなってなかったから誤解されるんです! 私の部下はそんな事ないですよ!」


すっかり元気になったピュラは腕を組み仁王立ちするペルセポネの角にぶら下がっている。


ピュラと目が合うとテッサは笑顔を作るが、すぐにその顔に影を落とした。


手に持つエレクトラを眺める。


テッサは一人王の間を出て行った。


丘の上から遠目にオリーブの神木を見下ろす。


「エレクトラ・・・」


〖本当に済まなかったテッサ。俺が止めていればこんな事には・・・〗


テッサの脳内にアルシオーネの声が響く。


「ありがとうございますアルシオーネ。励ましてくれているのですよね。私は大丈夫ですよ」


テッサは無理矢理笑顔を作る。


〖エレクトラは、テッサの事を唯一の友達だと言っていた。テッサがやられそうになった時の取り乱し方は、そりゃあすごかったよ〗


〖もちろん、俺やアステロペ達もテッサを特別に感じている事は間違いない。俺自身、テッサ以上に感覚がかみ合う奴に会った事はない。それでも、エレクトラのテッサに対する態度は異常だ。こんな事言っちゃなんだが、普通精霊は友達なんてものは作らないし、精霊とそこまでの信頼関係は築けない〗


〖封印に逆らってでも・・・自分の身を投げ出してでもテッサを助けたかったんだと思う〗


テッサの頬に一筋の涙が伝う。


「私が・・・不甲斐ないばかりに・・・」


テッサは己の未熟さを悔いた。


〖テッサは良くやってるよ。この数の精霊をその身に宿し力を振れること自体が珍しいのに、複数の精霊とここまでの関係性を構築できる人間はまずいない。いや、宿主が神であったとしても無理だろうな。今回ばかりは相手が悪かった。ゼウスに真っ向から挑んで生還した人間なんてテッサくらいだぞ〗


静かに浮遊していた双剣が光り出す。


〖そうだよ! ゼウスに睨まれた時はちょっと恐かったけど・・・私達もあなたに惹かれたからこそ、ここにいるんだし! ね、アステロペ!〗


〖そうね! それに、まだ消滅すると決まったわけではないわ! みんなで協力すればきっとエレクトラを助ける事ができるよ!〗


「みなさん・・・ありがとうございます」


テッサは滴る涙を拭った。


「あらあら。何だか楽しそうな会話をしているわね」


振り向くと黒い角に赤髪の少女をぶら下げたペルセポネが立っていた。


「ペルセポネさん・・・あの・・・」


ペルセポネは右手をかざしテッサの言葉を遮った。


「何も言わなくていいわ。その子達があなたを選んだ。ただそれだけ。何も気にする必要はないわ」


〖ペルセポネ・・・〗


ペルセポネは浮遊する双剣を手に乗せるように支え、優しく撫でる。


優しさに満ちた笑顔が寂しさをより引き立てていた。


「結局、あなた達の姿を目にすることはかなわなかった・・・私ではあなた達の力を引き出す事はできなかったのね。薄々気づいてはいたんだけど」


「ねぇ・・・一つだけ、お願いしてもいいかしら?」


ペルセポネはテッサに真剣な眼差しを向ける。


「この子達を顕現させてくれないかしら。一度でいい。その姿を見てみたいの」


「・・・分かりました」


テッサは目を閉じ意識を集中させる。


「繋ぎ合わせなさい。メロペ・アステロペ」


浮遊する双剣が優しい光に包まれ、剣の前に二匹の精霊が姿を現した。


刀身に負けないくらい長く美しい黒髪に、鋭く切れ長の二枚の漆黒の羽を持つメロペ。


対照的に、全てを浄化してしまいそうな程一切の穢れのない長い白髪に、同じく切れ長の二枚の真っ白な羽のアステロペ。


「そう唱えるのね」


精霊を呼び出すにはその剣特有の詠唱が必要になる。


これが成功して初めて契約完了となるのだが、素質のない者が剣を手にしてもその詠唱が浮かばない。正しく詠唱する事が出来ない。


ペルセポネはしばらく二匹の精霊に見惚れていた。


「あらあら。何てことかしら。想像通りだった。これ以上ないくらいに・・・とても綺麗」


〖ペルセポネ・・・〗


二匹の精霊は今にも泣き出しそうな顔だ。


「な~にしんみりしているのよ」


ペルセポネは指で優しく撫でる。


「エレクトラの事は残念だったけど、大丈夫。きっと元に戻る。メロペとアステロペがきっと力になってくれる。信じなさい」


「ペルセポネさん・・・」


「いい? 契約したからにはちゃんと愛でてあげなさいよ? ひどい扱いをしようものなら、無理矢理引っぺがしてでも連れて帰るから」


ペルセポネは背を向ける。


「・・・ありがとう」


それだけ言い残し神殿へ戻って行った。


テッサは去りゆくペルセポネに頭を下げた。


〖ところでよ~。言える雰囲気じゃなかったから黙っていたんだが、ピュラは終始ペルセポネにぶら下がっていたけど、何がしたかったんだ? ていうかペルセポネのヤツ、気づいていない素振りだったが・・・〗


〖ペルセポネはああいう奴なのよ!! ね、アステロペ!!〗


〖そうね! いつもあんな感じだから特に気にしていなかったわ!〗


「私も初めに伝えようとしたのですが・・・」


テッサは顎に手を当てたがすぐに笑顔が戻る。


「気にしたら負けですよ。アルシオーネ」


〖・・・そ、そういうもんなのか?〗


納得いかない様子のアルシオーネを尻目に、テッサと二匹の精霊の間に笑顔が溢れていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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