第94話 束の間の収束
〖まずいよアステロペ!! あいつめっちゃ怒ってるじゃん!!〗
焦るように黒い短剣の輝きが強く細かくなる。
〖そう言われてもね~。出て来ちゃったものは仕方ないし・・・〗
対する白い短剣の輝きは落ち着いていた。
ゼウスは黒い短剣の方へ歩いてくる。
〖ひぃ~?! 見てないで助けてよアステロペ!!〗
「人間に群がる忌々しい蝿どもが・・・」
ゼウスが魔法陣を展開したその時だった。
激しい頭痛がゼウスを襲う。
「ぐぅぅぅ?!!」
ゼウスの脳内に声が響く。
『今は引くのだ』
「だ、誰だ貴様はっ・・・?!」
『今はまだ誰でもない、名もなき存在だ』
ゼウスは激しい頭痛に頭を抱える。
「がっあああ!!!」
『ふむ。なかなか優秀なエーテルだ。馴染むまでまだしばらく掛かるか』
「何の・・・話だ・・・?!」
ゼウスは激痛に顔をしかめる。
『近いうちお前にも分かる時が来る。ともかく、これだけ戦力を削がれた今は引くしかない。ここでニケとアシーナを殺し損ねたのは痛いが、私にも準備がある。致し方あるまい』
「ぐぅぅ・・・!!」
ゼウスはふらつく足で突然ゲートを開き身を投じ消えていった。
〖およ? あいつ、急にどうしたんだろ?〗
〖何があったかは分からないけど幸運だったみたいね〗
アステロペは浮遊しメロペの元へやって来る。
〖ねぇ。それよりあの子・・・〗
エレクトラは虚ろな瞳で歪む体を押さえ、テッサの元へ飛んでいく。
〖まずいわね。メロペ、行くわよ〗
双剣はエレクトラの後を追う。
〖テッサ・・・無理・・・せちゃって・・・めんね。私が・・・っと・・・〗
時空の歪みで声が途切れる。
眠るテッサに寄り添うように、エレクトラも静かに地に伏した。
エレクトラの身体は今にも消えそうな程歪みに覆われていた。
〖間に合えーーーー!!!〗
双剣はテッサとエレクトラを挟むように地面に刺さる。
すると地に伏す二人が淡い光に包まれた。
エレクトラの歪みが小さくなり、やがて歪みは小さな電磁音と共に消滅した。
〖ふぅ~。何とか間に合ったねアステロペ!〗
〖まだ油断はできないよ。見た目は元通りになったとしても、体内に蓄積されたダメージは相当大きいはず。早く剣の中へ戻さないと・・・〗
「エレ・・クトラ・・・?」
光で目を覚ましたテッサは眠るように横たわるエレクトラを見て目を見開いた。
「エレクトラ!!!」
軋む体に鞭を打ち身体を起こす。
「おい。どういう事だ? ゼウスはどこへ消えた?」
アレスはテッサを見下ろす。
「そんな事より、どうしてエレクトラは剣から出てきたのです?!」
普段からは想像もできない剣幕のテッサの表情に、アレスは困ったように頭を掻いた。
〖一応、粛清がこれ以上進まないよう手は打ったけど、早く剣に戻さないと消滅しちゃうよ〗
テッサは無理矢理体を起こし、無我夢中でエレクトラを救い上げる。
「無理すんな」
アレスはテッサを軽々と抱える。
「あの長ぇ刀だな?」
アレス達は長刀の元へ急いだ。
〖テッサ・・・〗
アルシオーネの言葉は届いていない。
何かに取り憑かれたように、テッサは抱えたエレクトラを長刀へ近づける。
エレクトラの身体と長刀が青白く光り出し、エレクトラは長刀の中へ消えていった。
「・・・どうして、こんな無茶を・・・」
テッサはしばらく地面に刺さる長刀エレクトラを見つめていた。
〖悪い・・・俺が止めるべきだった〗
「・・・・・いえ」
テッサは放心したままエレクトラを鞘にしまう。
その場に座り込み祈るように強く抱擁する。
「エレクトラ・・・」
アレスと精霊たちは何て声をかけたらいいか分からず、ただ無言を貫いた―――。
「ニッキー!!」
ガイア達は横たわるニケ達の前に駆け寄る。
「全員、何とか息はあるようだが深刻だな・・・」
クロノスは布に包んだピュラを抱える。
「アシーナ様・・・」
アルテミスはアポロンに抱えられたアシーナの手を握る。
「ゼウスの様子がおかしかったけど、彼はどこへ行ったのかしら?」
ガイアは空を仰ぐ。
「分からない。あの様子ではユピテリアに戻ったとは考えにくいが。それに、あのエーテル・・・」
「これから、どうするのですか?」
アポロンは不安を滲ませる。
クロノスは少し間をあけ口を開いた。
「ユピテリアに行く」
「ユピテリアに?」
アフロディーテは首を傾げる。
「一つ聞くが、アテネ島には巨大なオリーブの木が自生しているか?」
「は、はい。ですが、どうして冥界の王がその事を?」
アルテミスは驚いた様子で口に手を当てる。
「少し思い当たるところがあっただけだ。気にするな」
クロノスは顎に手を当て再び何かを考え込んだ。
「どうされます? ガイア様」
「私達もユピテリアに行きましょうか。目的のニッキー達と合流できたし、今は世界を救うために動かないと」
アレス達やミノス王達も、全員アース神殿に合流する。
「あ! やっと帰ってきたわね!」
ペルセポネは長刀を抱えうつむくテッサの横で浮遊する双剣を見て笑顔になる。
「さ、いらっしゃい」
ペルセポネは二人に傍へ来るように促した。
双剣はテッサの横から離れない。
ペルセポネは首を傾げる。
〖ごめんペルセポネ。 私達、テッサについていく事にしたわ〗
意外な答えにテッサは顔を上げた。
〖私達、惹かれちゃったんだ。この子のエーテルに。それに、ワクワクが止まらないんだ。この子なら、まだ知らない私達の可能性を引き出してくれるんじゃないかって〗
〖ぺ、ペルセポネが嫌だってわけじゃないんだよ?!〗
黒い短剣は慌てるように小刻みに揺れる。
〖それに、力を貸してあげたいんです。彼女を、エレクトラを元に戻すために〗
白い短剣が補足する。
「メロペ、アステロペ・・・」
テッサは胸に抱く長刀エレクトラを切なげに見つめる。
ペルセポネは腰に手を当て深くため息をついた。
「あなた達がそう言うなら止めやしないわよ。好きにしなさいな」
〖ありがとう! ペルセポネ!!〗
無邪気に揺れる双剣を眺めるペルセポネの笑顔はどこか寂しげだった。
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