第93話 精霊を魅了する者
地面に刺した神の稲妻から赤い稲妻が迸る。
「『赤雷の氾濫』」
細いおびただしい数の赤い稲妻がテッサの逃げ道を塞ぐように四方から襲い掛かる。
〘三色菫〙
テッサが長刀を地面に突き刺すと、青い無数の氷の菫の花がテッサの周りに咲き誇る。
青い花びらは盾となり赤雷を全て受けきり、稲妻と相殺し氷の破片が宙へ舞った。
「死ね。哀れな人間」
「『最後の裁き』」
覆われた厚い雲が夕焼けの様に赤く染まっていく。
ゼウスが赤雷剣を振り下ろすと、雲間に光る赤く太い稲妻が豪雨のごとく降り注いだ。
〘富貴桜〙
散った青い花に交わるように、今度は紫色の氷の花びらが舞うようにテッサを取り巻いた。
〘済まないテッサ!! 少し開放するぜ!!〙
テッサは曲刀を天に掲げ回転させる。
曲刀から発生した緑の風は次第に大きくなっていく。
周囲に浮遊する氷の宝石も風に応えるようにテッサの周りを回転する。
風はやがて大きな氷嵐となり激しく吹き荒ぶ。
〘いっけぇーーー!!〙
〘玉簾!!!〙
テッサは曲刀を思い切り地面に突き刺した。
テッサを取り囲むように発生した緑色の風は、宙に舞う青紫の氷の破片を巻き込み力強く巻き上がる。
氷嵐は瞬く間に拡大し周囲の建物を巻き上げていき、あっという間にゼウスをも飲み込んだ。
ゼウスは全知全能を展開し空間を歪ませる。
しかし、氷の破片と巻き上がる嵐にエーテルの流れを遮断され発動を許されない。
「ぐあぁーーー!!!」
ゼウスは巻き上がる氷の破片に巻き込まれ全身を切り刻まれ空へと舞い上がる。
氷嵐の風で赤い雲は消え去り煌めく星空が顔を出した。
〘どうだ? 少しは効いただろ?〙
テッサは舞い上がるゼウスを見上げる。
その額には汗が滲んでいた。
傷だらけになりながらもバランスを取り着地したゼウスは赤雷剣を地面に突き立て身体を支えた。
「バカな・・・この私が、よりによって人間ごときに・・・」
〘さ~て、ようやく同じ土俵に立ったな。ここからが本番・・・〙
ゼウスは掌に意識を集中させる。
足元に強大な金色の魔法陣が展開された。
「誰と・・・同じ土俵に立っただと・・・?」
〘おいおい・・・勘弁しろよ。あれだけまともに食らったんだ。丸一日はエーテルを練る事すらできねえはずだぞ?〙
〘アルシオーネ。早く決着を付けちゃいましょ。これ以上はテッサの身体が・・・〙
テッサが剣を構え直した瞬間、突然体が淡い光に包まれた。
背中の羽は消え去り髪も元の色に戻る。
テッサの手から二本の剣が滑り落ち地面に刺さる。
〖テッサ?!〗
テッサは消耗の激しさに両膝をつく。
〖おい! 大丈夫か?!〗
「ハアッ!! ハァッ!! ハァッ・・・!!」
見つめる地面に大量の汗が落ちる。
「はははっ!! どうやら限界のようだな!!」
ゼウスは瞬時にテッサの元へ移動する。
身体に纏わせた電撃がテッサの顔を照らす。
「・・・っ!!」
テッサはおぼろげな目でゼウスを見上げる。
「人間にしてはよくやった。忌々しいが認めよう」
ゼウスは鋭い回し蹴りでテッサを蹴り飛ばした。
「あっ?!!!」
飛ばされたテッサはゼウスの纏う電撃に感電し追い打ちを受ける。
「か・・・はっ!!」
テッサは立ち上がろうとするが腕に力が入らない。
虚しくその場に崩れ落ちる。
「手間取らせてくれた褒美だ。貴様は痛みを感じぬよう一瞬で焼き尽くしてやろう」
ゼウスはゆっくりと歩いてくる。
「・・・・・」
テッサはついにその瞳を閉じた。
〖テッサ!! 起きて!!〗
剣の中に留まるエレクトラとアルシオーネは、今にも殺されそうなテッサをただ見ている事しかできない。
長刀エレクトラの刀身が淡く光り出す。
〖おい?! 何をするつもりだ?!〗
アルシオーネは声を上げる。
〖だって!! テッサが死んじゃう!!〗
〖まさかお前・・・ やめろ!! 消滅するぞ!!〗
〖そんなの知らない!! テッサは私の唯一の友達なんだよ!! 絶対に死なせない!!〗
エレクトラはこじ開けるように無理矢理封印を解き、時空を歪ませ現世に顕現した。
まるで世界がその存在を認めていないかのように、小さな体に歪みが生じる。
〖馬鹿野郎!! 戻れ!! エレクトラ!!〗
エレクトラはアルシオーネの制止を振り切りテッサの元へ飛んでいった。
「消えて無くなれ」
ゼウスがテッサに向け手をかざすと、巨大な氷の塊が幾つも空から降り注ぎテッサとゼウスを隔てた。
「ちっ!!!」
ゼウスはそれらを赤い雷撃で粉々に打ち砕く。
目を閉じるテッサの前に青白い小さな精霊が行く手を阻んだ。
「蝿ごときが・・・何しに来た」
〖お前の魂を喰らいに来たんだよ。下等生物〗
〖・・・エレクトラ?〗
アルシオーネはエレクトラの普段と異なる雰囲気に圧倒される。
「ふははは!! 小さき虫に下等生物呼ばわりされるとはな!! 虚勢を張る元気は残っているようだな!! たかだか蝿一匹ごときに何ができる?」
「そこの人間諸共まとめて塵にしてくれるわ」
ペルセポネの横で浮遊していた双剣、メロペとアステロペは導かれるようにテッサの元へ飛んでいった。
「あっ!! ちょっと二人とも?!」
ペルセポネは驚いた様子で見守っていた。
ゼウスがエレクトラに向かい赤い雷撃を放つ。
エレクトラはまばゆい閃光に目を閉じた。
空から黒い短剣が雷撃を遮断するように地面に刺さる。
赤雷は短剣から発生した黒いゲートに吸い込まれていく。
「なに・・・?!」
ゼウスは妙な違和感を覚え、後ろを振り向いた。
地面には白い刀身の短剣が刺さっている。
黒い短剣に呼応するように白いゲートが現れ、ゼウスに向かい赤い稲妻を放出する。
「ぐわああーーー?!!!」
ゼウスは自らの雷にその身を焦がした。
〖ねぇアステロペ。どうして勝手なことしたの?〗
黒い短剣は鼓動するように小刻みに光る。
〖う~ん・・・そう言われると理由はよく分からないのよ、メロペ。この人間を死なせちゃいけない気がしたのよね。勿体ないというか・・・この子の持つエーテルの匂いに引き寄せられちゃったのかしら?〗
白い短剣も小刻みに光る。
〖あ~! それはちょっと分かる! 何だかこの器見てると全力で楽しめそうって思っちゃう! 実はニュクス城からちょっと気になってたんだ♪〗
〖それはそうと・・・勢いで出てきたのはいいけどさ。結構やばくない?〗
〖まあ・・・確かにそうね。どうしましょう?〗
「・・・・・貴様ら」
怒りに支配されたゼウスの表情は険しいものになっていた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
また、評価・ブックマークもありがとうございます!
とても励みになっています!




