第91話 脳内会議
ゼウスの前に一人の男が立ち塞がる。
「貴様もこの私に歯向かうか、アレス」
ゼウスは眉を上げる。
「誰が世界を治めようが、誰が頂点に君臨しようが、そんな事はどうでもいい。だが、気に入らない奴に従うほど馬鹿じゃねえ」
「粋がるな。既に限界だという事くらい見れば分かる。大人しくそこを退け。言う事を聞けば殺すのは後回しにしてやる」
「・・・断る」
アレスは黒槍を構える。
「馬鹿が・・・」
ゼウスが手をかざすと、鋭い殺気を放ち空から長刀を携えた女性が高速で切り込んできた。
ゼウスは反射的に後方へ飛び退いた。
かすめた前髪がはらりと舞う。
「貴様は・・・」
テッサは長刀エレクトラを払う。
「テッサ。取るに足らないただの人間です」
「人間の割には流れるエーテルが尋常ではないな。精霊の力か」
「やはり精霊の存在を知っていましたか。ご明察です」
「お前・・・何しに来た」
アレスは予想外の助太刀に驚く。
「仲間がやられて黙っているほど、人間出来ていませんので。それと、お前ではありません」
「それはそうかも知れねぇが、さすがに相手が悪い。死ぬぞ?」
「やはり。以前と比べて少し印象が変わったように見えたのは気のせいではなかったようですね」
テッサはアレスに向き直り優しく微笑む。
「大丈夫です。無駄死にするつもりはありませんよ」
テッサはエレクトラを水平に構え、目を閉じる。
「起きなさい。エレクトラ」
辺り一面が銀世界に変わり、青白い小さな精霊がテッサの肩にふわりと座る。
〖ふわぁ~。おはようテッサ。今日はどうしたの~?〗
エレクトラは眠そうな目をこすり辺りを見回す。
「おはようございますエレクトラ。ここ最近運動不足でしょう? 久しぶりに気兼ねなく身体を動かすのはどうでしょうか?」
眠そうにしていたエレクトラの目が大きく開かれる。
やや興奮気味に、その目に光が宿った。
〖あはっ♪ なるほどね! あいつ、とってもおいしそう♪ 今まで出会った事ないくらい♪〗
エレクトラは珍しく理性を保つのがやっとの状態で、まるで取り憑かれたようにその小さな唇を舐めた。
〖でも、私にとっては有り難い話なんだけどテッサはいいの? さすがに今回は労わってあげられないかも〗
「構いません。自由に使ってください。普段のお礼という形でここはひとつ」
エレクトラはため息をつく。
〖テッサ、言い出したら聞かないもんね。分かった。なるべく無理はしないように一応ケアするけど、あまり期待はしないでね♪〗
エレクトラはテッサの身体に消えていく。
テッサの背中に6枚の青白い羽が生え、目を開けた目が青白く光る。
【行きます】
「フン。たかが精霊の力を借りたところで状況は変わらん」
「『雷雨』。」
おびただしい雷撃がテッサに向かい放出される。
テッサが神速で長刀を横薙ぐと大地から巨大な氷柱が突き上がり、避雷針のように雷撃を絡めゼウスに襲い掛かる。
無数の氷の柱はゼウスの前で全て停止する。
ゼウスの頭上から大量の稲妻が降り注ぎ、全ての氷柱を破壊した。
「無駄だ」
【あはっ♪ やっぱりこうでないと食べ甲斐がないよね!!】
テッサは一瞬で懐に入り込み長刀を振り上げる。
「ちっ!!」
ゼウスが手をかざすと、長刀は意思に反してその動きを止めた。
テッサはすぐに距離を取りその姿を消す。
今度は背後から目にも留まらぬ速さで斬りかかる。
同じようにその切っ先はゼウスの手前で停止し、微動だにしなかった。
再び距離を取り長刀を構え直す。
【これならどうかな?】
テッサが刀身を優しくなぞる。
長刀は青白く光り出し辺りに雪が降り始める。
テッサは思い切り踏み込みゼウスのサイドから切り込む。
空間が割れんばかりの激しい音と共に、やはり長刀は停止する。
「蝿がいくら纏わりつこうが結果は変わらん」
【う~ん。やっぱりダメかぁ。精霊の力は神術に左右されないはずなんだけどなぁ。あいつの力が余程異常なのね】
〖おい、エレクトラ。ちょっと変わってくれねえか? エーテルの流れを絶つ俺の力ならいけるかも知れねぇ〗
テッサの脳内に声が響き渡る。
【え~?! ダメだよ! テッサは私を選んだんだから! あいつの魂は私が頂くのっ!】
〖お前な・・・今はそんな事言っている場合じゃねえだろうよ。せっかく最高の宿主に出会ったってのに、ここで器を失っちまってもいいってのか?〗
テッサは顎に手を当て考え込む。
【それはそうだけど~。あいつの魂私にくれるって約束してくれるなら、少しは考えてあげてもいいよ♪】
〖いや、魂は俺がもらう〗
【はぁっ?! 何をふざけた事言ってるの?! ダメに決まってるでしょ!】
テッサの脳内で三人が議論を繰り広げる。
テッサはため息をついた。
『あの・・・今は喧嘩している場合ではないと思いますが・・・』
〖なぁ?! テッサも俺の方がいいと思うだろ?〗
【いや、私に決まっているわ! テッサ、アルシオーネは無視よ無視!!】
テッサの雪のような銀髪が次第に爽やかな黄色へ変わっていく。
六枚の青白い羽は四枚の透き通った黄色い羽に数を減らした。
四肢には風を纏い、深緑色の瞳を開く。
【いや~! やっぱりいつ同化しても心地いい身体だな!!】
テッサはその場で軽く跳ねる。
〖~~~!!! テッサの意地悪~~~!!〗
『そう言わずに、エレクトラ。勿論、勝手ながらあなたの力には絶大な信頼を寄せています。しかし、アルシオーネの言葉にも一理あるかと』
【ほら見ろ!! エレクトラは気分で行動しすぎなんだよ。もっとろんりてき? に考えないとな!】
〖絶対意味分かっていないクセに。まあいいわ。何よりテッサの判断だし、今回は譲ってあげる。たまには後輩に寛大な所見せないとね〗
テッサは肩と首を回す。
【さ~て。やりますか、テッサ】
「フン。今度は別の精霊か。精霊を変えたところで結果は同じだ」
【どうかな? やってみなくちゃ分からねえだろ?】
テッサは大地を蹴り音を越えてゼウスの眼前に迫った。
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