第90話 圧倒的な力
「汝にはもう少し働いてもらいたかったが、主に牙を剥くようでは致し方あるまい」
ゼウスが手を振り下ろそうとしたその時だった。
背後から赤髪の少女がゼウスの心臓めがけて短剣を突く。
ゼウスはまるで背中に目でもあるかのように難なく躱した。
「忌まわしき巨神族の生き残りが。その紋様を見るだけでも腹が立つわ」
ゼウスの掌から激しい雷撃が放たれる。
「うぅっ!!!」
ピュラの短剣が雷撃を無効化する。
「小賢しい。クロノスの入れ知恵か」
ピュラは体勢を立て直し着地した。
「おまえ、にけをきずつけた。ぜったいにゆるさない」
「はははっ!! 何を言い出すかと思えば!! くだらん!! 許さなければ何だと言うのだ? 絶滅種の巨神族ごときが!」
アシーナはふらつく足で何とか立ち上がる。
「・・・ダメ、ピュラちゃん。危ない・・・」
ゼウスは悪い笑みを浮かべる。
「そうか。そんなにあの災厄が大事か」
気付けばゼウスの金色の髪はアシーナのような常盤色に変色していた。
燃えるような赤い瞳がニケを見下ろす。
「貴様の目の前で、災厄に引導を渡してやろう」
ゼウスは再び掌を天にかざす。
「『裁きの天雷』。」
眠るニケの頭上に雷鳴が轟き、雷光が辺りを照らす。
極太の雷の柱がニケに降り注ぐ。
「させない!!!」
アシーナは力を振り絞り、小さな銀の盾を召喚しニケの前に立つ。
雷撃は銀の盾をものともせず盾ごとアシーナを打ち抜いた。
大地に響く轟音と共に地面が激しく揺れ動く。
閃光と揺れが止み、ようやく目を開けたピュラは愕然とする。
既に意識はない。全身から黒煙をあげ、それでもなおニケの前に立つアシーナの姿があった。
「あしー、な・・・?」
アシーナは力尽き、前のめりに倒れ込んだ。
「アシーナ様ぁーーー!!!!」
アポロンは咄嗟にアルテミスを押さえ込む。
「離してください!! アシーナ様が!! アシーナ様がっ!!!」
「落ち着け!! 今行っても無駄死にするだけだ!!」
「約束したんです!! どんな時でも傍に居るって!! 支えるって誓ったんです!!」
アルテミスは我を失いひたすら手を伸ばす。
アポロンの押さえる力が強くなる。
「お前にとってアシーナは大事な存在かもしれない。だが、たった一人の妹であるお前だって、俺にとっては失いたくない大事な存在なんだ・・・」
「・・・・・」
アルテミスはアポロンに抱かれ、放心状態で伸ばしたその手を静かに降ろした。
「フン。死にぞこないの裏切り者が余計な事を・・・まあいい。手間が省けた」
「また立ち上がられたら面倒だからな。確実に消し去ってやろう」
ゼウスに呼応するように再び雷鳴が轟き始める。
「やめて・・・」
必死に手を伸ばすピュラの願いは届かない。
ちっぽけな存在には見向きもせず、倒れるニケ達に止めを刺そうとするゼウスの姿が、まるで波立つ水面の様に揺らめいた。
「もうやめて・・・」
ピュラの中で何かが弾けた。
「やめてぇーーーーー!!!!!」
ピュラの悲痛な叫びにゼウスの手が止まる。
「何・・・?」
悲痛な叫びと共にピュラの姿がみるみる巨大化していく。
全身の黒き文様は鼓動するように赤く輝く。
無機質な鋭い碧眼がゼウスを捉える。
「グオオオオーーーー!!!!!」
凄まじい殺気を放つ雄叫びに、動きを封じられたクロノス達にも振動が伝わった。
「巨神族・・・・・」
アフロディーテは開いた口が塞がらなかった。
「驚くのも無理はない。滅びたはずの絶滅種なのだからな」
「果たして・・・ヤツを止められるか・・・」
クロノス達は戦いの行方を見守るしかなかった。
巨神は巨大な手で廃墟を掴み、ゼウスに向かい投げ飛ばす。
≪全知全能≫
襲い掛かる瓦礫は全てゼウスの手前で制止した。
「『雷雨』。」
激しい雷撃が瓦礫を粉塵に変える。
雷撃はそのまま巨神に矛先を向ける。
巨神が巨大な腕で雷撃を振り払うと、乾いた音を響かせエーテルに帰した。
巨神は大きく飛び上がる。
「ちっ。巨神族の割には俊敏だな」
全体重を乗せ腕を振り下ろす。
廃墟の町は一瞬で荒野と化した。
凄まじい衝撃波に、離れた場所で立ち尽くしていたデイモス達はたまらず吹き飛ばされる。
「うわあっ!!」
「きゃあっ!!」
一緒に吹き飛ばされてきた大きな瓦礫が転がる二人の前に迫る。
ミノス王は瓦礫を掌底で弾き飛ばし粉砕した。
「ミノス王!!」
エリスはミノス王の手を見て唾をのむ。
ミノス王の手から大量の血が滴り落ちていた。
「ああ、これね。強化の力は自分にかけると副作用があるんだ。これはその代償さ」
ミノス王は苦笑いした。
「巨神族ともなると、力はそれなりにあるようだな」
打ち付けた手はゼウスに届いていなかった。
「グオオオオオ!!!」
もう片方の腕を振り下ろす。
それでも攻撃をゼウスに当てる事は出来ない。
吹き荒れる衝撃波だけが広がる。
「無駄だ。私の前では如何なるエネルギーであってもその時を止める。貴様の攻撃が私に届くことは永久にない」
「『裁きの天雷』。」
轟く稲妻が束となり、巨大化したピュラをすっぽり覆う程の大きさの柱となって巨体に降り注いだ。
全身焼かれた巨体が大きく傾き、廃墟を破壊しながらうつ伏せに倒れた。
衝撃で大地が激しく揺れる。
巨体は光に包まれ縮小していき、やがて元の大きさに戻った。
ゼウスは何事もなかったかのように埃を払う。
鋭い真紅の瞳がガイアを捉える。
「さて。本命を頂きに行くか」
ゼウスは横たわるピュラには目もくれずその歩を進めた。
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