第87話 衝突する光闇
「ニケ・・・ニケまで私の邪魔をするの・・・?」
アシーナは拳を強く握る。
「ガイアもハデスも、お父様も・・・全員殺さないと平和な世界は訪れない」
「でなければ、お母さんは許してくれない・・・」
俺は首を振る。
「恐らく、それは違う」
「・・・何で、ニケが否定するの?」
「確かに共に過ごした時間はそう多くない。だが、メティスは常にお前の身を案じていた。いつもお前を残して神殿を去った事を後悔していた。あの表情を見れば、それが嘘ではなかった事くらい分かる」
「だったら・・・どうして戦わなくちゃいけなかったの? 私は早くこの無意味な争いを終わらせたかった。ただそれだけなのに・・・」
「既にお前も分かっているだろう? 全てゼウスが引き起こした事だ。2000年もの間エーテルを浪費し星の寿命を縮めている事も、世界を手中に収めるために侵略行為をしている事も。全てゼウスが元凶だ」
俺はアシーナを真っすぐ見つめる。
「はっきり言う。ゼウスはお前の事を愛してなどいない。数ある駒の一つとしてしか見ていない。思い当たる節はあるはずだ。お前は単にその事実を受け止められず、一方的に信じる事で自分を保っているに過ぎない」
「・・・そんな事ない。この争いを終わらせればきっと・・・」
アシーナはニケの目を見る事が出来ない。
ただうつむくしかなかった。
「なら聞くが、ゼウスは一度でもお前の話を聞いてくれたことがあったか?」
アシーナは頭を抱える。
「分かってるわよ・・・そうよ。信じられるものなんて何もない。だから、私が全てを終わらせるの。もう何も考えたくないの」
「この星の為にもガイア達はやらせるわけにはいかない。そして、ゼウスを殺すのはお前には荷が重すぎる。ヤツを殺すのは、俺の役目だ」
「アシーナ、もう一人で背負わなくていい。だから・・・」
アシーナは全力で首を振る。
「無理だよ・・・お母さんを殺めてしまったの。私はもう引き返せない。全員、殺すしかないの・・・」
アシーナの紋章が赤く光る。
「やれやれ。頑固なのは分かっていたが、ここまでとはな」
「お前の思い、メティスの代わりに俺が全部引き受けてやる」
≪黒の鼓動≫
俺は渦巻く黒霧を身体に纏う。
「来い」
アシーナの足元に巨大な魔法陣が展開される。
「どうせ、いつかはこうなったんだ。それならいっそ今ここで・・・」
≪絶対防御≫
「『モード・大地』。」
大きな地響きと共に現れた、絶壁のような巨大な岩の盾がアシーナを守るように浮遊する。
「あの野郎・・・まだこんなもん隠していやがったのか」
アレスは巨大な岩の盾を見上げ力の差を痛感する。
アシーナは手を空に掲げた。
すると浮島一つ分ほどの大きさの巨大な岩の球体が生成されていく。
「全員まとめて粉砕してあげる」
「『天隕石』。」
アシーナが腕を振り下ろすと、巨大な隕石はゆっくりと大地に接近する。
「・・・全く。凄まじい神術だな」
隕石に向け右手をかざす。
球体を覆う程の大きさの真っ黒のキューブが現れ岩の球体を包み込んだ。
俺は力強く右手を閉じる。
黒いキューブは球体を取り込んだまま急激に収縮し異空間へ消えていった。
アシーナは顔色一つ変えず追撃する。
手のひら大の小ぶりの岩がニケを囲うように空中に無数に現れる。
「『火花』。」
アシーナが呟くと小ぶりの岩は勢いよく破裂し、弾丸となりニケに襲い掛かる。
俺は素早く地面に手を当てる。
周囲が一気に凍り付き、数多の氷柱が大地から突き上がり岩の弾丸を全て貫いた。
俺は下半身に力を込め、勢いよく大地を蹴りアシーナに迫った。
アシーナは咄嗟に巨大な岩で防御態勢に入る。
「判断を誤ったな」
俺は黒霧を纏わせた拳を目にも留まらぬ速さで打ち抜いた。
アシーナを守る岩の盾は強い衝撃に一瞬で砕け散る。
地響きを立て岩の盾が崩れ去る。
「くっ!!」
アシーナはもう一枚の岩の盾を移動させニケを押し潰そうとする。
俺は右脚を地面に突き刺す事で軸を固定し、左足で盾を蹴り上げた。
もう一方の盾も跡形もなく粉砕された。
「そ、そんな!!」
アシーナの動揺をよそに、ニケは勢いを殺さず蹴り上げた足を彼女の脳天めがけて振り下ろす。
アシーナは後方へ跳ね手を開く。
「『モード・聖母』!!」
飛翔した光の盾が俺の足元に消えていく。
すると淡い光を放つ魔法陣が展開された。
「『聖域』!!」
合図と共にニケを取り囲むように光の柱が天に伸びる。
ニケは光に浄化され黒い霧となって消えていった。
アシーナはすぐに気配を察知し光の盾でガード態勢を取る。
俺はアシーナの後ろから渾身の拳を放ち、ガードする光の盾を粉々に粉砕した。
アシーナが左へステップを踏み回避すると、黒霧で作り出したニケの分身が鋭い回し蹴りを放つ。
アシーナはギリギリ躱しニケの蹴りは空を切った。
アシーナは額の汗を拭う。大分息も乱れている。
思った以上に消耗していた。
「まさか、盾が壊されるなんて・・・」
「やはり桁違いの才能だな。さすがだ」
ニケの分身は黒い霧となり消えていった。
「思ってもいないクセに。息一つ切らしていないじゃない。それに、闇の力の一部であるエーテルを吸収する能力も使っていない。その気になれば奪い取る事だってできるはずなのに」
アシーナは頬に滴る汗を再度拭った。
「心から思っているさ。だからこそ、尚更ゼウスの元に置いておく訳にはいかない」
俺は首を鳴らした。
「今更そんな事言われても遅いよ・・・ニケ」
アシーナは苛立ちにも似た感情を小さく吐き出す。
オリーブの紋章が赤く力強く輝き巨大な魔法陣を展開した。
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