第86話 弱者の失敗
アシーナの紋章が赤く光り輝く。
「これ以上調子に乗られても面倒だわ。さっさと死んで」
「『モード・石眼』。」
アシーナの背後に八首の巨大な大蛇が姿を現し、両脇には八つの丸い鏡の盾が出現する。
「おせぇ!!」
アレスはバルディッシュで薙ぎ払う。
大蛇は一瞬でその姿をエーテルに変え、鏡の盾も霧散した。
「くっ!! 『モード・反射』!!」
アシーナは美しい純白の盾でアレスを振り払う。
「ぐっ!!」
凄まじい勢いで吹き飛ばされたアレスは瓦礫に衝突する。
バルディッシュは光の粒子となり消えていった。
「・・・まだだ」
アレスは震える足で何とか立ち上がる。
「さっきから何なのよ! 邪魔しないでよ!! ガイアを、そいつらを殺すの!! そうすれば争いはなくなる!! 私が平和な世界を創るの!!」
「・・・てめぇは馬鹿か?」
「・・・何ですって?」
アシーナはアレスを睨む。
「仮に、今のお前が世界を統べる三神全員を殺し、この世界の頂点に立ったとしても誰もついていかない。やろうとしている事はゼウスと同じだからな」
「え・・・?」
アシーナは紅蓮の瞳を見開いた。
「あの貧弱なアルテミスはお前にベッタリだから知らんが、少なくとも・・・アポロンもアフロディーテのヤツも俺と同じ事を思うはずだ」
アレスは滴る血を拭う。
「何があったかは知らんが、今のお前はただ駄々をこねるクソガキと一緒だ。泣き虫だったとはいえ、ガキの頃のお前の方がよっぽど筋を通していた」
アシーナは拳を握る。
「あなたこそ、そうやって過去の話ばかり持ち出していつまで経っても成長していないじゃない!!」
「ははっ・・・全くその通りだ」
アレスは深く息を吐く。
「だが、オリンポスが襲撃されて俺は如何に己が弱い存在かを思い知った。己の事しか考えずに生きてきた結果、仲間を失う所だった。己の無力さに腹が立った。そして自分にとって大事なものを見つけた」
真っすぐアシーナを見つめる。
「だから誓った。もう二度と、仲間を危険に晒さない事を。この手で仲間を守る事を」
「お前は何のために戦う? 誰のために戦う? 今のお前に信念はあるのかよ?」
「私はっ・・・!!!」
アシーナは歯を食いしばる。
「あなたには分からない。誰にも私の気持ちなんて分からない・・・」
「『モード・断罪』。」
激しい閃光を放ち、ほとばしる電撃がアシーナを包み込む。
「ちっ! これだけの神術展開してまだ底つかねぇってか・・・化け物が」
アシーナの正面に稲妻を模した黄色い光に包まれた刺々しい盾が一枚出現した。
盾から発せられる電撃がアシーナの周りを駆けまわっている。
アシーナは三体の石化に手をかざす。
「考えてみれば、わざわざあなたの相手をする必要なんてないのよね」
アレスは全霊を込める。
「『ランク7』!!」
アレスは緑色の風を全身に纏い深緑の槍を携え三人の元へ向かう。
「『慈悲なき審判』。」
上空から、迸る稲妻が激しい雷撃となり石化した三人に襲い掛かる。
「『轟乱』!!」
アレスは三人の前に立ち、柄部を分離し大地に二本の槍を突き刺した。
巨大な緑色の魔法陣が展開され、激しい風が周囲を巻き込み螺旋状に上昇していく。
「おおおおおおお!!!」
バンダナは弾け飛び燃える髪は空へ伸びるように揺らめく。
緑の嵐はやがて一つの大気の壁となり上昇し雷撃と激しくぶつかり合う。
大気の壁は雷撃を押し返し共に空の彼方へ霧散した。
「ハァッ・・・ハァッ・・・!!」
アレスは全身の力が抜けその場に膝をつく。
深緑の槍は静かに消えた。
「クソが・・・!! なんてエーテルだ・・・!!」
「へぇ・・・弱者のアレスにしてはよく粘った方じゃない。怒りを通り越して尊敬するわ」
アシーナは手を天に掲げる。
(汗が止まらねぇ・・・呼吸をするのがやっとだ・・・)
アレスは圧倒的な威圧感を放つアシーナを見上げる。
「でも残念。さすがに限界のようね。あなたのその誓いとやらは守れそうにないわね」
激しい雷鳴と共に再び空が閃光を放つ。
「あなたの力なんて所詮そんなものよ。もう満足でしょ? このままそこの三人と一緒に仲良く消し去ってあげるわ」
「ったく、・・・言わんこっちゃねぇ。やっぱり無理じゃねえか・・・まあ、分かっていた事だが・・・悪いデイモス、エリス。後は任せた」
アレスは両手を開き目を閉じた。
「『慈悲なき審判』。」
激しい雷鳴を轟かせ太い雷撃がアレス達に降り注ぐ。
≪黒の鼓動≫
突如アレスの前に黒霧の腕が現れ雷撃を受け止め吸収していく。
アレスは恐る恐る目を開ける。
そこには全身黒に身を包み夜空の様に流れる黒髪をなびかせる男が立っていた。
「凄まじいエーテルだな。さすがアシーナだ」
俺は掌を見つめアレスを見下ろす。
「とりあえず生きているようだな」
「・・・ニケか。なるほどな。こいつはまた想像以上の化け物が現れやがった」
「そこのゼウスもお前もどうなろうと知った事ではないが、クロノスとガイアを失うわけにはいかないからな。一応礼は言っておこう」
「・・・フン。そんなもんいらねぇ。今はあの泣き虫真面目野郎をどうにかする方が先だ」
俺は光を放つお守りを握りアシーナに向き直る。
「ニケ・・・どうして・・・?」
まるで呼応するように、大きく目を見開くアシーナの胸のお守りも強い輝きを放っていた。
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