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第81話 悪魔の戯れ


ヘラクレスは力強く大地を蹴りニケに迫る。


「砕け散れ!!!」


凝縮されたエーテルを纏う拳が襲い掛かる。


俺は黒霧の濃度を右腕一本に集中させる。


全てを飲み込むように黒霧のオーラはうねり増幅していく。


一直線にヘラクレスへ突撃し、拳と拳が激しくぶつかり合う。


衝突で起きた凄まじい衝撃波は、辺りの瓦礫や魔物の群れを吹き飛ばし消滅させた。


黒霧を纏った拳は鍛え上げられた剛腕を粉々に砕き、その肩まで一気に貫通した。


巨体が大きくバランスを崩し脇腹が開く。


勢いを緩めることなく黒霧を纏わせた左拳を空いた脇腹へ突き上げた。


胸元まで深くえぐり取られた巨体は大きく吹き飛び、大地を激しく揺らした。


「がはっ!!!」


大の字に倒れたヘラクレスには、もはや指先一つ動かす力も残っていなかった。


辺り一帯が荒野と化したその場にニケだけが立っている。


「勝負あったな」


「純粋な殴り合いで負けるとはな・・・完敗だ」


「俺達は役目を果たした・・・もはやお前を止める理由がない・・・」


ヘラクレスは力なく微笑む。


「適切な表現なのかは分からないが・・・久しぶりに心が躍る戦いだった」


戦闘においてこんな感情を抱いたのは初めてだった。


ヘラクレスという武人に心からの敬意を表する。


「ははっ・・・そいつは・・・光栄だ」


ヘラクレスはゆっくりと目を閉じた。


ヘラクレスの雄姿をその目に焼き付け、俺は踵を返す。


俺は仄かに光るお守りを手に取る。


「・・・アシーナ」


お守りを握りしめ、無意識に巨大なエーテルの流動を感じる方へ走り出した―――。




テッサとアレスは激しい攻防を繰り広げる。


「ちっ!! そこを退けと言っているだろうが!!」


アレスは遠心力を利用し青い槍を薙ぎ払う。


テッサはエレクトラで華麗に衝撃をいなした。


「女神ガイアを渡すわけにはいきませんので」


「ガイアなど興味ねえ! 俺にはやらなければならない事が・・・」


アレスとテッサは異様なエーテルを察知した。二人の手が止まる。


「アレス君!!」


ミノス王が険しい顔で声を張り上げた。


「分かってる! あのバカが・・・」


アレスは舌打ちする。


「何なのですか。この異常なエーテル量は・・・」


デイモスとエリス、そしてピュラも攻撃の手を止めていた。


「・・・・・あしーな?」


アレスは槍を構える。


「悪いが遊んでいる場合ではなくなった」


テッサは咄嗟にエレクトラを構える。


『ランク7』


アレスの周りを緑色の風が取り巻く。


やがてアレスの四肢に緑色の風が渦巻き、右手には柄から二方向へ伸びる深緑色の槍が握られた。


アレスが槍を構えると同時にその姿が消える。


テッサはその速さに一瞬アレスを見失う。


テッサがアレスを認識した時、すでにアレスは懐に入り込んでいた。


アレスは流れる動きで柄を二つに分け、柄部でテッサの鳩尾(みぞおち)を的確に打ち抜いた。


テッサは大きく吹き飛ばされ廃墟に激突する。


「しばらくそこで寝ていろ」


「デイモス! エリス! そこのチビは任せるぞ!!」


二人は大きく頷いた。


アレスは全速力で巨大なエーテルを感じ取った方向へ駆けていった。


「アレス君、頼んだよ」


ミノス王はアレスの背中を見送った―――。




「・・・やっぱり、あなたはそっちを選択したのね」


空を仰ぐペルセポネのその表情は儚く寂しげだった。


「急にどうしたのよ?」


アフロディーテは心配した様子でペルセポネの目線を追う。


「これはっ・・・?!」


アフロディーテは良く知るエーテルを感じ取った。そしてすぐにその違和感に気が付いた。


「何かあっちのほう、すっごいエーテルだね!! 楽しそう♪」


イリスは目を輝かせる。


「フッ。アシーナのヤツ、反対していた割には随分と張り切っているではないか。結局、あいつも闘争本能からは逃れられないのだ」


ヘラは鼻で笑う。


「私、ちょっと急用を思い出しちゃった」


「はあ?! こんな時に何言い出すのよ!」


アフロディーテは驚きの声を上げる。


ペルセポネの表情は怒りに満ちていた。


「さっさと終わらせるわ」


ヘラは声高に笑う。


「大した自信だ。やってみるがいい」


武装血界(ディアヴォロス)


ペルセポネの足元に赤色の魔法陣が展開される。


「メロペ、アステロペ」


ペルセポネが呟くと、両脇に浮遊する双剣は彼女の四肢を切り刻んだ。


「なっ?! あんた、いきなり何するのよ?!」


ペルセポネは止血するどころか目を閉じそのまま静かに立ち尽くす。


段々と、彼女の足元に光る魔法陣内が血の海で満たされていく。


「今回はこれくらいかな」


ペルセポネの足首まで血液が溜まった所で流血は止まった。


流れた血液は魔法陣の力で浮き上がり、彼女の頭上で真っ赤な球体を形成していく。


まるで沐浴するように血液の球体はペルセポネの体に降り注いだ。


ペルセポネを覆った血液は生き物のように僅かに波打ち、鎧のように全身に膜を張る。


黒い角は倍ほどに伸び、手足には黒く禍々しい爪。


葡萄(えび)色の髪は漆黒に変わり、背中からは縁の黒い赤色の羽そして同じ配色の長い尻尾が勢いよく生える。


自らの血液でコーティングされた麗しい女性は、その姿を見るからにおぞましい悪魔に塗り替えた。


「何それ~! さっきの方が私の好みなんだけどな~。悪魔みたいな首を飾っても綺麗じゃないよ」


イリスは肩を落とす。


「まあいいや! 殺せば元に戻るよね?」


イリスは虹の風となり、真っ赤な悪魔と化したペルセポネに向かい吹き荒れる。


「うそ?! 固っ!!」


ペルセポネは何事もなかったように腕を天に掲げる。


「無駄だよ! 風の私には攻撃は当たらない」


腕を振り下ろした瞬間、五本の細い衝撃波が発生しイリスを真っ二つに両断した。


衝撃波は遠くの魔物の群れをも両断し消えていった。


「・・・え?」


何が起こったのか分からない様子のまま、両断された身体は地に転がった。


「あらあら。意外と脆いのね? ちょっと強度を上げ過ぎたかしら? やっぱりさじ加減が難しいわね~」


ペルセポネは確かめるように手を開閉する。


「ごめんなさいね。『武装血界(ディアヴォロス)』は実体の有無に関係なく干渉するのよ。って言っても遅いか♪」


ペルセポネの左右から、瓦礫と魔物が引き寄せ合い挟み撃ちにするように高速で迫る。


「潰れろ!!」


ヘラは隙を突きペルセポネを襲う。


ペルセポネはその場に立ち尽くしている。


瓦礫と魔物が激しく衝突し周囲に衝撃が拡散する。


衝撃の強さに目を閉じるアフロディーテの体がふらつく。


ゆっくりと目を開いたアフロディーテは信じられない光景を目にした。


「嘘・・・」


瓦礫も魔物も、両手を水平に伸ばしたペルセポネの手前で静止している。


やがて磁力を失ったそれらは大きな音を立て地面に落下した。


「フン。少し止めたくらいで調子に乗られては困る」


ヘラは両手を水平にかざす。


右手の先には廃墟。左手の先には魔物の群れ。


それぞれ黒と白に変色する。


「はあああ!!!」


ヘラが叫ぶと、黒と白の領域が凄まじい速さで拡大していく。


「ちょっと・・・反則でしょあんなの」


アフロディーテは、その規模の大きさに絶句する。


無数の瓦礫の山と魔物たちが、まるで無重力空間にいるかのように浮遊していた。


「数が多い程磁力はより強力になる。貴様に耐えられるか?」


ヘラが両手をクロスさせると、浮遊していた瓦礫の山と無数の魔物がペルセポネに吸い寄せられるように襲い掛かる。


「『悪魔の愛撫(ミクロス・フィリア)』。」


ペルセポネが突き出すように開いた両手を眼前にかざす。


襲い掛かる瓦礫や魔物の群れがすっぽり収まるほどの大きさの真赤な悪魔の腕が出現し、それらを残らず握り潰した。


「おのれっ!!!」


アフロディーテは目の前で起きた事にただ驚愕していた。


ペルセポネの真赤な羽が一度だけ羽ばたくところまでは視認できた。


悪魔の姿を捉えた頃には、彼女はその禍々しい腕をヘラの脇腹に貫通させていた。


「き、さま・・・」


ペルセポネが腕を引き抜くと、大量の血を噴き上げヘラは大地に沈んだ。


「はい、終了っと」


ペルセポネの姿が元に戻っていく。


「あ、あんた一体何者なのよ」


「あれ? 言ってなかったかしら? 私は奈落の闇(エレボス)・タルタロス支部のリーダーよ♪」


アフロディーテは額に手を当てる。


「支部ってあんた・・・そんなきちっとした組織なわけ?」


「私が勝手にそう呼んでいるだけよ♪ いかにも裏の組織みたいで恰好いいじゃない?」


アフロディーテはため息をつく。


「あんたがリーダーだと、ついていく方は大変そうね・・・」


「何それひどくない? これでも皆慕ってくれるのよ?」


(まあ、それもそうか。あんなもの見せつけられたら・・・)


「あ、そうそう! 掃除屋が掃除を忘れるわけにはいかないわ!」


ペルセポネは黒霧の腕を生成し、ヘラとイリスの亡骸を吸収する。


吸い取った腕を眺める。


「やっぱり、私好みじゃないわね・・・まあ、どの道ニケ様に差し上げるからいいけど」


「さ、行きましょうかアッフィー」


アフロディーテは思わず咳き込んだ。


「ニックネームで呼ばれるほど仲良くなった覚えはないわよ! それに、アッフィーってのは止めてくれないかしら? いけ好かないどこかのロリババァを思い出すから」


「えー! 我ながら結構いいセンスしてると思うけどなぁ。あなたの名前長くて呼びにくいし」


「どこがよ?! あのババァといい、あんたといい、失礼にも程があるわ!」


ペルセポネは急に真剣な眼差しを向ける。


「な、何よ」


アフロディーテはたじろぐ。


「あなたも感じているわよね? このとてつもなく大きなエーテル」


「もちろん。よく知っているものだわ」


ペルセポネは歩き出す。


「私、ちょっと説教しに行ってくるわ」


「せ、説教って誰に? 話が見えないんだけど?」


アフロディーテは小走りで後を追う。


「温室育ちの甘ったれに、よ」


ペルセポネの背中は、混ざり合った深い怒りと悲しみを背負っているように見えた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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