第76話 翻弄される美女神
アフロディーテはガイアに指示された南東方面へと駆けていく。
「まだゼウスの軍はここまで来ていないわね」
魔物の群れを追い越しながら辺りを警戒する。
しばらく走っていると、ふわりと柔らかい向かい風を受けた。
「・・・・虹色の風?」
アフロディーテが前に意識を戻した瞬間、周りの魔物達が瞬く間に切り刻まれていった。
「なっ!!」
アフロディーテは咄嗟にケストスで身を包み空中へ逃げた。
「おお~!! それがケストスってやつ?! 空も飛べるなんて超便利だね!」
切り刻まれた魔物の死体の中心に虹色の風が渦巻いている。
やがて虹色の風は人の形を取り、虹色の髪の女性が姿を現した。
「誰? あなたのような品の無い女は知り合いにはいなかったはずだけど」
「そっか! 自己紹介していなかったね! 私はイリスだよ!」
「オリンピア上級学院はとっくに卒業しちゃったからね! っていうか、品がないって先輩に対してひどくない?!」
アフロディーテはため息をつく。
「あなたの後輩になった覚えはないわ。それより、目的は何なの?」
イリスは満面の笑みで応える。
「そりゃあ女神ガイアの捕獲だよ♪」
「そう。ならあなたとは仲良くなれないわね。ここで死んでもらうわ」
アフロディーテの周りに赤い薔薇の花びらが舞う。
「え~?! 会っていきなり?!」
アフロディーテはイリスに向けて花びらを散らす。
「生憎、待つのは嫌いなの」
イリスは虹の風を起こし花びらを自身から遠ざける。
アフロディーテが指を鳴らすと、華麗な花びらからは想像もできない大爆発が巻き起こった。
「そういうの、大好き♪」
イリスは唇を舐め虹の風となり宙を舞う。
「可愛い鳴き声聞かせてね!」
背後から現れ両手で虹のつむじ風を作り出しアフロディーテを挟み込む。
アフロディーテはケストスで身を包み、ギリギリのところでつむじ風を躱した。
「いい反応速度ね! さすがは現役エポヒ!!」
着地したアフロディーテは髪を掻き上げる。
「それはどうも。ま、あたしはエポヒなんて肩書どうでもいいんだけど。試験だって選ばれたから仕方なく受けたようなものよ」
「あら? そうだったの? あ、そっか! 君、アース出身だもんね。そりゃよそ者からしたらエポヒなんてどうでもいいよね」
イリスは激しく頷く。
「いちいち癇に障る言い方ね。まあ、その通りだけど」
イリスの周りに薔薇の花びらが舞う。
「見た目によらず好戦的だね! そういうのも好き!」
イリスは爆発の合間を縫って虹の風となりアフロディーテに迫る。
咄嗟にケストスで風を振り払う。
「っ!!!」
捌き切れなかった風がアフロディーテの肉体を切り裂いた。
「あははっ!! このままバラバラに切り刻んで、その綺麗な首持ち帰って部屋に飾ってあげるよ♪」
「私が綺麗なのは当然として、そんな趣味に付き合う気も、あなたの玩具になるつもりもないわ。私の美貌は皆が羨むべきもの。たかが一人が愛でるには荷が重すぎるわ」
「気が強い所も私の好みだよ! ますます持って帰りたくなっちゃった!」
イリスは再び風となり縦横無尽に吹き荒びアフロディーテを襲う。
アフロディーテは自身の周りに環状に花びらを振り撒いた。
風をギリギリまで引きつけ、タイミングを見測り合図と同時に爆発を起こした。
「だから無駄だって!!」
イリスは難なく爆発をすり抜け上空からアフロディーテ目がけて吹き抜ける。
「ああっ!!!」
ケストスで防御するが隙間から通った風が肌を切り裂く。
「どうする? 諦める? そうしてくれれば私としても助かるんだけどな~。あまり傷つけちゃうと、飾る時に見栄えが悪いし」
「何を寝ぼけた事言っているの? そんな事するくらいなら死んだ方がマシよ」
(とは言っても、ちょっと相性が悪いかしら・・・女が相手というだけでも面倒くさいのに。全く・・・帰ったらガイアに文句言わなきゃ気が済まないわ)
アフロディーテが策を巡らせていると、両サイドから巨大な白と黒の魔物の死体が襲ってきた。
瞬時にケストスで空中へ逃れる。
魔物の死体は互いに衝突し血しぶきをあげ砕け散った。
「な、何なのよ一体・・・」
「随分いたぶっているようだな? イリス」
遠目に人影か歩いてくるのが見えた。
両肩に陰陽対極を思わせる白黒の模様が光っている。
「あ! ヘラ!! どうやって綺麗に殺そうか悩んでいたんだよ」
虹の風は人影の方へ流れていく。
「ヘラ? まさかゼウスの正妻である、あのヘラ?」
「ほう。私を知っているか」
「そりゃあ浮島五つの領主の名前くらいは一応ね」
(最悪・・・イリスの相手だけでも面倒なのに、ヘラまで相手にしなきゃならないなんてツイてないわね)
巨大な恐竜の姿をした魔物がヘラとイリスを喰らおうと襲い掛かる。
「邪魔だ」
≪愛し合う者≫
ヘラが右手をかざすと魔物の体が黒色に変化した。
左手で魔物の群れのうちの一匹に向かい手をかざすと、対象となった魔物の体は白色に変化した。
その瞬間、黒と白の魔物が互いに引き寄せられ勢いよく衝突した。
骨が砕ける音が響き渡り、魔物は血しぶきをあげ断末魔と共に肉塊に変わる。
更に強度は増しやがて二体の魔物は一つの塊と化した。
「何なのあれ。魔物が融合した・・・?」
「も~らい!!」
肉塊に気を取られていたアフロディーテにイリスが背後から襲い掛かる。
「!!!」
アフロディーテは何とか躱しケストスで地面に移動する。
「ほんと無駄に早いわね! っ?!」
アフロディーテは前方に注意を向ける。
黒色に変化した先程の魔物の肉塊が勢いよく眼前に迫る。
同時に背後から白色に変色した魔物が引き寄せられ、高速でアフロディーテを挟み撃ちにする。
「やばっ!!」
アフロディーテは反射的にケストスで身を包み目を瞑った。
「二対一で少女をいたぶるなんて、ちょっと趣味悪いわね~」
突如大地が大きく揺れ動く。
アフロディーテは恐る恐る目を開けた。
「え?」
アフロディーテに迫っていた白黒の塊は、それぞれ剣が刺さりその動きを完全に止めていた。
「何者だ?」
ヘラは空を睨む。
頭に生えた特徴的な黒い角、赤いドレスを着た葡萄色の美しい長髪の女性が地面に降り立った。
「あらあら。怖い顔ねぇ~。そんな顔ばかりしていると老けるわよ?」
「・・・何だと?」
ヘラはドレスの女性に殺意を向ける。
「あちゃ~・・・」
イリスは恐ろしさのあまり顔を覆った。
「私はペルセポネ。クロノス様の正妻、そしてニケ様の彼氏でっす♪」
ペルセポネはドレスの裾を掴み優雅に挨拶した。
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