第75話 ザクロの木
獅子の毛皮を被った大男を取り囲むように魔物の群れが押し寄せる。
「はっはぁ!! 全力でかかってこい!!」
獣の姿をした魔物が大男に飛びかかる。
ヘラクレスは豪快に笑いながら巨大な獣の魔物の頭を掴んだ。
ヘラクレスの腕が盛り上がり、骨を砕く音と共に獣の頭部を握り潰した。
弾け飛び散った血が彼の顔を汚す。
「オラァ!!!」
ヘラクレスは大地に向かい強烈なストレートを打ち付ける。
その瞬間、大地から激しい地響きと共に発生した衝撃波が彼を取り巻いていた魔物の群れを跡形もなく消し飛ばした。
「活きのいい奴らが多いのはいいが、少々物足りねえな」
霧散するエーテルに囲まれたヘラクレスは返り血を舐め不敵に微笑む。
「あまり遠くへ行くと効果が弱まってしまいますよ」
「はは!! 悪い悪い。後方で待機ってのは俺の性分に合わなくてな。それに、俺の近くにいた方が逆に安全かもしれねえぞ」
デメテルはため息をつく。
「それはそうかもしれませんが、限度というものがあります。なぜ私のような支援向きの術者が最前線に来なければならないのですか・・・」
「よく言うぜ。それでも死ぬ気はねえだろ? それに、『不死の果実』だっけか? デメテルの能力は俺の武力を最大限活かすため、近くにいる方が遥かに効率的だ」
「確かに、私の目の届く範囲に居てくれた方が効率的なのは間違いないのですが、一度にそう何本も植えられませんし言うほど簡単ではないのですよ」
デメテルは後方を振り返る。
やや遠目に光の巨大なザクロの木が生え太い光の根を下ろし広範囲に広がっていた。
光の木が根差す範囲内が淡く緑色に光っている。
『不死の果実』は巨大なザクロの木の範囲内にいる、デメテルが味方と認識している対象の生命力を飛躍的に向上させる。
対照の距離が木に近い程その効果が強くなり、木を視認できる範囲まで効果は受けられるが離れるほどその効果は薄まる。
光の木に一定時間置きにザクロの実をつける。
これを食すと、例えば失った腕なども再生する程に生命力が跳ね上がる。
「私が言うのもどうかと思うのですが、ヘラクレスのその驚異的な身体能力があれば私の力は必要ないように感じますけどね」
ヘラクレスは豪快に笑う。
「ははっ!! そりゃそうかも知れないが、そのおかげで心置きなく戦えているのも本当さ。俺の武力とデメテルの能力は相性最高ってことだな!」
「では、その力を如何なく発揮してもらいましょうか」
デメテルは高くそびえる廃墟を見上げる。
「こりゃあまた随分な大物が現れたもんだ」
ヘラクレスが見上げる先に、全身黒ずくめの金色の瞳の男が見下ろしていた。
デメテルの表情が変わる。
「神のエーテルを半分しか感じ取れない。あいつが半神半人の災厄、ニケですか」
「なるほどあいつが噂の・・・確かにこれまで出会った奴の中でもダントツの威圧感だ」
ニケは黒い霧を発生させその場から消えた。
「おい、ガイアはどこにいるか知っているか?」
ニケはいとも簡単にヘラクレスとデメテルの間に現れ、ヘラクレスに問いかけた。
「へぇ・・・」
(まるで気配が感じられなかった。こいつ・・・)
「知らないと言ったら?」
「ならば用はない。消えてもらうだけだ」
ヘラクレスはニヤリと笑う。
振り向くと同時に渾身の右ストレートを放つ。
凄まじい衝撃波がデメテルを襲い、たまらず体制を崩した。
ニケは片腕一本でそれを制す。
「ははっ!! 俺の拳を素手で受けきった奴は初めてだ!! こりゃあ愉しめそうだ!!」
「そうか? 退屈な時間になりそうだが」
「そうかい!!」
ヘラクレスはニケの空いた右脇腹めがけて拳を打つ。
ニケは瞬時に右脚を上げ拳を受ける。
ヘラクレスは後ろへ飛び距離を取った。
「どうすりゃそんな頑丈な身体になるんだ? 俺もタフさには自信があるが、あんたのそれは少し意味合いが違う。取って付けたような、そんな固さだ」
「ほう? 優れた洞察力だな。野性の勘ってやつか?」
俺は素直に感心した。
「これでも一応『英雄』やってんだ。それくらいは拳を交えれば分かる」
ヘラクレスは首を鳴らし構え直す。
「少しギアを上げるか」
「付き合ってやろう。やってみろ」
俺は挑発交じりに手招きした。
ヘラクレスは高揚感で歯をむき出して笑う。
ヘラクレスが大地を蹴った瞬間、まるで隕石が落ちたように地面が陥没した。
「オラァ!!!」
高速で迫ったヘラクレスはニケに向かい拳を放つ。
『黒の鼓動』
俺は咄嗟に黒い霧を発生させ、クッションにし両腕でガードするが間に合わない。
強い衝撃で吹き飛ばされないよう踏ん張る地面が深く抉れ、後方へ大きく飛ばされた。
廃墟の建物を幾つも貫通し、激しく地面を転がる。
土煙が立ち昇りヘラクレスの視界を遮った。
しばらくすると、土煙の中からゆっくりと人影が歩いてくるのを確認できた。
「へぇ~。これでも壊れないのかい。こりゃあ驚きだ」
黒霧を纏った俺は土埃を払い首をさする。
「ただの人間にこんな飛ばされ方をしたのは初めてだ。人間の身体能力としては驚異的だな」
「ははは!!! そんな余裕の佇まいで言われても全然嬉しくねえよ!!」
どうやら『英雄』は飾りではないらしい。
少し考えを改める必要があるか。
「お前も俺の血肉となってもらおう」
俺は深く息を吐き構え直した。
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