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第74話 Drawing


俺は巨大な廃墟の上に立ち遺跡都市を眺めていた。


眼下には喧騒や咆哮が響き魔物の群れがゼウス軍であろう部隊と交戦している。


「やれやれ・・・ガイアの元へ行きたかったのだが、外れだったか」


できればガイアの傍へ出て来ることを望んでいた。


なぜなら、ゼウスの狙いがガイアである以上彼女の元へ行けばゼウスを殺れる絶好の機会だからだ。




事は少し前に遡る――――。


「おい、アースへはどうやって行くつもりだ?」


それぞれが準備を進める中、俺はクロノスに問いかけた。


「俺がゲートを開く。ガイアの『千里眼(プロフィティア)』により、前もってゼウスの軍勢が攻めてくる場所は把握しているからな。アース神殿の正面と、神殿を囲むように四つ、計五つの地点にマーキングしてあるはずだ。ゲートをくぐればその地点に移動できる」


「ただ、どこに繋がるのかはゲートをくぐらなければ分からない。距離が遠すぎて細部まで調整ができないのだ。そこは許してほしい」


「そう言えば・・・」


テッサは思いつたように口を開く。


「ペルセポネさんと出会った時、彼女の気配を全く感じなかったのですが、あれは何だったのですか? ニケさんやピュラさんの鼻にも反応しませんでした」


「説明していなかったな。あれは俺の能力だ。といっても、本来はハデスのものだがな」


「『影の浸食(イスキオス)』。俺が触れた対象物の姿を、一定時間完全に消し去る力だ。数に限りはないが、消す数が多いほど持続効果が短くなる」


「なるほどな。道理で匂いがしないわけだ」


俺は鞘に納めた短剣をピュラの腰に巻きなおす。


クロノスは短剣に目をやる。


「その剣、借りてもいいか?」


「構わないが」


俺は短剣をクロノスに手渡した。


「アースでは命の保証はできんからな」


クロノスは手に持った短剣をもう一方の手でなぞるように念じる。


すると短剣は巨神族に刻まれた紋様と似たようなものが出現し、短剣の周りを取り巻いた。


しばらくすると紋様は剣の中へ納まった。


「一体何をしたんだ?」


俺は受け取った短剣をピュラの腰に巻く。


「少し細工をした。これで神術を物理的に切断する事が可能だ。少しは役に立つだろう」


メティスは一人、星々の瞬く光の帯を見上げていた。


「あらあら。黄昏ちゃって。どうしたの? 今更怖くなったとか?」


「お前と一緒にするな。それより、結局お前の部下は来ないのか?」


「あ~。アレクトとメガイラね。あの二人はちょっと野暮用♪ 今回はこっちに参加しないわ。本当なら私があっちだったんだけど、ゲームで負けちゃったからね」


ペルセポネはウインクする。


「全く。貴様らは相変わらずだな」


「あなたたちが固すぎるのよ」


メティスは否定しなかった。


「・・・娘さんの事、考えてる?」


「まあ、な」


「アシーナちゃんと戦いたくない?」


ペルセポネも瞬く光の帯を見上げる。


「自分の娘に望んで暴力を振るう親などいないさ」


メティスは星空を見上げたまま答える。


「アシーナは優しい。ゼウスのやり方とは根本的に合わない。奴の下にいてはストレスが溜まっているんじゃないかと思ってな。アシーナを残しオリンポスを離れた私に心配する権利などないが」


メティスは苦笑いする。


「あなたって、意外と娘さん思いなのよね。普段は高圧的で近寄りがたいのに、アシーナちゃんの事を考えている時だけは、慈愛に満ちた表情(かお)してる」


メティスは鼻で笑った。


「だけ、は余計だ。まあ、否定するつもりもないが」


「貴様にも、いつか分かる時が来るさ」


「私はまだ分からなくてもいいかな~。まだまだ遊びたいし、ニケ様もいるしね♪」


ペルセポネは悪戯っぽく笑う。


「ニケ様にはアシーナがいるといっているだろう」


「分からないじゃない。ニケ様、意外と押しに弱そうだし? その気になれば振り向かすのは案外簡単かも♪」


「貴様っ!!!」


ペルセポネはメティスの動揺に思わず笑う。


「冗談よ。それに、私には本命がいるからね・・・」


ペルセポネはニケと会話するクロノスを眺める。


「皆、準備はいいか」


クロノスは玉座の前に皆を集めた。


「地上領域アースの防衛および女神ガイアの保護が最優先だ。可能であればゼウスの討伐も視野に入れるが、無理はしなくていい。ゼウスが『千里眼(プロフィティア)』を手に入れれば、この世界の均衡が崩れる。そうなれば、奈落の闇(エレボス)も駆逐され星にエーテルを返還する事ができなくなる」


「ガイアがゼウスの手に落ちれば、世界が終わる。それだけは絶対に阻止する」


クロノスは大鎌を床に突き刺す。


すると強烈な破裂音と共に五つの黒いゲートが出現した。


「どこに繋がるか分からん。直感で選べ」


それぞれが直感に従い左からメティス、ペルセポネ、クロノス、ニケ、テッサ、ピュラの順にゲートの前に立った。


「ピュラさんがニケさんから離れるなんて珍しいですね」


「にけ、すぐだめっていうからてっさがいい」


俺はため息をつく。


「お前、本当に反抗期なのか? 今はそんな事言っている場合では・・・」


「ピュラさんも少しずつ成長しているという事でしょう。見守ってあげるのも親の務めだと思いますよ」


「親になった覚えはないが、まあいい。あまり無茶はするなよ、ピュラ」


「だいじょーぶ!!」


クロノスはゲートに向かうテッサ達に拳を出す。


「念のためだ。触れていけ」


テッサが拳を交わすと、空間が歪みその姿が消えた。


その様子を見ていたピュラも目を輝かせ軽く飛びクロノスと拳を交わすと、ピュラの姿も見えなくなった。


「おお~~~!!!」


ピュラは思わず歓喜の声を上げる。


「それではまた」


テッサとピュラはゲートをくぐって行った。


「我らも行くぞ。あまり長居する理由もない」


「それもそうね」


ペルセポネとメティスもクロノスと拳を交わし、姿を消しそれぞれのゲートの前に立つ。


「この戦いが終わったら決着をつけましょうか。ニケさんの事もはっきりさせないといけないし♪」


「いや、ニケ様の件はすでにはっきりしているだろう? 貴様が勝手に盛り上がっているだけだ。しつこい女は嫌われるぞ」


「何もしないで引き下がるなんてできないわ! この恋の情熱は止められないのよ!!」


「・・・全部、聞こえているのだが・・・」


俺は緊張感のない二人に肩を落とす。


メティスは鼻で笑い、ゲートに消えていった。


「あ! ちょっと!! まだ話は終わっていないわよ!!」


ペルセポネも慌てて後を追った。


「お前の心配は特にしていない。戦場であればエーテルも大量にある。今後の為にも、少しでも多く取り込んでおけ」


「一つ聞きたい。結局ソフィアは、母さんはどうして人間であるにも関わらずこの時代まで生き伸びる事ができた?」


クロノスは目を瞑る。


「それはここで話すには少々長い。この戦いが無事に終わった時、その質問に答えよう」


「いちいち勿体ぶる奴だな」


鼻で笑うクロノスと拳を交わし、俺はゲートをくぐった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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