第73話 似て非なるもの
「なぜお前がここにいる?」
「私達は、ゼウス神を止める為地上域アースと、女神ガイアの護衛を任されました」
テッサは淡々と答える。
「ねぇてっさ。あいつら、かみのにおいする。くさい」
ピュラは鼻をつまみ、顔をしかめた。
テッサはアレスを一瞥し顎に手を当てしばらく考え込む。
「・・・アレスさんですから。仕方がないかと」
「てめえ!! どういう意味だ?!」
ピュラはテッサの後ろに隠れ耳を塞ぐ。
「あいつ、うるさい・・・」
「テッサ、道を開けてくれないかしら? わたくしは、あなたとは戦いたくない・・・」
「そ、そうだよ! 僕達、一緒に戦った仲じゃないか!」
デイモスとエリスは不安な様子だ。
テッサはゆっくりと長刀エレクトラを抜く。
「それはできない相談です。ゼウス神の行いは看過できるものではありません。それに、私はニケさんについていくと決めていますので」
「・・・なるほど。僕もゼウス様の行いには賛成できない部分はある。いや、正直に言えば本当なら君達側につきたいのが本音だ」
「だけど、ここが戦場である以上は僕らとしても引くわけにはいかない」
アレスは青白い双槍を握り直し、槍をテッサに向ける。
「そういう事だ。いくらお前とはいえ、邪魔をするなら力ずくで退いてもらう」
テッサは静かに微笑みかける。
「ピュラさん。デイモスさんとエリスさんの相手はお任せしてもよろしいでしょうか?」
「だいじょーぶ!!」
ピュラは元気に手を挙げた。
「あくまで防衛です。ほどほどにしてあげてください」
テッサはピュラの頭を撫でる。
「言ってくれるじゃねぇか。うっかり殺しちまっても知らねぇぞ」
テッサとアレスは互いに構える。
「それは楽しみです」
二人は同時に飛び出す。
剣と槍が激しくぶつかり合い、強烈な衝撃で空気が破裂する。
「アレス!!!」
デイモスとエリスがアレスに加勢しようとした時、小さな影が二人の前に舞い降りた。
「てっさのじゃまはだめ。じゃまするならころす」
デイモスとエリスは赤き小さな少女が放つ殺気にたじろいだ。
「君が例の巨神族の少女、ピュラちゃんだね? 面と向かって話すのは初めてかな」
「えっ?! 巨神族?!」
デイモスは大声を上げる。
「巨神族と言えば、ティタノマキアで滅んだはずではありませんでしたの? そんな絶滅種がどうして現代に?」
エリスも首を傾げる。
「・・・なんでぴゅらのことしってるの? ぴゅらはおまえしらない」
ミノス王は大笑いする。
「あははっ!! やっぱりそうか!! いや君がコロシアムで連れ去られた時のニケ君の慌てっぷりがもの凄かったからね。一体どんな子なのか話してみたかったんだ」
「しかしなるほど。こりゃあ彼が躍起になるのも頷けるな。まだ少女だと言うのに、どこか落ち着いた雰囲気があり、儚げだ。とても少女の持つそれではない。間違いなく将来有望だ。あと十年・・・いや、五年もあれば相当・・・全く、ニケ君の女性を見抜く才能には脱帽だよ」
ミノス王は一人で激しく頷いている。
デイモスとエリスは冷ややかな目でミノス王を見ていた。
ピュラは碧眼をぱちくりさせて首を傾げている。
「そんな君と戦うのは不本意だし、君をいじめたりしたらニケ君に何を言われるか分かったものじゃないけど、これもクレタ島の王としての責務だからね」
ミノス王の足元に巨大な魔法陣が展開された。
≪境地の先≫
ミノス王が手をかざすと、デイモスとエリスの身体が淡い緑色に包まれた。
「デイモス君、エリスちゃん。彼女の見た目に惑わされてはいけないよ。彼女、相当の使い手だ」
ピュラは素早く短剣を抜きエリスの首筋めがけて死角から斬りかかる。
「危ないエリス!!」
自らの腕を岩石化させたデイモスがエリスの前に立ちガードする。
ピュラはすぐさま後方へ飛び距離を取る。
「いったぁ~!! 何なのあの子!! すごい力なんだけど!! ミノス王の強化がなければ腕が無くなってたかも・・・」
ミノス王は神々に認められた人間、『英雄』に数えられる人物の一人。
神のように、自身に流れるエーテルの操作ができるようになった『英雄』の中でも珍しい使い手だ。
彼の力は神々が扱う派手な神術が多い中でも、対象者のエーテルの質を高め潜在能力を引き出すという地味なものである。
『開花の儀』と似ているがその性質は根本的に異なる。
ゼウスの行う覚醒と違うのは、神術そのものではなく、個体の身体的な潜在能力の覚醒にフォーカスしている事と、時間的制限がある事の二点である。
ゼウスの覚醒が個体の本来持つはずの能力を引き出すのに対し、ミノス王の覚醒は一時的に個体の限界を越えさせる。
「やあっ!!!」
エリスは無数の水の刃を生成しピュラに向けて一斉に放つ。
ピュラは短剣を逆手に持ち、それら全てを電光石火の如く切り刻んだ。
「はああ!!!」
デイモスが地面に手をつけると同時に、ピュラの足元から無数の巨大な岩の柱が隆起し襲い掛かる。
ピュラは軽やかに宙を舞い柱を躱す。
勢いを緩めずリズミカルに柱を飛びデイモスに迫った。
「させませんわ!!」
ピュラが切りかかると、突如水の泡が発生し緩衝材の役割を果たしデイモスを守る。
ピュラは演武を披露するかの如く目にも留まらぬ速さで短剣を振りその場で回転する。
切り刻まれた水の泡は細切れとなって弾け飛んだ。
ピュラは息一つ切らさず短剣を構え直す。
「いやあ~。凄まじい身体能力だ。コロシアムの観戦とはわけが違うね。実際に相手取るとその怖さがよく分かる。それにその短剣。どうやら神術を断ち切る特殊な加工がしてあるようだね。ユピテリアにはない技術だ」
よく見るとピュラの持つ短剣の周りに赤い紋様が渦巻いていた。
「こりゃ一筋縄じゃいかないかな・・・」
ミノス王はずれ落ちそうな王冠を押さえため息をつく。
デイモスとエリスも唾をのみ構え直した。
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