第71話 母なる大地
「ついに侵攻を開始したようね」
アース神殿の正門前に立つガイアは空を見上げる。
空を見渡すと、アース神殿を囲うように大きな赤い円形の光が五つ点在し、五角形を形成していた。
「全く。わざわざ神殿を囲うようにしていたなんて、ゼウスも用意周到というか何というか・・・」
「それに、アイテールを使用するなんて・・・」
「アイテール?」
アポロンは首を傾げる。
「アイテールは、エーテルのもう一段階上のエネルギーというのかしら。余程の好条件が揃わなければ作り出されない、レアな資源なのよ」
「それをあんな大量に使っちゃうなんて、ほんとゼウスって自分勝手なのね!」
ガイアは頬を膨らませ空に向かい抗議する。
「ま、とにかく。手筈通りにお願いね! アッフィー、アッピー♪」
「はぁ・・・ガイア様、あのゼウスの軍勢が総出で襲ってくると言うのに危機感がなさすぎます」
「大丈夫。エトナの住民はすでに避難済みよ。思いっきり暴れてくれていいわよ」
アフロディーテは呆れて首を振る。
「そういう事じゃなくて・・・」
「分かってるわよ。心配してくれてるんでしょ? 大丈夫よ。これでも一人でアースを守ってきたんだから、それなりに自身があるのよ?」
「結局、それらしい戦力も増えぬまま今日を迎えてしまいましたが、本当に大丈夫でしょうか? まさか、天から急に助けが現れる事なんてないですし・・・」
ガイアは深い緑色のローブを少しはだけさせ肩を出した。
「なっ?! ガ、ガイア様、一体何を?!!」
アポロンは激しく動揺する。
「もっと見たい? あ、アッピー目閉じてるから分からないか。」
ガイアはおもむろにアポロンの手を両手で優しく包み込む。
「触ってみる?」
ガイアは頬を赤らめ潤んだ瞳で包んだ手を自身に引き寄せる。
拳を強く握りしめる音が響き渡る。
「ロリババァ。何をしている?」
アフロディーテの殺気に気付いたガイアは手を離し、とぼけた仕草をする。
「や~ねぇ! アッフィーったら!! ちょっとした冗談じゃない♪」
「それに、女の子が汚い言葉を遣うものじゃありませんっ!」
ガイアは服をはだけさせたまま腰に手を当てる。
「論点ずらすな!! クソババァ!!」
「待って待って!! 本当に違うのよ!! これ! これを見て欲しかったの!」
ガイアは二人の前で後ろを向く。
大陸、だろうか。円の中にいくつかの模様が描かれた紋章が刻まれている。
まるで世界地図のような、その小さな背中を覆い尽くすように大きく刻まれた紋章は、あまりに精巧な作りでガイアの見た目との差も相まって痛々しく思えるほどだった。
「これは・・・・」
「私の紋章よ。これは千里眼ではない、私のもう一つの能力。すぐにお披露目になると思うわ♪」
「分かりました」
アフロディーテはため息をつく。
「それは分かりましたけど・・・脱ぐ必要、ないですよね?」
「てへっ♪」
アフロディーテの何かが切れる音がした。
「てへっ♪ じゃねぇこのロリババァ!!」
「もうっ! アッフィーってば怒ってばかりね」
「誰のせいだ!!!」
アフロディーテから逃げていたガイアの足が止まる。
アフロディーテは勢いあまってガイアの背中にぶつかった。
「ちょっと?! 急に止まらないでよ!!」
ガイアは真剣な眼差しで空を見上げている。
空を染める赤色は濃さを増し、やがて光の障壁がエトナに降り注いだ。
「お出ましのようね」
ガイアは目を閉じ両手を合わせる。
ガイアの足元に巨大な魔法陣が展開された。
≪母なる大地≫
ガイアは両手を地面に当てる。
地面は激しく揺れ動き、幾つもの巨大な岩のような柱が神殿の周りに形成されていく。
それらに続き柱は更に増えていき、やがて神殿を覆うように取り囲んだ。
「こ、これは?!」
アポロンは周囲を見渡す。
形成された石柱は光に包まれ、その形を変えていく。
やがて石柱は現存する魔物から古代の魔物まで大小さまざまな姿をした異形の姿に変わっていった。
中にはギガース族と呼ばれる古代種の巨人タイプの魔物の姿もあった。
数え切れないほどの魔物の群れ。
ガイアにより生み出された様々な種の魔物達は咆哮を上げ、五本の光の障壁の方へと向かう。
アポロンとアフロディーテはその光景に呆然としていた。
「ね? 心配しなくても大丈夫でしょ? まあ、一体一体の力はさすがにゼウスと互角とまではいかないけど、疲弊させる事は十分可能だし、少なくとも普通の神族では相手にならないはずよ。それに、質に拘らなければまだまだ余裕でいけるわ♪」
「とりあえず、神殿をすぐに占領されることはないから安心して戦いに専念してちょうだい。それと、あの子達は仲間を襲う事はないから大丈夫よ」
「・・・これだけ大規模な神術展開は見たことがありません。想像を絶する膨大なエーテル量・・・さすが、世界を統べる三神の一角。桁違いだ」
ガイアはあどけない笑顔でアポロンに微笑みかける。
「ありがと♪」
「・・・はぁ。ガイア様って、色んな意味で底が知れないですね。美しさの欠片もない醜い化け物ばかりだし。腹黒さが滲み出ていて何か怖いわ・・・」
アフロディーテは青ざめる。
「もう! そんな言い方しなくてもいいでしょ! 私の可愛い子供たちが可哀想じゃない!」
ガイアは二人に真剣な眼差しを向けた。
「いい? 何があってもちゃんと生き延びて、また元気な姿を見せる事。でないと、お母さん許さないからね」
二人は黙って頷いた。
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