第69話 命の結晶
「お前達も知っている通りこの世界の生命は、その役目を終えるとエーテルの光となり星に還る。しかし、一部のエーテルは星に還らずに世界に留まる。いや、留まろうとすると言った方がいいか」
「世界に留まる? ・・・まさか」
メティスの頬に一筋の汗が滴る。
クロノスは俺達の頭上に輝く星々を指差す。
「死した生命のエーテルの結晶、それがお前たちの見上げている星々の正体だ」
「星の誕生から現在に至るまでに死んでいった者達の命が、何千年もの時を経て積み重なった命の結晶・・・」
テッサは光の帯を見上げる。
「そうだ。とはいえ、生命の全てというわけではないがな。大きさや色の違いが分かるだろう? それらは、その生命が宿していたエーテルの質により異なる。故に、大小様々な、色とりどりの輝きを放っているのだ」
「つまり、お前もあの星々の一部となりこの世界に留まっていた。そういう事か?」
俺は心配するピュラの頭を撫で立ち上がった。
「そういう事だ。エーテルの質が濃厚な生命は、星に還るのに時間が掛かる」
「これはあくまで推測だが・・・星にとってこの俺にはまだ重要な役割があった。星は俺を構成していたエーテルを収集し、現世に蘇らせる選択をした・・・」
「そしてその役目はお前達に真実を伝える事であると、俺は考えている」
クロノスは自身の身体を確かめるように眺める。
「元々は冥王ハデスの肉体だったからか、身体に若干の違和感がある。だいぶ馴染んではきたが・・・いくら魂ともいえるエーテルをかき集めたとしても、納める箱がなければ実体を保てない。ハデスの身体を乗っ取ったというよりも、転生したと言った方が正しいのかも知れん」
クロノスは玉座から立ち上がる。
「大方、説明は終えたと思うが。何か言いたい事はあるか?」
俺達はただその場に立ち尽くした。
「正直、整理ができていない。情報が多すぎる」
「まあ・・・そうだろうな」
クロノスは苦笑いする。
「追い打ちをかけるようで不本意なのだが、もう一つ、伝えなければならない事がある」
「今度は何だと言うんだ・・・」
俺は肩を落とした。
「ゼウスが地上領域アースに侵攻する。7日後だ」
「一体何のために?」
「お前達は、アースを統べる地母神ガイアは知っているか?」
俺は首を振る。
「名前は知っている。会ったことはないがな」
「ガイアから救援の依頼があった」
俺は目を瞑った。
「好きにすればいいだろう。俺達には関係ない」
クロノスはじっとテッサを見つめる。
「こいつは、いつもこんな調子なのか?」
「残念ながら・・・」
テッサは申し訳なさそうにうつむく。
「おい、勝手に人を憐れむな」
「ふはは! お前も本当に容赦ないな、テッサ! 悪くない」
メティスも珍しくテッサに便乗する。
ピュラはニケを庇うようにクロノス達の前に立った。
「にけをいじめないで。すぐおこるし、すぐだめっていうし、へんじしてくれないけど、いがいとやさしい」
「・・・ピュラ。それは慰めになっていないと思うぞ・・・」
ピュラの言葉を聞いた瞬間、皆が一斉に笑い出した。
「何だ、ちゃんと仲間に愛されているではないか。」
「・・・余計なお世話だ」
こういうのは、苦手だったはずなのだがな。いや、今も苦手だが。
俺はそっぽを向く。
「お前の言いたいことは分かる。俺達にも加勢しろと言うんだろ?」
「まあ、そういう事だ。相手はゼウスだ。戦力は多い方がいい。それに、ガイアを渡すわけにはいかない」
「何か問題でもあるのか?」
俺は首を傾げる。
「ガイアの神術はただでさえ強力だが、注目すべきは『千里眼』の存在だ」
「プロフィティア?」
「『千里眼』は未来を視通す力だ。この力によりアースが侵攻されることをいち早く察知したガイアは、確実に勝利するためにタルタロスにコンタクトを取ってきた、というわけだ」
「ですが、女神ガイアは地上領域アースの主神であり、ゼウス、ハデスと同等の力をお持ちのはず。そこまで不利とは思えませんが・・・」
クロノスは首を振る。
「今までなら、な」
「どういう事です?」
「現代には俺の息子であるニケと共に、もう一人この星にとって重要な役割を持つ神が一人いる」
メティスは両腕を組む。
「アシーナですか」
クロノスは頷く。
「俺も直接会ったことはないが、この遠く離れた冥界にまで届く強大なエーテルの波動。それを辿った時、その娘に辿り着いた。ゼウスの娘のようだが、相当な潜在能力だ。あのウラヌスにすら匹敵するかもしれん」
「当然、ガイアもアシーナの存在を認識している。だからこそ、俺に協力を呼びかけたのだろう。ただ・・・」
「どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
一つの疑問が頭をよぎった。
「しかし、アースもタルタロスも休戦中なのだろう? いわば敵同士だ。そのアースに手を貸すような真似をしていいのか?」
「どうやらユピテリアでは誤った歴史を教育しているらしい。偉そうに言うこの俺もハデスであった頃の記憶を元に知った事ではあるが、その認識は間違いだ」
「元々アースもタルタロスも、侵略行為など興味がなかった。というより、理由がなかった。ゼウスが自国の防衛を名目に、アースに戦争を仕掛けたのがそもそもの始まりだ。アースを擁護する形でタルタロスも参戦した。世界が三分割された後も、アースとタルタロスは定期的にコンタクトを取っていた」
テッサは首を傾げる。
「ゼウス神はどうしてわざわざ三分割にしたのでしょう?」
メティスは深くため息をついた。
「アースとタルタロスを分断する事で、お互いに協力する事を恐れたのだろうな。さすがのゼウスも、ガイアとハデスの二人を相手にするのは骨が折れると判断したのだろう。あいつの考えそうな事だ」
「やはり聡明だな女神メティス。どうだ? 俺の眷属にならないか?」
「せっかくですが、お断りさせて頂きます。今の私にはニケ様がいますので」
「そうか。残念だ」
「ダ、ダメですよクロノス様! 私という眷属がありながら!!」
ペルセポネが割って入る。
「お前、ニケ様に色目を使っていただろう? 自分の事は棚に上げるのだな。そういうご都合主義なところ、変わっていないな」
「ニケ様は対等なんで~す♪ 言ってしまえば彼氏、的な?」
メティスは鼻で笑う。
「彼氏だと? 笑わせるな。ニケ様にはアシーナという最高に可愛く、最高にお似合いな伴侶がいるのだ。お前の出る幕などない。失せろ」
「あらあら! これだから年増は頭が固くて嫌なのよね! 今時彼氏が一人だけなんて古いわよ、オ・バ・サ・ン♪」
メティスの眉がわずかに動く。
「挑発だけは一人前だな。いいだろう。宇宙の塵にしてやる」
クロノスは思いついたように指を鳴らす。
「名案だメティス。力比べでもするか? アースに加勢する以上、お前達の実力も知っておかねばならない。弱い奴に加勢されても、足手まといにしかならんからな」
「ほう? 原初の神だか何だか知らんが、言ってくれるな。言っておくが、父親だろうと容赦はしない」
何故かは分からないが、こいつに煽られると無性に腹が立つ。
テッサはため息をつく。
「全く。何故こんなことになるのでしょう? そういう流れではなかったような・・・」
テッサの脳内に声が響く。
〖おお! いいじゃねえか!! 面白そうだ!! そろそろ身体動かしたいと思ってたんだ!〗
〖そうね♪ ねぇテッサ、あの赤いドレスの女とやりましょ♪ さっきから美味しそうな匂いさせてるあの子!〗
「・・・・・」
精霊たちもやる気だった事を知り、テッサは急に恥ずかしくなった。
同じ空気感を感じ取ったのか、ピュラはテッサの方に駆け寄ってくる。
「みんな、なんかこわい」
「そうですね・・・」
テッサは何故か火花を散らす四人を見て肩を落とした。
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