第68話 クロノスとニケ
「ニケを始め、お前たち奈落の闇の持つ闇の力は星の意思だ。終焉に向かう運命から逃れるべく、星自身が生み出した星の防衛システム」
メティスは眉を上げる。
「その話は知っています。既にニケ様にもお伝えしてある事柄」
「そうか。それならば、話が早い。その闇の力、元はこの俺が星に与えられた力だ。この力を得た事で、俺はウラヌスの野望を打ち砕くことに成功した」
「アステルマキア、ですね?」
「勘が鋭いな、女神メティス。その通りだ」
クロノスは手に持っていた大鎌を消し玉座に腰かける。
「ウラヌスは、ゼウスが行う意図的な神術覚醒、第三者に覚醒させられる事なく己のみの力で紋章が刻まれるのと同時に覚醒した。これによりウラヌスは一気に勢力を拡大し、ヤツに忠誠を誓う者達にその証として紋章を刻み急速に領土を広げていった。こうして、エーテルの消費が加速していった」
「星は唯一対抗できる可能性があった俺に闇の力を与え、その覚醒したエーテルを使用する者達からエーテルを抜き去り、星に還す使命が与えられた」
テッサが手を挙げる。
「ウラヌス神も主神ゼウス同様に、意図的に他者へ覚醒させることが可能となった。それと、『紋章が刻まれると同時に』とおっしゃいましたね。つまりウラヌス神は、現存する神々とは性質が全く違う、という事ですか?」
「それに、星が与えたと言いますが実際に星の声など聞こうと思って聞けるものなのですか?」
「ふむ。テッサと言ったか。お前もなかなか頭が切れる。人間にしておくのは勿体ないな。俺の眷属にしたいくらいだ」
「だ、ダメですよクロノス様! あなたの眷属は私一人で十分ですっ!!」
ペルセポネは声を張り上げた。
テッサはため息をつき静かに制す。
「人間をやめるつもりはありませんので」
クロノスは鼻で笑う。
「話を戻そう。お前の言う通り、ウラヌスは他の神とは違う。普通であれば紋章を持って生まれてくるが、奴はそうではなかった。ゼウスが神術を確立させたのなら、ウラヌスは『神』を確立させたと言っていい。現在に生きる紋章を持つ神々はウラヌスの系譜だ」
「この『銅の時代』においても、非常に稀とはいえ神術の覚醒自体は個人で発生する場合もあるが、紋章の覚醒はあり得ない。当時は神術はおろか、紋章など目にすること自体がなかった。それだけに、ウラヌスへの信仰心は異常だったと言える」
クロノスは大きく息を吐く。
「お前たちは、ソフィアという名前を聞いた事があるか?」
その場にいた誰もが首を傾げた。
ただ一人を除いて。
テッサは顎に手を当てる。
「聞いた事がありませんね。名前からして女性の名前だと思いますが」
メティスは腕を組む。
「私も聞いた事は・・・いや、どこかで聞いたか・・・?」
「・・・・・・何故、お前がその名前を知っている?」
「にけ・・・?」
俺の異様な動揺を感じ取ったピュラは、様子を伺うように俺の服の裾を掴んだ。
「知っているのですか? ニケさん」
「知っているも何も、ソフィアは俺の母親だ。人間でありながら神術を扱う事ができた、類稀な才能の持ち主だったと。そして俺が生まれてすぐに亡くなったと聞いている。・・・何故ここでその名が出てくる?」
「妻であるソフィアは星の声を聞くことができた唯一の存在。ソフィアを介すことで、俺は星の声を聞くことができたのだ。故に、闇の力がどうして備わったのかも理解できた」
俺はクロノスの言葉に凍り付いた。
「ま、待て。妻と言ったのか・・・?」
「ああ。ソフィアは俺の妻だ」
「つまり、お前は俺の息子という事になるな。ニケ」
頭が真っ白になった。こいつが何を言っているのかまるで理解できない。
「ふざけるな!! いきなりそんな話をされて信じられるとでも思うか?! 大体、お前は『星の時代』の存在のはずだろう?! 6000年も前の話だぞ!! 仮にその話が本当だったとして、どうして俺はこの時代に生きている?! ソフィアにしてもそうだ! 人間であるソフィアが6000年も生きながらえたとでも言うのか?!」
「お前が動揺するのも無理はない。そんな事、普通はあり得ないからな。いくら神の血が流れていようと、そこまで寿命は長くない」
「だから俺は・・・!」
「普通ではないのだ。お前の存在は。お前は、この星に託された最後の希望だ。ソフィアのお前に対する思いが、お前をこの時代に運んだ・・・奇跡を生んだのだ」
クロノスは語気を強めた。
うつむくクロノスの表情は険しくなっていた。
メティス達も、あまりに突然の話にただ立ち尽くすしかない。
「・・・俺が、クロノスの・・・?」
俺は愕然とし、その場に膝をついた。
クロノスは巻かれた自身の左腕の布を剥がす。
そこには、まるでピュラ刻まれているものと同じような黒い紋様が刻まれていた。紋様のフチは仄かに赤く光っている。
「その証拠に、お前には紋章が刻まれていないだろう? それもそのはずだ。巨神族は紋様こそあれ、紋章は持たない。そしてソフィアは人間だ。お前が紋章を持たずに生まれたのは、ソフィアの血を色濃く受け継いだからに他ならない」
「全部・・・本当の事、なのか・・・?」
俺は小さな声で呟く。
もはや自分で何を言っているのかさえも分かっていなかった。
「わざわざこんな手の込んだ嘘をつく理由はない」
クロノスはニケを見下ろし、息を吐く。
「あなたが本当にクロノス神だとして、どうやって生き返る事ができたのです? そんな神術があるとは聞いた事がありません」
メティスは問いかける。
「・・・方法が、ないわけではない。最も、狙ってできるようなものでもないが・・・お前達は、この世界の星がどういった存在か知っているか?」
クロノスは空間に映る美しい星空を見渡し尋ねる。
「星、とは夜空に輝くこの星々の事ですか?」
「そうだ。その様子では、知らないのだろうな」
クロノスは星々の帯を見上げ、ゆっくりと語り始めた。
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