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第66話 いつかのにおい


「それでは参りましょうか!」


ペルセポネは、のぼせたピュラをまるで人形を抱えるように持ち上げ歩き出す。


両脇に浮遊する双剣も光の尾をひき追尾する。


「お前、見た目によらず力があるんだな」


「あはは! そうなんですよ! だからピュラちゃんが私の角にぶら下がっていたのも一切分かりませんでした」


「いや、さすがにそれは気付くべきだと思うぞ」


タルタロスの奈落の闇(エレボス)とやらは皆こうなのか?


どうも調子が狂う。


「そう言えば、お前はリーダーだと言っていたな。わざわざリーダーがお出迎えとは、ずいぶん親切だな」


前を歩いていたペルセポネは急に肩を落とした。


「ちょっとしたゲームで私が負けちゃったんですよ」


「・・・・・」


話にならない。こいつら、本当に大丈夫なのか? 


この調子だと冥王ハデスとやらも程度が知れるな。


「ところでペルセポネさん。その浮いている双剣、とても美しいですね。少し見せてもらっても?」


「あらあら! この剣の良さが分かるなんて、あなたもやりますね! でもダメよ。これは触らせてあげない♪ 私のお気に入りだもの」


ペルセポネはウインクして見せる。


「・・・そうですか」


テッサがしばらく考え込んでいると、突然脳内に声が響いた。


〖ねぇテッサ。いいの? あの剣・・・〗


〖やっぱりエレクトラも感じたか。アレ、俺たちの仲間だぞ〗


テッサは心の中で精霊たちに語りかける。


『やはりそうですか。私の直感は間違っていなかったようですね』


〖どうするの? そうだ! あたしがあいつ殺して奪ってあげようか? 美味しそうな匂いするし♪〗


〖やめとけ。今お前が出ていったら他の奴らも巻き込んじまう。それにあいつ、相当の実力者だ。佇まいで分かる。恐らく、あのメティスとかいう女神と同等だ。背中を見せちゃいるが、全く隙がねぇ〗


〖へぇ~。アルシオーネって意外と冷静なのね。しゃべり方は豪快なのに。面白いわ♪〗


〖しゃべり方は関係ねぇだろ・・・〗


気付けば皆の背中が小さくなっていた。


『とりあえず、今はまだ様子を見ます』


テッサは精霊たちとの会話を切り上げ急いで後を追った―――。



大きく弧を描く螺旋階段を登った先に、金色の装飾が施された真黒な扉が見えた。


ペルセポネは目を覚ましたピュラを降ろし、扉の前で立ち止まる。


「皆をお連れしました」


ペルセポネが扉に語りかけると、扉は重い軋み音を響かせながらゆっくりと開いた。


「さ、どうぞお入りください」


ペルセポネは頭を垂れ、流れる動作で促した。


俺達は恐る恐る部屋の中へ入る。


王の間だろうか。真っ暗の中、無数の星が集まり織り成す光の帯が、夜空を割るように横切っている。


言葉を失う程の絶景。


まるで空に放り出されたような感覚。


だが、俺達は確かにここに立っている。


何とも不思議な空間だ。


「綺麗・・・」


テッサは瞬く星々に言葉を失っていた。


ピュラも目を輝かせ辺りを見渡している。五感を使い全身で感じ取っているようだ。


漆黒の扉が閉まり部屋の中が少しだけ明るくなる。


「よくぞここまで来た。ニケとその仲間たちよ」


薄暗さに目が慣れたころ、俺達の正面に真黒な玉座が鎮座しているのが見えた。


しかし、玉座には誰も座っていない。


俺の鼻も感知しない。だが、間違いなくそこに居る。


「ああ、済まない。このままでは見えんな」


玉座の空間が歪み人姿を形作る。


全てを飲み込むような真黒な長髪に、肌を隠すように全身を覆う布。使い古されたボロボロの黒いマント。


切れ長の金色の瞳がこちらを見据えていた。


「どうだ。これで見えるか?」


「あ、ああ・・・」


おかしい。ペルセポネもそうだったが、俺の鼻が利かないどころか完全に気配がなかった。そんな事があり得るのか?


メティスは姿を現した男を見て眉を上げる。


「納得いかない顔をしているな、ニケ。それも無理はない」


「これは俺の力だ。何があるか分からないからな。保険としてペルセポネにも使用していたのだ。そこの巨神族の少女には気付かれてしまったようだが」


ピュラは立ち尽くしている。


目には涙が滲んでいた。


「でうかりおんのにおい・・・なんで?」


「いま、何と言った?」


玉座の男はピュラの言葉に反応する。


「おまえ、でうかりおんじゃないのに、でうかりおんのにおいがする・・・でうかりおんはどこ?」


「でうかりおん、どこにいるの・・・?」


ピュラは突然大声で泣き出した。


刻まれた黒い紋様が仄かに赤く光り出す。


空気が振動し、辺りが揺れ始める。


「まずい!!!」


俺が手を伸ばすと、いつの間にか長髪の男は片膝をつきピュラに目線を合わせていた。


「その年では、まだ制御はできないか」


男はピュラの頭上で糸を手繰るように腕を上げる。すると彼女の中から淡い赤色の光が集まり束となって漏れ、握る男の手の中へ消えていく。


同時に紋様の輝きも消え、やがて振動も収まった。


「・・・・?」


ピュラは何とか落ち着きを取り戻し泣き止んだ。


長髪の男はピュラの頭を優しく撫でる。しかし、その表情は険しいものだった。


「どういう事だ、ハデス。何故ピュラが巨神族だと気付いた? いや、それ以上に()()()()()()()()()()()()()()?」


長髪の男はゆっくりと立ち上がった。


「どの道、話さないわけにはいかないか・・・」


覚悟を決めた男は真っすぐ俺達を見据える。


「俺はハデスではない」


「なっ?!」


男の発言にその場の全員が動揺する。


夜空を別つように俺達を包み込む星々の帯から一筋の光が流れ消えていった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


とても励みになっています!

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