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第64話 貴重な二人


ケルベロスを倒した俺達はニュクス城の入城を許された。


内部は薄暗く、外観通り黒を基調とした古城と言った感じで目新しい物は特にない。


「城に足を踏み入れたのは初めてですが、意外と質素なのですね」


テッサは辺りを見回す。


「己を誇張したがるゼウスとはえらい違いだな」


「奴は自分が全ての傲慢者ですから。エーテルについて知れば知るほど、何故あのような男と一緒になったのか我ながら不思議でなりません。今となっては汚点でしかない」


「唯一の救いは、アシーナを身ごもる事ができた。これにつきます」


「その可愛いアシーナを、見捨てるような真似をして心が痛むか?」


「・・・いいえ。確かに、無理にでもこちらに連れて来たい思いはありましたが、あの時はああするしかなかった。ゼウスもいましたしね」


「しかし、アシーナは己の力で必ず真実にたどり着くでしょう。そう確信しています」


「親心、というやつか。俺には分からん感情だな」


俺はふとオリーブのお守りを手に取る。


「そういえば、アシーナも同じものを身に付けていましたね。ニケ様、もしやアシーナとは恋仲なのですか?」


「勘違いするな。単に、幼い頃にアシーナがくれたというだけだ。これを見ると何故か心が温かくなる。だから持っているに過ぎん。それに、アシーナがゼウスを庇う以上、現時点であいつは俺の敵だ」


テッサは否定するニケの耳が赤くなっているのを見逃さなかった。


「ニケさん、あなたまさか・・・」


メティスは何かを言いかけるテッサを止め、指で軽く手招きをする。


「それ以上は言うな。このご時世、ニケ様は恐らくかなり貴重な殿方だ。色恋沙汰が大好きな神の血を引く者の中でも特に、な。アシーナにも同じ事が言える。だからこそ、その辺の愚神に渡すわけにはいかん」


メティスはニケに聞こえないように小声でテッサに伝える。


「早めにお伝えした方が、彼とアシーナさんのためになると思いますが。オリンポス神殿で見たのが初めてでしたが、アシーナさんはとても麗しい方でした。世の殿方が放っておくとは考えにくいです。それに、アシーナさんはゼウス神とあなたとの娘。となれば、血統の存続のために既に決まった相手がいる可能性も・・・」


「それは絶対に阻止する。あの自己中心的なゼウスの事だ。どうせアシーナの思いも聞かずに勝手に相手を選別しているのだろう。アシーナは私の娘だ。結婚相手くらい好きに選ばせてやりたい。それに、ゼウスに任せるのは不安でしかないしな」


「要約すると、ニケさんとアシーナさんはとてもお似合いなので、お二人とも純粋なまま愛を育んでほしい、と。そういうことですか。メティスさん、あなたもよほどのロマ・・・」


メティスは咄嗟にテッサの口を塞ぐ。


「それ以上は言うな。いいな?」


メティスは語気を強める。ほんのりと頬が赤くなっているのが分かる。


メティスはテッサが頷くのを確認すると静かに解放した。


そんな二人をよそにピュラは開けたホールを小走りで進んでいく。


「おいピュラ、あまり遠くへ行くな。何が襲ってくるか分からん」


「だいじょーぶ!! まもののにおいしない!!」


「全く。事あるごとに勝手な行動を・・・反抗期か?」


俺はため息をつく。


「わっぷ」


ピュラが大きなホールを走っていると、急に柔らかい何かにぶつかった。


弾かれた反動で地面に座り込む。


目の前には何もない。ピュラは首を傾げる。


「あらあら。ごめんなさいね? いきなり走ってくるからお姉さん驚いちゃった」


「???」


ピュラは辺りをキョロキョロ見回す。人影はない。


俺は頭を掻きピュラを見下ろす。


「だから言っただろう。急に走り出したりするから転ぶんだ。・・・どうした?」


「いいにおいがする」


ピュラは何かを探すように両手を伸ばす。


「あんっっ」


ホール内に官能的な声が響き渡る。


ピュラは咄嗟に手を引っ込めた。


俺も、メティスもテッサも、その場にいた全員が目を丸くした。


ピュラは首を傾げている。


「んもぅ。この子ったらエッチね。」


俺達の目の前の空間が緩やかに歪み、やがてその歪みは人一人分ほどの大きさになった。


そして一人の成人女性が姿を現した。


熟した山の果実を思わせる葡萄(えび)色の美しいロングヘアーに真っ赤なドレスとハイヒール。


女性の両脇には鞘に収められた、形状の異なる双剣が浮遊している。


そして目を引く特徴的な、頭部の黒く長い角。見た目の端麗さとのギャップがより禍々しさを際立てている。


「いらっしゃい。ニケ御一行様。ようこそニュクス城へ」


「ハデスの手下か? どうして俺達を知っている?」


俺はピュラの前に立つ。


「あら? 私の事紹介していないの? メティスったら冷たいわねぇ」


「済まん。存在を忘れていた」


「ちょっと~! そんなひどい事言わないでよ~! 同じ奈落の闇(エレボス)に選ばれた同志じゃない」


「勘違いするなペルセポネ。貴様を同志と思った事などない」


女性はショックでその場に座り込む。


「うそ・・・でしょ? やっと友達ができたと思っていたのに・・・片思いだったというの?」


メティスは腕を組みため息をつく。


「貴様のそのバカげた思考には付き合いきれん」


「ちょっと待て。一体どういう事だ? メティス、こいつと知り合いなのか?」


俺とテッサは顔を見合わせる。


「ほら~。あなたが説明しておいてくれないから」


女性は立ち上がりドレスの埃を払う。


「私はペルセポネ。一応、タルタロスに存在する奈落の闇(エレボス)のリーダーをやってます」


「何だと・・・・?」


メティスは呆れた様子で首を振る。


予想外の彼女の発言に俺とテッサは言葉を失った。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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