第56話 人裁
「どういうことだ・・・ 不審者が近づけば匂いを嗅ぎ取れたはずなんだが」
「あの煙に何か細工を施してあったのかもしれません。とはいえ、ニケ様はもちろん私もあの人間も、周囲の警戒は怠っていなかった。煙が噴き出た時も。一体どうやって・・・」
「それにしても勢いで飛び出してきましたが、行く当てはあるのですか?」
「それは問題ない。どういうわけかピュラの匂いは嗅ぎ取れないが、テッサの匂いはちゃんと感じる。」
俺とメティスは急いでテッサの後を追った。
とある森の中――――。
走る音が複数、森の中に響く。人影はない。
眠るピュラは何かに抱えられるように宙を浮いている。
「はっ!! はっ!! はっ!!」
「今日は当たりだぜ!!」
「こんな若い獲物、どれくらいぶりよ?」
「さあ? 覚えてないくらい前だ」
「ぐひひ! 久しぶりに今夜は愉しめそうだ!」
森の奥深くにひっそりと佇む、木造の家屋の前で足音は止まった。
「おい、早く中へ入ろうぜ。待ちきれねぇ」
「分かってるよ」
布を叩く音と共に一人の男が姿を現した。腕にはピュラを抱えている。
「ここまで来れば大丈夫だ。お前らも解いていいぞ」
すると二人の男も突然姿を現した。
「しかし、この姿を消すローブは便利だな。匂いも消すのか知らんが、動物にすら気配が気づかれない」
「そうだな。まさか襲った荷馬車にこんなお宝が入っていたとは思いもしなかったぜ!」
「おい、早く来い。いつまでもでけぇ声でしゃべっていると誰かに気付かれるぞ」
「分かってるよ。わざわざこんな森の奥に来る物好きはいないと思うけどな」
小汚い広い部屋の中に、準備されていたかのように毛布が敷かれている。
そこに静かに寝息を立てるピュラを横たわらせる。
「ひひ。 それじゃあとっとと済ませて売り飛ばそうぜ」
一人の男がピュラの服に触れた瞬間、三人の男の間をすきま風が通り過ぎた。
「お、おい!! お前それ!!」
男の一人が青ざめた顔で叫んだ。
「何だよ! うるせえな! これから楽しもうってのに!!」
男はピュラに視線を戻し、服を脱がそうとするが掴めない。
男が良く見ると、綺麗な切断面で手首から先が消えていた。
ふと横に目をやると、壁際に自分の手が転がっている。
「・・・・え?」
叫ぶ間もなく、そのまま男の首は綺麗に胴体から離れた。
剣圧により家屋の壁が紙切れのように切られ、崩れた天助から冥界の天井が顔を出す。
残った男二人は何が起きたのか理解できないままドアの方を見る。
そこには冷ややかな目で長刀エレクトラを握り立ち尽くすテッサの姿があった。
「ひ!! ひぃぃ!! な、何だお前は?!!」
「・・・覚えていませんか。まあ、それもそうでしょうね」
テッサは歯を食いしばり鬼の形相で男たちを睨む。
「あなた方に生きている価値などありません。神が裁かずとも私が裁きます」
「ちっ!! いきなり現れて偉そうに!! 死ねや!!」
男が背中に忍ばせていた剣でテッサに襲い掛かる。
テッサは目にもとまらぬ速さでエレクトラを振りぬく。男の腕は剣を手にしたまま後方へ飛んでいった。
「ぎゃっ・・・・」
テッサは流れる動作で、断末魔を待たず男の首をはねた。
「後はあなたのみですね。何か言い残す事はありますか? 私もそこまで無慈悲ではありません。一人くらい遺言は聞きましょう」
「ちっ!!!」
男は咄嗟に眠るピュラを人質に取る。そしてピュラの腰の短剣を抜き、その首元に切っ先を当てた。
「動くな!!! それ以上動けばこいつの命はねぇ!!」
「本当に・・・・」
「あぁ?!」
「どこまでクズなのですか。あなた方は」
テッサは神速でエレクトラを振るう。同時に男の両腕が切り落とされる。
「ぎゃあーーー!!!!」
次に男の左脚を、その次に右脚を順に切り落とした。
「がっあああああ!!!!!」
「その声を聞いているだけで吐き気がします」
「っが?!」
テッサは手足を失い床に転がりのたうち回る男の首元に剣を突き立てる。
首を刺したまま男を持ち上げる。
「消えなさい。外道」
テッサはそのまま高速で男を切り刻んだ。床に横たわるピュラを避けながら辺りに血しぶきが飛び散る。
己の顔に返り血が跳ねようが構うことなく、瞬き一つせずに無心に剣を振る。
いつの間にか肉を切る感触はなくなっていた。
気づけば辺りは血の海と化し、最後の男の身体は塵一つ残らず消え去っていた。
「・・・てっさ?」
鼻を衝く生臭い匂いで目を覚ましたピュラは目をこする。
テッサはそっとピュラを抱きしめる。
寝起きのピュラの鼻を、華やかないい匂いが包み込む。
「間に合ってよかった・・・本当に」
ピュラを抱きしめる力が強くなる。
「てっさ・・・?」
テッサの頬に一筋の涙が伝う。
「ピュラ!!!!」
ようやく追いついた俺とメティスは部屋の状況に言葉を失った。
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