第55話 スラム街の高級ホテル
夜空に輝く星がまた一つ消えた。誰に気付かれることもなく、ひっそりと。
まるで、この星の行く末を暗示しているかのように。
『創世の時代』には空を敷き詰めるように点在していたそれらも、今では余白が生まれかつての輝きを補填するように力強く輝き、太い星々の帯が空を分断しているだけである。
真実を知る者はいない。
ただ一人を除いて―――――。
俺達はハデスの住まう城を目指し颯爽と駆け抜ける。
「冥界領域はどれくらい広いんだ?」
「冥王ハデスの住まうニュクス城を囲うように、コキュートスという湖が広がっています。大きさは大体ユピテリアの浮島一つ分くらいでしょうか。その巨大な湖に大地が幾つも浮かび、その上に村がいくつかあります。タルタロスの人々はそこで生活しています」
「なるほどな。規模としてはそれほど大きくないな」
背中に背負うピュラに意識を向けると彼女は小さく寝息を立てていた。
「止まってくれ」
俺は纏っていた黒のマントで寝ているピュラを包み、ずれないように布の余った部分を締め背負い直す。
「しっかりと保護者をやっているのですね。少し見直しました」
テッサは介抱する俺の様子を見て笑顔になる。
「死なれたら目覚めが悪いからな。というより、前から思っていたんだがお前の俺に対するイメージ低すぎないか?」
「さあ? どうでしょう?」
クスクス笑うテッサを見てため息をつく。
「私やゼウスの威圧にさらされ続けていたのです。巨神族の少女もずっと緊張が解けず
疲れが溜まっていたのでしょう。ちょうど、少し先に行った所にホドロスという村があります。そこで休みましょう」
俺は頷き再び歩を進めた。
タルタロスは元々アースの民が島流しにあった者達が繁栄した領域。その為、神も人間もユピテリアやアースと比べてガラの悪い輩が多い。
言ってしまえばスラム街。治安があまりよろしくない。
ホドロスという村も例外ではなく、道端に寝転がる小汚い服装の女性、大きな袋を肩に担ぎ地面のゴミを拾いポケットにしまい歩き去る老人と、お世辞にも綺麗とは言えない村の有様に若干の抵抗感を覚えた。
すれ違う村人たちは、みな物珍しさに凝視してくる。
「おい、メティス。本当にここで休むのか? 正直言ってかなり不快だが」
「大丈夫ですよ。見た感じ敵意も殺意も感じられない。それに、何か不穏な動きがあればすぐに分かります。今のところ特に害はないでしょう」
「・・・・・そうだといいのですが」
テッサの顔が凄まじく険しい。何かに警戒しているようだ。こんな表情は見たことがなかった。
「ほう。何か言いたそうだな?」
「・・・・・」
テッサは語ろうとしない。
「まあいい」
「この先に宿があります。そこで部屋を取りましょう」
テッサは二人の背中をしばらく眺めていたがすぐにその後を追った。
宿に入っていく四人を路地裏から見守る数人の人影があった。
「4人だ。部屋を取りたいのだが」
すると店主らしきオヤジが受付の奥の部屋からゆっくりと頭を掻きながら出てきた。
「はいよー。40,000Gだ。」
俺は右手の純白のブレスレットにエーテルを注ぐ。すると掌に金貨が溢れだした。
「随分と高級なホテルだな」
俺は内装を見渡し皮肉交じりに金貨を渡す。
店主はごそごそ引き出しを漁り、錆び付いたカギを渡してきた。
俺はため息をつきカギを受け取る。
「ここか」
木造の軋む階段を登り二階の一番奥の角部屋のドアを開け中へ入る。木造のベッドは二つ並べられており、体重をかけると少しガタついた。
「やれやれ、4人だと言ったはずだが。まあいい。」
俺はピュラを窓際のベッドに優しく横たわらせ、風通しを良くするために窓を開けた。
「俺とメティスはさほど疲れていない。好きに使っていいぞ、テッサ」
俺はもう片方のベッドを顎で指した。
「いいえ。私もそこまで疲弊していませんので」
「そうか。ところで、一体何があった?」
テッサは顔を強張らせる。
「タルタロスに着いてからのお前の様子は明らかにおかしい。タルタロス出身と言っていたが、懐かしの故郷ではないのか? 何故そんな険しい顔をする?」
「それは・・・」
「人間の事情など知った事ではないが、今は行動を共にしている。足を引っ張られても困るからな。何かあるなら話しておけ」
メティスも俺に同意した。
「・・・・・」
ドアをノックする音が響く。
「失礼するよ~」
店主が小さな箱を抱えて入ってきた。
「あんたら宛に荷物が届いたよ」
俺達は顔を見合わせ首を傾げた。
「誰か荷物でも頼んだのか?」
二人は首を振る。
「間違いではないのか?」
「いや、確かにあんたら宛だ。とにかく、ちゃんと渡したからな」
店主は念を押し、箱を置いて出ていった。
「まあいい。一応中身の確認はするか」
俺は箱を手に取り蓋を開ける。
思った以上に固い。俺は更に力を込めた。
「どういうことだ? 俺の筋肥大させた力でも開かないのは普通ではない」
「少しお借りしても?」
俺はメティスに箱を放った。
「・・・エーテルを流し込めば開くかもしれませんね」
メティスは目を閉じエーテルを箱に流し込む。
次の瞬間、箱は破裂し勢いよく煙が噴き出した。
「!!!!」
メティスは咄嗟に重力操作で部屋内の圧力を軽くし煙を払う。
「何なんだ一体」
俺はマントを払い辺りを見渡す。
「ピュラ?」
ベッドに寝かせていたピュラの姿がなかった。
よく見るとテッサの姿もなかった。
「くっ! 行くぞ、メティス!!」
俺とメティスは窓から外へ飛び出した。
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