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第47話 血誓


アシーナ達はかつての面影を無くした瓦礫の神殿を眺めていた。


ゼウスはしばらく神殿を眺めていたが、何も言わずゲートを開き消えていった。


「・・・お父様」


アシーナはメティスの話を思い出す。


(もしもお母様の言っていたことが真実なら、私達のしている事って・・・)


「アシーナ様、大丈夫ですか?」


アルテミスが心配そうに声をかける。


「え、ええ。大丈夫よ。ありがとう」


「祝福すべき日にとんでもないことになっちゃったわね」


アシーナは平静を装うが、明らかに無理をしている事はアルテミス達には分かっていた。


「フン。この程度の事で冷静さを欠くとは情けねえ」


「・・・そうね。あなたの言う通り」


アレスは、まるで牙を抜かれた獣を目の当たりにしているかのようなアシーナに苛立ちを隠せずにいた。


「ちっ!! 『エポヒ』が聞いて呆れる。」


アレスは自分に言い聞かせるように吐き捨てた。


「デイモス、エリス。行くぞ」


アレスは踵を返す。


「どこへ行くつもり? オリンピアを、神殿を復興させないと・・・」


アシーナはアレスを引き留める。


「知った事か。そんな事はお前達で勝手にやっていろ。俺にはやるべきことがある」


アレスはそう言い残し歩き出した。


デイモスとエリスはアシーナ達に頭を下げアレスに続いた。


しばらくアレスの後ろを歩いていたデイモスが口を開いた。


「ねえアレス。本当に良かったの? こういう時こそ皆で協力した方がいいと思うんだけど」


「今回ばかりはデイモスに賛成ですわ。あなたのお気持ちも分かりますけど、今は意地を張っている場合では・・・」


「うるせぇ!!! 分かってんだ、そんな事は!!」


アレスは声を荒げる。


「何もできなかった!! 正真正銘命が掛かった戦いで殺されそうになった!! 挙句の果てには人間に助けられたんだ!! 正気でいられるわけがねえだろ!!」


「アレス・・・」


それを聞いたデイモスもエリスも、うつむき黙ってしまった。


吐露した言葉がアレスの本心である事は間違いない。


しかしそれ以上に。アレスはデイモスとエリスが殺されそうになった事に耐えられなかった。


あの時、二人が本当に死んでしまうかもしれないと思った時、言葉にできない恐怖がアレスの心を支配した。


二人を命の危険に晒してしまった不甲斐ない自分に腹が立った。


上級学院で自分の力にあぐらをかいていた事が恥ずかしくなった。


絶体絶命に陥って初めて、アシーナの言っていた事の本当の意味を理解した。


「俺は、しばらくオリンピアに戻る気はねえ。」


「・・・・・え?」


二人は不安を露わにする。


「お前ら、もう無理に俺に付き従う必要なんてねぇぞ。好きなようにしろ」


「もしも次に同じような事になったら・・・守り切れる自信がねぇ」


二人はアレスの迫力に押されしばらく目を丸くしていたが、その言葉を聞いてお互い顔を見合わせると同時に笑い出した。


「あははっ!!! アレス、そんな事思っていたの?!」


デイモスは腹を抱えて笑う。エリスも口元を押さえてはいるが、明らかに笑いを堪えていた。


「これまでずっと一緒にいたのに、本心を聞いたのは初めてな気がするよ」


「そうですわね! 何だかとても新鮮な気分ですわ!」


二人の様子を見ていたアレスは怒りを露わにする。


「っ!! 俺は真剣にっ・・・・!!!」


デイモスは右手でアレスを制す。


「僕だって、ずっと思ってたんだ。いつまでもアレスの後ろに隠れているだけじゃダメなんだって。アレスを守れるくらい強くならなくちゃいけないんだって。今回襲撃されて、心からそう思ったんだ。エリスも同じ気持ちだと思うよ」


「わたくしもデイモスも、もうあの頃とは違いますわ。あなたに守られているだけの存在ではないのです。いつまでも子ども扱いされては困りますわ」


エリスは胸の前で拳を握る。


「・・・・お前ら」


「成長したのはアシーナだけではありませんわ」


「もう忘れちゃったかもしれないけど、僕とエリスが裏山で迷子になっていた時、アレスが助けてくれたんよ。見捨てないでずっといてくれた。アレスはそんなつもりじゃなかったのかも知れないけど、僕達はそれがすごく嬉しかったんだ」


「確かに見た目は恐いし乱暴だし、不器用かもしれない。だけど、僕とエリスは知ってるんだ。アレスは、本当は優しくて仲間想いだってことを」


デイモスとエリスは曇りのない瞳でアレスを見つめる。


「そもそも、無理矢理従わされていたのならこちらから離れていましたわ」


「そうだよ。僕達はアレスと居たいから今まで一緒だったんだ。決して無理矢理なんかじゃない。僕達の本心だよ」


デイモスは力強く頷いた。


「他の誰もがあなたに味方しなくても、わたくしは・・・わたくしとデイモスだけは、何があってもあなたを信じ、あなたについていきますわ。たとえこの身が滅びようとも」


エリスの頬に一筋の涙が伝う。


「ですから、そんな悲しい事は言わないでくださいな。傍に居させてくださいな」


アレスは二人を見つめたまま立ち尽くしていた。


ずっと、仲間と呼べるものはいないと思っていた。


二人を助けた事だって、優しさからなんかじゃない。優越感に浸れると思ったからだ。恩を売る事で従える事ができると思ったからだ。


全て、孤独を紛らわす為のものだった。


「・・・・・本当に、お前らがいなくなっちまうと思ったんだ。それを悟った時、どうしようもなく怖くなったんだ」


アレスは初めて二人の前で本音を語った。


「失いそうになって分かったんだ。お前らの事が、大切なんだって」


エリスはそっとアレスを抱きしめる。


「強くなりましょう。もっと。三人で」


「そしていつか、アシーナを驚かせてあげましょうよ」


「僕達も、アレスの足を引っ張らないように頑張るから」


デイモスはアレスとエリスを真剣な眼差しで見守っていた。


「二人とも! 嫌だと言っても離れないからね!」


デイモスは気を紛らわすように二人めがけてジャンプする。


二人は咄嗟にデイモスを躱す。


「ちょっ?!!」


デイモスは地面にダイブし思い切り顔をぶつけた。


「避けるなんてひどいじゃないか!」


そんなデイモスを見てエリスは笑い声をあげる。


「すまん。何となくだ」


「同じくですわ」


二人は互いに顔を見合わせ頷いた。


「何だよそれ!!」


エリスは笑いながら、ものすごい剣幕で迫るデイモスをなだめている。


アレスはしばらく二人の様子を眺めていた。


自然と笑顔になっている自分に驚いた。


「デイモス、エリス」


アレスは歯で指を切る。親指からは血が滴り落ちる。


「誓いだ。これからは、何があってもお前達を守る。この身を犠牲にしてでも。その為に強くなる。お前達を守れるくらい」


デイモスとエリスも指を切り、アレスの差し出す指に押し付ける。


「僕も誓う」


「わたくしも誓いますわ」


自身の奥底で仄かに光る掛け替えのない宝物に気付いたアレスは、噛みしめるように何度も心の中で誓った。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


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