第44話 奈落より引き上げられし真実
「ゼウス・・・」
俺は長年恨み続けた敵を目の前に何とか冷静さを保っていた。
そんな俺に気付いたのか、ピュラは俺の服の裾を掴む。
「まさか異空間迷宮を生き延びるとはな。ゴキブリ並みの生命力に驚嘆するばかりだ」
「伊達に呪われし闇の力を覚醒させていないか。人間の血が入った貴様を見るだけでも虫唾が走るというのに、世界を滅ぼしかねん災厄がのこのこ何しにこの地に踏み入った? まさか、今更家が恋しくなったとは言うまい?」
「お前は馬鹿か? どこの世界に迫害され殺されかけた家に戻ろうなどと言う阿呆がいる。恋しくなっただと? 笑わせるな」
メティスは静かに俺の前に跪いた。
「あなたをお待ちしておりました。我が主よ」
「な・・・・」
ゼウスもアシーナもメティスの取った行動に釘付けになり、その理解できない行動に硬直していた。
二人に言葉を失わせるには十分すぎる程の衝撃だった。
「メティス・・・貴様、何をしている?」
ゼウスの言葉を無視しメティスは俺に跪いたまま続ける。
「十数年前に神託を授かりました。『銅の時代』すなわち現代に、生まれながらに闇の力を有しその身に紋章を持たない者が現れ、その者こそこの世界の救世主である、と」
「何の話だ? この呪われた力はゼウスが俺を殺す口実を作るためにわざと覚醒させたものだろう?」
「いいえ。確かに『開花の儀』は、ゼウスにより幼き神々に刻まれた紋章に働きかける事でその者の中に眠る潜在能力を引き出し神術を開花させるもの」
「しかし。あなたが持つその力は、ただ一人の神を除いて誰も授かる事のなかった非常に貴重な能力。この腐りかけた星を救う事の出来る最後にして唯一のエーテル。星に選ばれし力」
「開花の儀があなたに眠る本来の力を呼び起こすきっかけとなったに過ぎません。ゼウスがその力を覚醒させたわけではないのです」
「・・・ちょっと待て。」
俺はわけがわからなくなりメティスの話を遮った。
「この力は生まれた時からあった? 神術? 誰も覚醒していない?」
俺は首を振る。
「それはあり得ない。現に、俺には神の証である紋章もなければ神々が平然と扱う神術も使えない。それに、この力ならお前ら『奈落の闇』だって持っているだろう。何度か実際に能力を目にしたが、俺のものと比べても遜色ないように思えたが?」
メティスはゆっくりと立ち上がり首を振った。
「選ばれしオリジナルであるあなたの力と、我々のような大量生産品では明らかに性質が異なります。」
「その証拠に、あなたの力は吸収したエーテル・神術を自身の力として振るう事が出来る。我々の持つ闇の力はただ物体のエーテルを吸い上げる事しかできない。」
「この世界に存在する神術は全て。やがてあなたに帰結します」
俺はメティスの言葉に驚くほかなかった。ただその場に立ち尽くす。
頭の中が整理できない。情報量が多すぎて処理しきれない。
ピュラはそんな俺を心配そうに見上げていた。
思考停止し完全に無防備になった俺の頭上に突如巨大な雷が発生する。
「・・・・・」
頭上に集まった雷が、無防備な俺に巨大な落雷となって襲い掛かる。
呆然と立ち尽くす俺を避けるように、巨大な雷の柱は凄まじい力で捻じ曲げられ地面に大きな穴をあけた。
「やらせるとでも思ったか? お前の考えている事など容易に想像がつく」
メティスは俺の前に立ちゼウスに背を向けたままだ。
「黙って聞いていれば適当な事ばかり言いおって。それ以上くだらぬ御託を並べるなら、そこの災厄と共に灰にするぞ」
「お、お父様・・・?」
アシーナは、ゼウスが今までに見たこともない険しい表情をしている事に恐怖を抱いた。
「どこまでいっても愚かだな。神々が、貴様こそがこの世界の災厄である事に何故気づかない」
メティスはゼウスを一瞥しアシーナを見る。
「アシーナ。腐った神々の中でもお前だけは特別な存在だ。私の娘だからではない。お前もニケ様同様、この世界に選ばれた。お前には生き延びてもらわねば困る。この世界の為にな」
「お母様!!! さっきから一体何のことを言っているのですか?! 私には分かりません! ちゃんと説明してください!!」
アシーナは必死に訴える。
「お母様の眼には・・・何が見えているのですか・・・? どこまで見えているのですか・・・?」
「お前にもいずれ神託を授かる時が来るだろう。その時に全てが分かる。その時はそう遠くはない。お前がその資格を得たなら、な」
メティスはアシーナに微笑みかける。
「・・・その為にも、せいぜいこの場から生き延びる事だ」
「お母様!!!」
メティスは俺に向き直る。
「あなたに危害が及ばないようにしたいところですが、相手はゼウス。ご無礼をお許しください」
そう言うとメティスは右手を下に構えた。
「!!!!!!」
ゼウスはただならぬエーテルに身構える。
『漠』
呟くと同時に右手を手招きするように軽く振り上げた。
その瞬間、強烈なエネルギーが下方から吹きあがり、王の間一帯それどころか神殿一帯が粉々になり吹き飛んだ。




