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第43話 積み重ねた罪


オリンポス神殿、王の間―――――。


「やはり貴様の仕業だったか。メティス」


ゼウスは玉座に腰かけ足を組んでいる。


「その高圧的な態度は相変わらずだな、ゼウスよ」


王の間の扉を破壊し大きな風穴を開けたメティスは、堂々とゼウスの元まで歩いてくる。


傍らには警備兵と思われる死体が血まみれの状態で転がっている。


「まだその像を置いているのか。愚の極みだな」


メティスはゼウスの後ろの剣を掲げる像を指さした。


「そういう貴様も、しばらく見ぬうちに随分と陰湿なオーラを纏うようになったものだ。性格まで変わったか? もはやかつての聡明さも神々しさの欠片もない」


「ゲートを開けないよう空間を歪ませたのも貴様であろう? そんな芸当ができるのは貴様くらいよ」


「・・・そんな小細工をしてまで何を望む」


ゼウスは体勢こそ変えないが語気を強め鋭い視線でメティスを睨む。


それを聞いたメティスは高らかに笑った。


「よくもまあそんな白々しい態度を保てるものだ。全てを知るが故か、それとも何も知らぬが故か・・・」


「まあよい。どちらにせよお前の運命は決まっている」


メティスは右手をかざす。


「ここがお前の墓場だ。ゼウス」


「まこと、偉そうな口を利くようになったものだ。誰を前にしていると思っている? 愚か者が」


ゼウスはゆっくりと立ち上がる。


「≪環世界の彼方(メタ・ヴァリーティタ)≫」


メティスのかけた圧力が立ち上がるゼウスを押し潰す。


同時にひと際激しい破裂音と共に閃光が走った。


メティスはまばゆい光に目を細める。


王の間を照らした閃光が消えていく。


「その程度の圧力で潰れるとでも思ったか?」


ゼウスの周りを不規則な動きで駆けまわる激しい電撃が一面にほとばしった。


「相変わらず化け物じみたエーテル量だ」


「他の存在が小さすぎるだけだ」


「貴様の神術は重力を自在に操るもの。どれだけ強力な神術を使おうが根本的な原理は変わらぬ。同じ量のエーテルをぶつけてやれば相殺する。簡単な話だ」


ゼウスは面倒くさそうに手をかざし右手から無造作に軌道を描く雷撃を放つ。


やる気のない所作からは想像もできない程のエネルギーの塊がメティスを襲う。


メティスはその場に立ち尽くしたままだ。


雷撃がメティスの間合いに入った瞬間、全ての雷撃が直角に曲げられ吸い込まれるように地面に呑まれていった。


メティスを避け円形に地面が抉られ破壊された床が粉塵となり巻き上がる。


「私の前ではいかなる神術も届かない」


「フッ。まあ、そうであろうな」


ゼウスに思わず笑みがこぼれる。


メティスは破壊された足場から動かず余裕の笑みを浮かべる。


(じん)


メティスが呟くと足元に散乱する瓦礫の数々が、まるで無重力空間になったかのように軽々と彼女の周りに浮遊する。


メティスが掌を開くと、瓦礫はゼウスの周囲を取り囲むように高速移動した。


「これを捌き切れるか?」


(けい)


メティスが掌を握るように閉じると、浮遊していた瓦礫の山はゼウスめがけて一斉に襲い掛かった。


「≪全知全能(アイオニオン・キーナ)≫」


ゼウス周辺の空間に歪みが生じる。


高速で迫る瓦礫は残らずゼウスの手前で全て停止した。


雷雨(カテギータ)


ゼウスの頭上から無数の落雷が発生し、瓦礫は木っ端微塵に砕け散った。


「ふ・・・いつ見てもふざけた能力だな」


「故に、私が主神なのだ」


ゼウスは肩にかかった埃を払う。


「満足したか? であるなら、そろそろ本格的にゴミを排除しよう。私も多忙なのでな」


「おいおい。妻に対して随分な物言いだな。久しぶりの夫婦の再会だ。もう少し付き合ってくれないと寂しいではないか」


「『元』だ。もはや貴様は私の知るメティスではない。ただの反逆者だ」


「その私情を徹底的に分けられるのはお前の才能だよ、ゼウス。並みの者はお前のように完全に切り離せない。お前の強さはそこから来るのかも知れないな」


メティスの右腿の黒球のようなブラックホールを連想させる紋章が黒く輝きだす。


同時に王の間全体を包み込むほどの黒い魔法陣が展開される。


「勝った気でいるのなら、それは早計だ。()()()()()()()()()()()()()?」


メティスが右手をかざす。


(かん)』。


先程よりも遥かに高純度のエーテルの超重力の黒い塊を形成する。


「確かに、俺の知るメティスはここまでの神術展開は見せたことがなかった。だが、取るに足らぬ些事よ。エーテル量でこの私に張り合おうなど・・・」


ゼウスが手をかざし意識を集中した時だった。


なぜか、かつてニケに感じたおぞましい感覚を思い出した。


「その力・・・・・貴様、まさか」


「安心しろ。お前の死は無駄にはならない。むしろ、死んでくれた方が余程この星のためというものだ」


「世界の為に。いや、この星の為に消えてもらおう」


メティスは右手を開き超重力の塊を放った。


「!!!!!!」


その瞬間、放たれた超重力の塊は放った速度よりも速く、全く同じ軌道でメティスに跳ね返ってきた。


メティスは咄嗟に跳躍し、自身に向けられたエネルギーを何とか躱す。


王の間の扉に直撃した黒い塊は、ブラックホールのように入り口付近の物質を引き寄せ収縮し消えていった。


球状に綺麗に抉られた跡が、恐ろしい程の破壊力を物語っていた。


「ご無事ですか? お父様」


ゼウスの目の前には、金色の装飾が美しい純白の盾を携えたアシーナが立っていた。


「アシーナ」


メティスは思わず娘の名を呼ぶ。


「お母様・・・・・なぜですか?」


「・・・どうしてこんな事を?!」


アシーナは不安と恐怖を抱いた表情で叫ぶ。


「お前達に話したところで理解はできまい。私を含め、何千年と何も疑問を抱かずに継承されてきたが故に、それも無理はないがな」


「お前たちは重大な過ちを犯している。そして、それに気づくことなく歴史を積み重ねてしまった。それは、もはや取り返しがつかない所まで来ている」


「お前たち神族にできる事はただ一つ」


メティスは二人を指さす。


「運命を受け入れ、滅びゆく事。それだけだ」


「お、お母様・・・・一体、何の話をしているのですか?」


ゼウスは苛立ちを露わにし、アシーナの前に立つ。


「黙って聞いていればくだらん事を。過ちを犯すのは常に人間だ。故に神族が正しい方向へ導いてやらねばならん」


「メティス。貴様はまだ生まれていなかった故に分からんだろうが、2000年前のティタノマキア。発端となったのは忌まわしき人間だ。奴らはあろうことか、人間でありながらこの世界を制圧しようと目論み、神族を従えようとしたのだ」


メティスは黙ってゼウスの話に耳を傾ける。


「クロノスは、巨神族はそれに賛同し加担した。故に私は軍を起こし、巨神族もろとも人間を浄化した。」


「私が生まれるより前、『星の時代』にも似たようなことがあったと伝えられている。つまり、何千年経とうが過ちを犯すのは、いつまでも学習しないのは常に人間なのだ」


話を聞いていたアシーナの頬に一筋の汗が伝う。


「元来、遥か昔『星の時代』では神も人間も等しく神術を扱えたと言う。神術と名をつけ定義したのは私だが、人間も自在にエーテルを操る時代があったのだ。だが、それがそもそもの間違いだった。人間ごとき脆弱な生物がなまじ身に余る力を持ったが故に、下らんことを画策する輩が現れるようになったのだ」


「そこで私は人間どもに崇めるべき神に対し畏敬の念を思い出させるために、世界のエーテルを管理し神々だけが神術を使えるよう調整。そして人間の力を制限した」


黙って話を聞いていたメティスは堪えきれず、ついに笑い声を上げた。


「ククク。あははは!!!!!!」


額に手を当て空を仰いだ。


「ははははは!!! これは思っていた以上に重症だ!!! もはや手遅れと言っていい!!!」


「本当に愚かだなゼウス!! お前は何一つ分かっていない!! 全知全能が聞いて呆れるな!!」


ゼウスは眉間にシワを寄せる。


「ほう?」


「世界のエーテルの管理だと? ゼウス、貴様の系譜が代々やっている事はこの星の死期を早めているにすぎん」


「ここまで無知だったとは。もはや重罪だ。」


メティスは更に力を開放する。


「最後によく笑わせてもらったよ。これで心置きなく殺せるというものだ。」


「貴様。どういう意味だ?」


「この星の為に消えてくれ」


メティスが手をかざすとゼウスはメティスではなく、その後ろに立つ存在に注意を向けている事に気が付いた。


メティスが振り返ると、王の間の抉られたドアの横に黒ずくめの黒髪の男と、傍らに赤髪の少女が立っていた。


「ニケ・・・ピュラちゃん・・・」


二人の姿にアシーナは戸惑い動揺した。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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