第42話 再会
アルテミスは軋む体に鞭を打ち何とかオリンポス神殿の正門前にたどり着いた。
門の前には無残に警備兵の死体が転がり、巨大な扉は大きな風穴が開き破壊されている。
神殿の華々しく豪華絢爛な姿はもはや過去のものとなっていた。
「・・・ひどい」
アルテミスは唾をのみ覚悟を決める。
「アルテミス・・・?」
アルテミスが正門を潜ろうとした時、横から一人の女性に声をかけられた。
「レト教授?!」
アルテミスは駆け寄ろうとするが身体中の痛みに顔をしかめる。
「ケガをしているようですが、とにかく無事で何よりです」
「そういうレト教授もお顔がすぐれませんね・・・」
「今、オリンピア一帯は闇の力に浸食され皆のエーテルを少しづつ吸い上げているみたいです。その影響でしょう。アマルティア学院長が原因を探りに向かってくれています」
レトは苦笑いする。
「最上階へ向かうのですか?」
「はい。アシーナ様が待っていますので。少しでも役に立ちたいんです」
「相変わらず、アシーナさんの事を慕っているのですね」
「私の憧れの人なので」
アルテミスは笑顔で応える。
「フン。アシーナアシーナってうるせぇな。俺の前で気安くその名前を呼ぶんじゃねえ」
アルテミスが声のする後方を振り返ると、デイモスとエリス、そしてアレスの姿があった。アレスは眠りにつく見知らぬ人を背負っている。
「アレス様? うっ!!!」
アルテミスは激痛に膝を折る。
「大丈夫?!」
レトは咄嗟にアルテミスを支えた。
「す、すみませんレト教授・・・」
「アポロンやアフロディーテは一緒じゃないのか?」
「はい。大聖堂に突然黒ずくめの男が現れ学院を襲撃したんです。お兄様が盾となり、道を切り開いてくれました」
「『奈落の闇』と呼ばれる集団がエーテルを求めて生徒を襲い学院に散らばっていて、彼らを止めるために二人とも戦っています」
アルテミスは脇腹から血を流すアレスの姿に気付く。
「その傷・・・まさか、アレス様も襲われたんですか?!」
「いちいち騒ぐな。無事だからこうしてここにいる」
アレスは深くため息をつく。
「・・・まあ、実際の所こいつのおかげで何とかなったようなものだがな・・・」
「そのお方は・・・人間、ですか? 不思議な雰囲気をお持ちですね」
「ああ、人間だ。ニケを探しているらしい。当の本人はどこにいるのか知らんが直感でここへ来た。どうやら当たりだったみたいだが。」
「ニケ・・・もしかしてアシーナ様の・・・」
アレスは舌打ちする。
「とにかく、神殿に入らねえならそこを退け。俺は上に用がある」
「あら? 宴に顔も出さないで早々に帰宅したアレスじゃない。どうしたの? 何か忘れ物?」
アフロディーテは高笑いしながらこちらへ歩いてくる。
その声を聞いたアレスのこめかみの血管が浮き出る。
「あ、もしかしてアシーナに粉々にされたプライドでも拾いに来たのかしら?」
デイモスとエリスの顔が強張った。
「うるせぇな。今はお前とじゃれ合っている暇なんてねぇ。さっさと消えろ」
「ひっど~い! 絶世の美女のこの私にそんな乱暴な言葉を吐くのはあなたくらいよ。野蛮人さん♪」
アフロディーテはアレスが背負う女性に気が付き意地悪な笑顔を浮かべる。
「あら? アレスって一途だと思っていたけど意外と・・・もしかしてアシーナに振られちゃったから乗り換えたの? よりによって人間に」
「そ、そんなこと!!!」
急にエリスが割って入る。
「ないと思いますわよ・・・」
勢いで割って入ったエリスは咄嗟に取り繕った。
それを見たアレスはため息をつく。
「・・・そんなんじゃねぇ。あまりくだらねぇ事言ってるとその首はねるぞ」
「冗談も通じないなんて、ほんとに野蛮人ね」
アルテミスはアフロディーテの後ろから、ケストスに包まれ浮遊してくるアポロンに気が付いた。
「お兄様!!!」
「大丈夫よアルテミス。あなたの大好きなお兄様はちゃんと生きているわよ」
「死にそうだった所を、慈悲深~いこの美の女神が文字通り神の手を差し伸べてあげたのよ。感謝なさい」
アフロディーテは高笑いして自慢の金髪を掻き上げた。
「本当に、ありがとうございます。アフロディーテ様・・・」
兄が生きていた事に感極まったアルテミスは座り込み、零れる涙を止めるように両手で顔を覆った。
それを見下ろすアフロディーテは困ったように微笑む。
「アフロディーテ。そろそろ降ろしてくれ。自分で立てるくらいには回復した」
「あら? 黙ってそのまま介護されていればいいのに。その時間が長くなるほど私は得するんだし♪」
「・・・勘弁してくれ」
アフロディーテはケストスを解きアポロンをゆっくりと地面に立たせる。
「心配かけたな。無事でよかった、アルテミス」
アポロンはアルテミスの頭を優しく撫でる。
「お兄様・・・ペル、セスが・・・」
あまりに深い悲しみにそれ以上の言葉が出てこない。
「ああ。言わなくていい。」
全てを悟ったアポロンは嗚咽するアルテミスをそっと抱きしめた。
アルテミスは兄の腕の中で全ての思いを吐き出すように泣き続けた。
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