第39話 過ち
「ちょこまかと小賢しいな! いつまで逃げ回るつもりだよ!!」
ペルセスは毒性の黒弾を飛ばし、一定の間合いを取り続けるアルテミスを挑発する。
アルテミスは森の木々を利用し全ての黒弾を躱し、上空からエメラルドの弓矢を放つ。
「遅いんだよ!!」
ペルセスは加速し矢を叩き落とし高く跳躍する。そしてアルテミスの間合いに滑り込んだ。
毒性の黒霧を纏った右手でアルテミスを打ち下ろす。
アルテミスは咄嗟にガードするが、毒に触れた腕は激痛とともに焦げた音を響かせる。
「きゃっ!!!」
そのまま体勢を崩し勢いよく地面に叩き付けられた。
全身を強打し悶えるアルテミスは立ち上がれない。
ペルセスはゆっくりと着地しアルテミスを見下ろした。
「立ってくれよ。こんなんじゃ僕の恨みは全然晴らせない。」
「うっ・・・・」
アルテミスは何とか立ち上がる。
「ペルセス・・・・もうやめて。あの頃のペルセスに戻ってよ。」
アルテミスは腕の痛みに耐えながら必死に説得する。
ペルセスは舌打ちする。
「・・・・・君さぁ。ほんと、よくそんな事言えるよね。」
ペルセスの姿が消える。
背後に回り込んだペルセスは毒の腕でアルテミスを強打する。
「うあっ!!!!」
肌の接触部がただれ、アルテミスは大きく吹き飛ばされた。
大木に激しく打ち付けられる。
「うぅっ・・・・・」
「あの時逃げ出した君に、なんでそんな事言われなきゃいけないの? 君にそんな権利あるとでも思ってるの? ほんと、腹立つなぁ。」
ペルセスはアルテミスの前に立ち、思い切り蹴り上げる。
「ああっ!!!」
焦げる音を響かせアルテミスは後方へ倒れた。
ガードした両腕はボロボロの状態だった。激しい痛みに息を切らす。
「もっと抵抗してくれないとつまらないだろ? さっさと本性出して本気で襲って来いよ。あの頃みたいに冷徹になってさ。」
「裏切り者の君がやる気を出してくれないと、こっちも調子が出ないんだ。」
「だから・・・・・ん?」
倒れたアルテミスのボロボロの腕が見る見るうちに元に戻っていく。まるで何事もなかったように、完璧に修復された。
アルテミスの身体は淡い緑色に包まれていた。それに呼応するように右肩の三日月が強く輝いている。
「ははは!!! こりゃあいい!! 君の能力は自己治癒ってわけか!!」
ペルセスは手に毒を纏わせ拳を上げる。
「つまり、どんなに痛めつけようが簡単に死ぬことはないわけだ。」
ペルセスは飛び上がりアルテミスめがけて拳を振り下ろす。
アルテミスは紙一重で身をよじり、何とか躱す。
「だから遅いんだよ!!」
ペルセスの掌から大量の毒霧が放たれ、アルテミスの全身が毒に触れる。
「あああっ!!!!」
アルテミスの全身を毒牙が襲う。瞬く間に肌が紫色にただれ衣服は溶け始める。
緑色のエーテルに覆われたアルテミスの体は再び回復していく。纏うエーテルはやや色合いが濃くなっていた。
「あはは!! いいねえ!! もっと苦痛を味わいなよ。僕が受けた苦痛はこんなものじゃないよ。」
アルテミスは力を振り絞り、やっとの思いで立ち上がった。
「ハァッ・・・ハァッ・・・。」
「やめなよ。そういう分かりやすい演技は。どう見たって傷は癒えている。」
「もう立てませんみたいな顔しちゃってさ。そんな子供だましに引っかかるとでも思ってるのかい?」
ペルセスが一歩踏み込んだ時だった。
突如、ペルセスの横を大きな影が通り過ぎた。
その姿を見たペルセスはニヤリと笑う。
巨大な狼の姿をした魔物が一匹乱入し、低く唸りアルテミスを狙って威嚇する。
狼の魔物は飛び上がりアルテミスを食らおうと大きな口を開け迫る。
アルテミスは力を振り絞り青緑の矢で魔物を打ち抜いた。
「ハッ・・ハッ・・ハッ・・・!!」
力が抜けアルテミスはついにその場に膝をついた。
その期を伺っていたかのように、ぞろぞろと巨大な狼の魔物が茂みから現れアルテミスを取り囲む。
「あはははは!!!! これは傑作だ!!! 何の因果か、あの時と同じ状況じゃないか!! 天は僕に味方したようだね!」
「神などに祈りはしないが、わざわざ同じ状況を作りだしてくれたこの環境に感謝だ!! 復讐を遂げろと言われているようだよ!!」
ペルセスは両手を空に掲げ高らかに笑い声を上げた。
笑い声と同時に魔物が一斉にアルテミスに襲い掛かる。
「やあああっ!!!!!」
アルテミスは渾身の矢を放ち、囲んでいた全ての魔物を打ち抜いた。
「うっ・・・・」
狼の魔物の亡骸に重なるようにアルテミスも地面に倒れる。
疲労によりエメラルドの矢はその姿を保てず消え去った。
ペルセスは魔物の死体を退け、ゆっくりとアルテミスの前に立った。
「あはは!! 実にいいね!! いきなり現れたから何かと思ったけど、どうやら魔物にまで嫌われているようだね。」
「いい感じに疲弊させてくれたけど・・・」
ペルセスは掌に巨大な毒霧のオーラの塊を作り出す。
「やっぱり、止めは僕が刺さないとね。」
そこへ、もう一匹クマのような大型の魔物が大きな足音を立ててやってきた。
巨大な魔物はアルテミスの前で立ち止まった瞬間、魚を救い上げるようにアルテミスを思い切り叩く。
「きゃあっ!!!」
アルテミスは大木に激しく打ち付けられる。
あまりの衝撃に大木は大きな音を立て倒れ地面を揺らした。
体中に激痛が走りギシギシと悲鳴を上げる。
「ごほっ!! ごほっ!!」
アルテミスは空に大量の血を吐き自身を汚した。
瀕死の状態に反するように、アルテミスの体の傷は次第に癒えていく。
「おい。止めは僕が刺す。これ以上の邪魔は流石に許さないよ。」
クマの魔物はペルセスには見向きもせず警告を完全に無視し、まるで何かに取り憑かれたようにアルテミスに襲い掛かった。
「おい! いい加減にっ・・・!!」
その時、ペルセスの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
魔物達は皆、なぜ執拗にアルテミスにだけ襲い掛かる?
これだけの魔物に襲われたというのに、一匹たりともペルセスに襲い掛かった魔物はいなかった。
ペルセスの存在に気付いていないとすら思える程、明らかにアルテミスにだけ注意が向いていた。
思えばあの時も―――――。
子供の頃ペルセスとアルテミスは幼馴染で、アルテミスの兄アポロンを含めた三人でよく一緒に遊んでいた。
そんなある日。
「なあ二人とも。 今日は山の方に行ってみないか? ちょっと冒険してみようよ。」
「ええ?! こ、こわいよ。それに、ママが山の方は魔物がたくさんいて危険だって・・・・・」
アルテミスは不安を露わにする。
「大丈夫だって! いざとなったら僕とアポロンが守るからさ!」
アポロンもペルセスに同意し頷いた。
「そうだな。もしもそうなれば全力で助ける。それに、俺も山の方へは踏み入ったことがなかったから、ちょうど行ってみたいと思っていたんだ。散策したい。」
それを聞いたペルセスは微笑んだ。
「決まりだな! 行こう!!」
ペルセスはアルテミスの手を引き走り出した。
「わわっ! ま、待ってよ! ペルセス!」
「どうせなら頂上まで行ってみよう!」
三人は山の麓へたどり着く。
「ね、ねえ。本当に入るの? 山が、木や草が止めなさいって言ってるよ?」
「アルテミスは心配性だな。アポロンもいるし、僕だっている。」
「心配するなアルテミス。」
アポロンはアルテミスの肩に手を置いた。
「う、うん。わかった。」
アルテミスは頷き三人は走り山の中へ入っていった。
道中、道と呼ぶにはあまりにも足場の悪い山道を、草木をかき分けながら登っていった。
しばらく進むと道が二つに分かれていた。
「さて。どっちに進もうか・・・」
アポロンは分岐点の前で悩んでいる。
「じゃあさ、三人同時に行きたい方向に指さそうよ。」
一斉に指をさすと、ペルセスとアルテミスの二人と、アポロン一人で割れた。
「じゃあ、こっちで決まりだな。アポロン、いいか?」
アポロンは納得できない様子で立ち止まっている。
「お前たちはそっちの道で構わない。俺はどうしてもこっちに行きたい。気になる。」
「お、お兄様・・・?」
不安そうにアポロンを見つめるアルテミスを見てペルセスは頭を掻く。
「気になるって、おまえなぁ・・・」
「そんな、一緒に行こう? お兄様。」
ペルセスはため息をつく。
「こうなったアポロンはテコでも動かないよ。全く、好奇心の塊というか何というか・・・」
ペルセスは頭を掻く。
「わかったよ。その代わり早めに合流な。あまり離れるのも危ないし。」
「ああ。分かってる。それじゃあ、また後で。」
アポロンと別れ、ペルセスとアルテミスは反対の道を進んだ。
「お兄様・・・大丈夫かな・・・」
ペルセスはアルテミスの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。アポロン、ああ見えてすごく強いんだ。学園のクラスでも有名だぞ。」
「そうなの?」
「そうだよ。あいつ、パッと見は真面目で地味な奴だけど運動神経だっていいし、あの年でもう一人で魔物を倒してる。何でいつも目を瞑っているのかは謎だけどね。目を開けてたらもっとすごいはずなんだけど。」
「とにかく! 心配はいらないって!」
「うん!!」
アルテミスの表情が明るくなった。
ペルセスはアルテミスの手を引き、山の奥へ進んでいった。
しばらく歩いていると少し開けた場所に出た。
「ふう。結構歩いたな。アポロンはまだ来ない、か。」
ペルセスは来た道を振り返るがアポロンの来る気配はない。
「仕方ない。休憩しながらアポロンを待とう。」
「う、うん・・・・」
アルテミスは奇妙な静けさに段々不安になってきた。
しばらく休んでいると、茂みがガサガサ揺れた。
「アルテミス! こっちに!!」
ペルセスはアルテミスの前に立ち茂みを見つめる。
「グオオオオ!!!!!」
茂みから大型の狼の魔物が飛び出し二人に襲い掛かった。
「きゃあ!!!!」
アルテミスは両手で頭を抱えてうずくまる。
「このっ!!」
ペルセスは魔物に立ち向かうが、魔物の爪に引っかかれ弾き飛ばされた。
「うわああっ!!!」
地面に激しく打ち付けられ転がったペルセスの体には、巨大な三本の爪痕が刻まれ大量の血が溢れだした。
「ペルセス!!!」
アルテミスはペルセスの無残な姿に叫び声を上げる。
「グオオオオオオ!!!」
アルテミスは魔物の咆哮に、どうしようもない絶望的な状況に固まってしまう。
倒れるペルセスの背後の茂みから、更に二体の狼の魔物が姿を現す。
「ア・・・アルテミス・・・・」
ペルセスは必死に手を伸ばす。しかし、大量の出血で力が入らない。
突然、アルテミスは自分に背を向け全力でその場から去って行く。
ペルセスは信じられない光景に目を見開いた。
「ま、待ってくれ! アルテミス!!」
必死の叫びも虚しく、消えゆくアルテミスの背中に手を伸ばすペルセスは、深い悲しみと共にその瞳を閉じ地に伏した。
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