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第38話 魅惑の女神


パラスはアフロディーテの振り撒く薔薇の花びらを(ことごと)く黒箱に閉じ込め、爆撃を封じ込めていく。


「ははっ!! お嬢ちゃんの神術、見た目によらず派手というか、好戦的というか性格が表れているのか? そのギャップもまたいい。」


「あら? 私はギャップだなんて思った事は一度もないわよ。その点エーテルは私の事よく理解していると言えるわね。割とお気に入りよ♪」


アフロディーテの胸元の紋章がひと際明るく輝く。


パラスの足元に巨大な一輪の薔薇が生成される。


アフロディーテが指を鳴らすと同時に周囲を揺るがす大爆発が起こった。


学園に続く橋や森の木々が衝撃波でギシギシと悲鳴を上げる。


少し離れた場所で見守る生徒達も余波に耐えていた。


「私は元々派手好きだし、激しいのが好きなのよ。」


アフロディーテは笑みを浮かべ上空を見上げる。


黒いキューブに身を包み衝撃を逃れたパラスがゆっくりと着地した。


「なるほどな。こりゃあ余計にやる気が出る。」


「女を傷つけるのは好みではないが、気の強いお嬢ちゃんだ。多少痛くしても問題ないよな?」


パラスはアフロディーテに向かい手のひら大のキューブを放る。


アフロディーテはキューブの軌道に合わせ花びらを当て爆発させた。


パラスが歯を見せ微笑む。


爆撃を受けたキューブが更に細かく分離し無数のキューブとなりアフロディーテに迫る。


アフロディーテは吹雪のように薔薇の花びらを振り撒き、ケストスを浮かせ自身の周りに羽織るように包み込み姿を消した。


拡散したキューブと花びらが接触し無数の大爆発を起こす。


「薔薇の花びらはともかく、その帯はやっかいだな。それにその空間移動術、ゲートとは違うな(・・・・・・・・)?」


パラスは頭を掻く。


「あら。よく気付いたわね。そう、私のこれはユピテリアの神々が使うゲートとは少し違うのよ。」


「それに気づくなんてあなた、ユピテリアの者ではないわね?」


アフロディーテは橋の上に腰かけパラスを見下ろす。


「ご明察。俺は元々アース出身だ。お嬢ちゃんもそうだな?」


「そうよ。アースでの空間移動はほとんどの場合、物を媒体にする。ゲートと効果はほぼ同じだけど、エーテルを直接使用せず物を通す事で空間の歪みや外的要因に左右されにくく、移動距離に制限はない。」


「まあ、媒体にする物へのエーテル付与自体が高度な技術を要するから、ユピテリアの神々のように使用者の数が多くない事は欠点かもね。それにしても、まさか私以外にガイアから来た奴がいるなんてね。」


アフロディーテは自身の周りを囲むように浮遊するケストスを撫でる。


「お嬢ちゃんのその帯、かなり凝った複雑な柄だ。その上長さもある。そんな帯に寸分の狂いなくエーテルを編み込む技量。並大抵ではないな。」


「物体にエーテルを付与すると簡単に言うが、その物体の情報を正確に読み取った上でエーテルを流し込み、かつ強弱あるいは濃淡の加減といった細かい操作が必要になる。相当なエーテル操作技術がなければ、その帯を自在に操るのは不可能だ。」


「そう? 単に編み物が好きなのよ、私。」


パラスは頭を掻く。


「・・・・・食えないお嬢ちゃんだ。」


「こりゃあいよいよ本気でやらなきゃまずいかな。」


パラスの紋章が黒く輝く。


アフロディーテは妖艶な笑みを見せる。

 

「ねぇ。その黒いキューブ、自分に放ってくれない(・・・・・・・・・・)?」


パラスが手にキューブを作り出した時、パラスは急にスイッチが入ったようにアフロディーテの言葉に従った。


アフロディーテの言う通り、パラスは自分自身の左肩にキューブを放った。


パラスの左腕がキューブに呑まれ跡形もなく消え去る。


しばらく気力のない虚ろな目で立ち尽くしていたが、すぐに意識が回復する。


「ぐあああーーー?!! な、なんだ?! 何が起きたっ?!」


我に返ったパラスは肩の痛みに膝をついた。


「あはははは!!! ようやく効いてきたみたいね。 あなた、大分タフよ。効き目がないのか心配しちゃったじゃない。」


「な、何だと・・・?!」


「私の≪大海に咲く薔薇(タラサ・ローダ)≫、そしてこのケストス。これらは、対象が視界に入れている時間が長ければ長い程、内側から徐々に対象のエーテルを書き換え私に魅了されるように浸食する。」


「視覚に作用するだけでなく、薔薇やケストスの発する香りにも魅了する効果がある。普通の男はケストスを見るだけでも数秒で私の虜になるんだけどね。二つの強力な要素がありながら、あなたには小一時間程かかってしまった。」


「まあ、男意外には効果がないから融通はきかないけどね。もうあなたの肉体の主導権は私が握っているようなもの。潔く降参したら? 降参すれば死に方くらいは選ばせてあげるわよ?」


苦痛に顔をしかめるパラスはゆっくりと立ち上がる。


「冗談言うなよ。そんな格好悪い真似できるか。」


パラスは残った片手でキューブを生成する。


「それ、あなたの左脚に放ってくれない?」


パラスは再び目が虚ろになり自身の左脚にキューブを放った。


左半身が消し飛び、パラスは地面に倒れる。


「っ?!!!! ぐああああああ!!!!!」


「無駄よ。一度私に魅了されれば全て私の思うまま。あなたが男である以上、この私と対峙した時点で勝敗は決していた。まあ、あなたが最初からすぐに勝負を決めるつもりだったなら分からなかったけどね。」


無残な姿で横たわるパラスは苦痛に顔を歪めながらも笑顔を見せる。


「はっ! よく言うぜ・・・・そうさせないように、上手く舌戦に持ち込み時間稼ぎをした・・・そんなところだろう?」


「さあ? どうかしら?」


アフロディーテは金色の髪をなびかせる。


「・・・本当に食えない嬢ちゃんだ。」


パラスは力なく笑う。


「まあ・・・俺はもともと・・・そんなに乗り気じゃなかったしな。エーテルを食らったのも、さっきが初めてだった・・・『奈落の闇(エレボス)』になんてなっちまったから、仕方なく付き合っていたようなもんだ・・・引き際としてはちょうどいい・・・」


「がはっ!!」


「・・・こっちへ来てくれるか? 最後にお嬢ちゃんの顔を見ておきたい。」


アフロディーテは黙ってパラスの願いに従った。そして彼の前に座り頭を持ち上げる。


「フッ・・・本当に絶世の美女じゃねえか。・・・こんな女見たら、能力なんて使わなくても男なら誰だって魅了・・・される、ぜ・・・」


そう言い残し、パラスはアフロディーテの腕の中でエーテルとなり宙を舞った。


エーテルの束は神殿の方へ流れていく。


その様子をアフロディーテは静かに見守った。


「・・・・・一人だけいるのよ。全く魅了されない、どうしようもないヤツが。」


アフロディーテは夜空を見上げ、一人の男を思い出していた。


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