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第37話 小さな変化


【オラオラァ!! どうした?! まだまだこんなもんじゃないよな?!】


「くっ・・・・!!!」


アスタリアの土人形は残すところ数体。アルシオーネの強力な斬撃に激しく攻めてたてられ、防戦一方のアスタリアには明らかに焦りが生じていた。


おまけに斬撃に触れればエーテルの流れが遮断されてしまう。


土人形を駆使し何とか攻撃を避け反撃の機を伺っているが、そんな隙は到底生まれない。


「はあっ! はあっ! ・・・・・このままではまずいですね。」


アスタリアの土人形は残り二体となった。


極度の緊張が続きアスタリアは息を切らす。


対してアルシオーネは大きく口を開けあくびをする程余裕を持て余していた。


【ふぁ~あ。そろそろ打ち止めか~? ま、外界の小動物にしちゃ粘った方じゃないか?】


【腹も空いてきたし、そろそろ終わりにするかな。】


アルシオーネは曲刀を構え、止めを刺しに神速でアスタリアの懐に潜りこむ。


壁として立ちはだかった二体の土人形は瞬時にバラバラに切り刻まれた。


「くっ!!!!!」


アスタリアが防御態勢に入ろうとするも、滑らかな剣筋はガードする腕をすり抜けアルシオーネの曲刀がアスタリアの心臓を貫いた。


その瞬間、アスタリアが溶け落ちる。


【土人形か?!!】


アスタリアは最後のエーテルを絞り出し、貫かれる瞬間に土人形を生成していたのだ。


アルシオーネの背後から闇の棘を構えたアスタリアが姿を現す。


「捉えました!!!」


アスタリアが棘を突き立てる。


同時に視界がゆっくりと傾いた。


アルシオーネは直立不動。傾いていたのはアスタリアの方だった。


「・・・・・・え?」


アスタリアはふわりと宙に浮く感覚を覚え自身の足元へ目を向ける。


アスタリアの身体は綺麗に真っ二つにされ、上半身が傾いていた。


切り離された上半身が地面に打ち付けられる。


「ごふっ!!!」


アスタリアは大量の血を吐く。


「・・・・・・どう、して・・・・・」


【う~ん。咄嗟の判断にしては、いい線いってたけどな。】


【ただ、おれたち精霊はエーテルを視認する事が出来る。お前のエーテルの流れは手に取るように分かるんだよ。だから、お前が土人形を囮にして背後に回っていたのは分かっていた。】


【おれに、精霊にはそういう小手先のごまかしは通用しない。】


アルシオーネは曲刀についた血を払う。


「ふ・ふふ・・・初めから・・・踊らされていた・・・ということですか・・・」


【まあそういうこった。相対した瞬間から駆け引きは始まってんだ。覚えとけ。】


「ふふ・・・死にゆく者に覚えとけ、とは・・・無茶が過ぎます、ね・・・」


【そうか? ま、安心しろ。魂は残さず食らってやる。】


アスタリアの返事はなかった。


【さて、エーテルが霧散する前に頂くとするか。】


アルシオーネがアスタリアの亡骸に近づくと、突然アスタリアの身体が淡い緑色に光り出した。


【おいおい! なんだ?!】


アスタリアの身体はエーテルの粒子となり、何かに引き寄せられるようにオリンポス神殿の方へ流れていく。


【ちょっ!! 嘘だろ?! おれのごちそう!!】


やがて緑色に光るエーテルは夜空の彼方へ消えていった。


【・・・・・マジかよ。】


【・・・・・長い間、身体を酷使しちまったな主。そろそろ返すわ。】


久しぶりのご馳走を取り逃がしたアルシオーネは落胆し肩を落とす。


テッサの身体が光り出し元の身体に戻っていく。


「・・・・・・・ふう。」


テッサはゆっくりと目を開ける。


意識を取り戻すと体に激痛が走った。


「・・・っ!!!」


テッサの身体が傾く。


アレスが咄嗟にテッサの身体を支える。刺された脇腹から血がしたたり落ちる。


「・・・・申し訳ありません。」


「いちいち謝るな。黙ってろ。」


アレスは軽々とテッサを背負う。


傷を負った脇腹から血が噴き出す。


「わ、私は大丈夫ですから。降ろしてください。」


「うるせえ。俺に指図するな。黙って従ってろ。」


「お前ら、立てるか?」


アレスは地に伏すデイモスとエリスに問いかける。


二人は頷き何とか立ち上がる。


「ここにいても仕方ねえ。神殿へ向かうぞ。」


アレス達は神殿へ向かい歩き出す。


四人は無言のままだった。


しばらくしてアレスがようやく口を開く。


「・・・・お前、人間なのか?」


「お前、ではありません。テッサです・・・」


「・・・悪い。テッサ、なぜ人間のお前が神と対等に戦える? それどころか、あのいけすかない女を完全に圧倒していた。人間は神々と比べて肉体的にもエーテル的にも遥かに脆弱なはずだ。」


「その認識で間違いないと思います。私が神と対等に戦えているとしたら、それは精霊の力であって私自身の力ではありません。」


テッサはアレスの背にもたれ掛ったまま答えた。


「ふん。よく言う。お前に流れるエーテルの質で、いかに人間離れした剣士であるのか判断するのは容易だ。馬鹿にするんじゃねえ。恐らく、精霊とやらの力を使わずともそこのデイモスやエリスでは歯が立たん。」


「・・・・・すみません。」


アレスは舌打ちする。


「だから、いちいち謝るなといっているだろう。お前を見ているとアシーナの奴を思い出すぜ。くそっ!!」


「ねぇ。テッサと言ったかしら? あなた、どこで精霊と出会ったんですの? 精霊は伝説の理想郷エリュシオンの住人と記憶しています。普通に過ごしていたらまず出会う事はないはずですわ。」


エリスはややアレスの横に付き、テッサに尋ねた。やや興奮気味に目を輝かせている。


「・・・・・申し訳ありませんが、それはお答えできません。」


「ふぅん。まあ、そんな簡単に知れたら苦労はしないですわね。・・・すこし残念ではありますが。」


エリスは悲しげな顔で肩を落とした。


「そんなに精霊に会いたいのですか?」


「当然ですわ! 私は小さい頃、精霊の事について書かれた本を読んで以来、ずっと精霊に憧れていたんですもの。本だって何回読み返したかわかりませんわ。いつか、一度でいいからエリュシオンに行ってみたいですわ。」


テッサはエリスの情熱にあてられ思わず笑顔になる。


「いつか・・・辿り着けるとといいですね。」


「あなた、今絶対無理だって思ったでしょう?」


エリスは頬を膨らませる。


「いいえ。その願いが叶う事を、心から祈っていますよ。」


「本当に?」


「ええ。もちろん。」


エリスの表情が明るくなった。


「ねえ、今度精霊について色々教えてくださらない? 私、本の知識しかないから、精霊と行動を共にするあなたのお話し聞いてみたいですわ。」


「というか、テッサが持つその剣にも精霊がいるでしょう? 気が向いたらでいいから、今度お話しさせてくださいな。」


テッサはエリスに優しく笑いかける。


「ええ。私でよろしければ。」


「エ、エリス・・・テッサさんは今動けないんだよ? 静かにしてあげようよ。」


怪我を忘れ興奮するエリスに、デイモスが口を挟む。


「何よ。私達だって怪我人みたいなものじゃない。いいのよ。ここにいる四人とも負傷しているんですもの。」


エリス達の会話を黙って聞いていたアレスは深くため息をつく。


「・・・・・お前ら、少しは黙って歩けねえのか。」


戦いの後とは思えない程賑やかな雰囲気にアレスは呆れる。


アレスは神殿の方を見る。


(恐らく、あのいけすかない女以外にも敵はいる。あいつらは無事だろうか・・・?)


ふとそんな思いがアレスの頭をよぎった。


らしくない自分に、自分で自分が可笑しくなった。


「・・・・・くだらねえ。」


「あなたは優しい方なのですね。」


アレスの背中にもたれ掛ったテッサは、アレスの微妙な変化に気付いた。


「そんなんじゃねえよ。」


彼の心の奥に何かが芽生えた。これまでに感じた事のない何か。しかし確かに芽生えた変化。


これまで己の事しか見てこなかった彼の、ほんの少しの僅かな変化。


根拠はないが、自然と満たされた気分でいる自分自身に驚いたと同時に、更なる高みへ成長できる、そんな気がしていた。


アレスは小さく芽生えた感覚を噛みしめるように心の深くに留め、三人を引き連れグラウンドを後にした。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


評価およびブックマークありがとうございます!


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