第33話 裏切り者
アシーナとアルテミスは颯爽と神殿を目指す。
「お父様・・・無事ならいいのだけど。」
アシーナは不安をにじませる。
「大丈夫ですよアシーナ様。ゼウス様はユピテリアを束ねる最高神。そんな簡単に倒されるはずがありません。」
「ありがとう。でも、何故かとても不安なの。分かってはいるんだけど・・・・・」
「アシーナ様・・・・」
アルテミスは心配そうにアシーナを見つめた。
前を走っていたアシーナがピタリと足を止める。
「・・・・・誰?」
「ちっ。勘のいい奴だ。化け物が。」
ぼそぼそと小声で話す黒フードを深く被った男が木の陰から姿を現した。
アシーナはアルテミスを庇うように一歩前へ出る。
「宴の会場に乱入した奴の仲間かしら? あなた達は、一体何が目的なの?」
「僕はお前に用なんてないんだ。」
「目的? そんな大層なものはない。僕はただ一人、女を殺せればそれでいい。」
黒フードの男はゆっくりと指さした。
「そこの女をね。」
アシーナは男の指さす方向を振り返る。
そこには、不安を露わにするアルテミスの姿があった。
「僕は、ずっとこの時を待っていたんだ。この手で君を殺す日を。」
男はゆっくりと黒フードを上げる。
その姿に、アルテミスはエメラルドの瞳を大きく見開いた。
「ペル、セス・・・・・?」
「アルテミス、知り合いなの?」
アシーナは驚いた様子でアルテミスを見る。
「ペルセス! 生きていたの?!」
アルテミスはペルセスに駆け寄る。
「・・・・・れ。」
「それに、その恰好・・・一体どうして・・」
「黙れ!!!!!」
「きゃっ!!」
ペルセスは先程までとは別人のように激しく怒鳴り散らしアルテミス突き飛ばした。
「気安く僕の名前を呼ぶな!!」
ペルセスはアルテミスを睨む。
「よくそんな態度が取れるな。とても人を見殺しにしたようには見えないよ。」
「そんな君に騙される奴は多いだろうな。昔の僕みたいに。」
ペルセスは警戒するアシーナを一瞥する。
「・・・・・違うよ。 私、そんなつもりじゃ・・・・・」
アルテミスはうつむきつぶやいた。
「何が違うんだい? あの時・・・・・山で魔物に襲われた時、君を庇って傷を負った僕を置いて、一人で逃げ出したじゃないか。」
「そ、それは・・・・・」
「酷い話だよね。ずっと友達だと思っていた相手に見殺しにされるなんてさ。こんな理不尽ないよね。君もそう思わない?」
ペルセスはアシーナに問いかける。
事情を知らないアシーナは一瞬言葉を詰まらせ、言葉を探す。
「あなたたちの間に何があったのかは分からない。だけど・・・・・」
真っすぐペルセスを見る。
「だけど、アルテミスはそんな事をするような子じゃない。人を見殺しにできる子じゃない。断言する。」
「ははっ!! 君もアルテミスにすっかり騙されちゃって。かわいそうに。君もそのうち裏切られるよ。」
アシーナは怯えるアルテミスに優しく微笑みかける。
「そんな事はないわ。それに、仮にあなたのいう事が本当だったとしても・・・・・」
「私は最後まで信じ続けるわ。私がそうしたいから。アルテミスがそうしてくれるように。」
その言葉を聞いたペルセスは髪を掻き上げ笑い声をあげた。
「あっはは! 友情ごっこかい?! これは傑作だね! 君が君の願望を語るのは自由だけど、事実として僕は彼女に裏切られたんだ。君も生死が掛かった状況に陥れば彼女の本性が分かるさ。」
「いや、そこまで毒されているともう手遅れか? 才色兼備と聞いていたけど、オリンピア上級学院の生徒会長も人を見る目はないようだね。もっと賢いと思っていたけどこの程度とは。そんなんじゃ学院も大変だ。ははっ!!」
その言葉を聞いたアルテミスは静かにアシーナの前に立った。
「ん? なんだい? 黙っていたかと思えば急に殺気立って。今すぐにでも殺してやりたいのは僕の方なのに。」
「私の事は何とでも言って。あなたに恨まれても、それは仕方がない事だと思ってる。だけど。」
アルテミスはペルセスを睨む。
「アシーナ様を侮辱する事だけは、絶対に許さない。」
ペルセスは唾を吐き捨てる。
「はぁ? 誰を許さないって? 君に説教される筋合いはないよ。人を見殺しにした裏切り者が、何様のつもりだよ」
「アルテミス・・・・」
滅多に見せないその表情から、彼女の覚悟が伝わる。
「アシーナ様。私に構わず神殿へ。」
「なっ!! 突然何を言い出すの?! 危険よ! あなた一人を置いていけないわ!! 戦うなら私がっ・・・」
アルテミスは身を乗り出すアシーナを腕で制した。
「大丈夫です。信じてください。それに、これはいずれ私が向きあわなければいけなかった事。ずっと逃げてきた、私自身の過去に。」
「アルテミス・・・・・」
「何だよそれ。いい子ぶっちゃってさ。今更いい人を演じたところで、すぐに化けの皮が剥がれるんだ。本性を出して楽になりなよ。」
ペルセスの手の甲の紋章が黒く光りだす。
「必ず、後を追いますから。」
アルテミスの右肩の三日月の紋章が鮮やかな緑色に輝きだす。
「・・・・・分かった。約束よ。」
アシーナは覚悟を決めアルテミスを残しその場を去った。
ペルセスはアシーナが去っていくのを横目に笑みを浮かべる。
「生徒会長がいないのは好都合だよ。あの女とまともにやりあうのは分が悪いし、もとより初めから君以外は興味がなかったからね。」
「ペルセス。あなた達が一体なぜオリンピア学院を襲うのか・・・何をしようとしているのか分からない。だけど、今ならまだ間に合うよ。戻ってきて。」
アルテミスは説得を試みる。
「何をふざけた事言ってるの? 僕たちは選ばれたんだ。『奈落の闇』に。この世界を創り変えるための使徒に、ね。」
「一体、何を言っているの? ペルセス・・・・・」
「今思えば、あの時君に見捨てられて幸運だったのかもしれないな。そのおかげで、こうして力を得る事ができたんだから。」
ペルセスは紫がかった黒霧に包まれた右腕を上げる。
「唯一、その一点のみ君に感謝するよ。」
ペルセスは液体のようにうねる黒霧を放つ。
アルテミスは咄嗟にそれを躱す。
霧に触れた植物は、みるみるうちに枯れ果てた。同時に強烈な匂いが鼻を衝く。
アルテミスは思わず腕で顔を覆った。
「これは・・・まさか、毒・・・?」
「ははっ!! その通り。でも、ただの毒じゃあないよ。僕の神術と、この闇の力を融合させた特性だ。」
ペルセスはニヤリと笑う。
「さっさと魂を頂きたいところだけど。そんなあっさり殺しちゃったら呆気ないし、長年の恨みはそんな簡単に解消したくないからね。」
語りかけながら、ペルセスは毒を纏う黒霧を数発放つ。
アルテミスは軽やかな体捌きでリズミカルに躱す。
「魂を頂くのはたっぷりと痛めつけてからだ。僕の味わった苦痛を存分に思い知ってから死ぬといいよ。」
「どうしても・・・戦わなくちゃいけないの?」
「勘違いしないで欲しいな。僕は戦いたいんじゃない。殺したいんだよ。」
「・・・・・」
アルテミスはゆっくりと立ち上がった。
≪新月の加護≫。
アルテミスの身体が淡い緑色にコーティングされていく。
薄いヴェールを纏うように全身が包まれ、同時にエーテルで生成した美しく輝く青緑色の弓矢が右手に握られた。
アルテミスはエメラルドに輝く弓を引く。
「ペルセス。あなたは私が止める。」
「いいねぇ。抵抗してくれないと僕が悪い、みたいになっちゃうからね。」
覚悟を決めたアルテミスは己の意思を青緑色の矢に乗せ勢いよく放った。
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