第32話 開戦
テッサはオリンポス上級学院の校舎の前に着地した。
学院の巨大かつ豪華で華々しい作りは見る者の目を引くには十分だ。
「・・・・・ニケさんの姿が見当たりませんね。」
テッサが校舎へ向かおうとした時、グラウンド方面から激しい衝突音が聞こえてきた。
「近いですね。このままここにいても仕方がないですし、様子を見に行ってみましょうか。」
テッサは電光石火の如く音のしたグラウンド方面へ駆け出した―――――。
俺はオリンポス神殿の裏山から神殿を見下ろしていた。
あの時と変わらない。
まるでゼウスの権力を誇示するようにオリンポス神殿は輝いている。
夜でも分かるその輝きが子供の頃の記憶を呼び覚ます。
空を仰ぐ。夜空には無数の星々が鮮やかに光り輝いている。
「・・・ここに来るのはもう少し先だと思っていたんだがな。」
オリンポスの町を見渡す。空気が澄んでおり町や学院の明かりが鮮明に映る。
見事な絶景だ。
「テッサがいない。あのペテン師、繋ぎ方を誤ったな。・・・まあいい。」
目を閉じ深呼吸してざわつく心を落ち着かせる。
精神を集中していると、神殿の方角によく知る匂いを感じ取った。
「ピュラは・・・・・生きてるな。」
「アトラス。貴様は俺が必ず殺す。」
腰に携えた短剣を握りしめる。
「・・・・・」
神殿の西側にもう二つ匂いを嗅ぎ取った。
移動する二つの匂いも神殿を目指していた。
「・・・・・アシーナ、か。」
俺は首を振る。
下半身の筋肉に力を込める。筋肉が肥大し血管が浮き出る。
大きく地面を抉り大地を蹴り、神殿を目指し一直線に森を駆け抜けた―――――。
「さて、ゼウスは最上階かな?」
メティスは堂々とオリンポス神殿の真正面から侵入する。
巨大な門をくぐると、颯爽と警備兵が現れ行く手を阻むように列をなした。
警備兵のリーダー格の男が剣を抜き一歩前に出る。
「止まれ。これ以上は進ませない。おとなしく言う事を聞けば悪いようにはせん。」
「おいおい。私もここの関係者だ。着いて早々帰れとは、随分冷たいじゃないか。」
「元、だがな。」
メティスは笑いながら歩を進める。
「ええい! 止まれと言っているだろう!」
リーダー格の男が剣を掲げる。
警備兵数名が剣を振りかぶりメティスに襲い掛かる。
「全く。血の気が多くて困る。主がゼウスならそれも納得だが。」
メティスの足元に黒い魔法陣が展開された。
「がはっ!!!」
メティスに襲い掛かった警備兵は残らず地面に張り付くように地に伏した。
まるで大きな重りに押し付けられているように重圧がかかり立ち上がるどころか指一本動かせない。
「ぐっ?!! あああーーー!!!」
重圧が更に重くのしかかる。
やがて警備兵達の肉体は身に付けている防具ごと押し潰され、負荷に耐えられず血を噴き出して絶命した。
わずか数秒の出来事に警備兵たちはたじろぎ、後ずさりする。
「お前たちでは準備運動にすらならんが、まあよい。」
メティスは警備兵達に向かい手をかざす。
その瞬間、その場にいた残りの警備兵全員が地に伏した。
「がっ!? あああっ!!!」
短い断末魔の叫びと共に鮮血が飛び散った。
大量の血の海にもはや人の形を留めていない無残な姿の死体が転がり、辺りは静寂を取り戻した。
「さて、お邪魔させてもらうとしようか。」
メティスはそのまま血の海を音を立てて進む。漆黒のロングブーツを鮮血が染める。
メティスは巨大な扉の前に立ち重圧をかける。そして神殿の扉を破壊し無理矢理こじ開けた。
中へ入ると、エントランスの真ん中にポセイドンが警備兵を引き連れ待ち構えていた。
「メティス。お主程の聡明な女神が一体どうしてこのような事をする?」
ポセイドンは穏やかな口調で問いかけた。
「フッ。至って簡単だよ、ポセイドン。」
「私は選ばれた。この世界を作り変えるためにな。私のやるべきことはただ一つ。」
メティスは左手を天にかざした。
「神々を滅ぼす。それだけだ。」
手を振り下ろすと同時に、ポセイドン以外の警備兵達は一斉に地に伏し大量の血を噴き上げ肉塊と化した。
「・・・世界を作り変える? メティス、お主一体何を言っているのだ・・・?」
「それを話す義理はない。お前に話したところで理解できまい。」
「今お前ができる事は、私のために道を開ける事だけだ。」
メティスはポセイドンに向け手をかざす。
その時、対峙する二人の間に割って入るように壁が爆音と共に破壊され、エントランス内に粉塵が充満した。
「遅くなりました。ご無事ですか? メティス様。」
黒ずくめの衣装に身を包んだ大男、アトラスだ。
片腕で気を失っているピュラを担いでいる。
「フッ。遅刻だ。」
メティスはピュラを一瞥する。
「だが、その少女に免じて許そう。」
アトラスはピュラが戦いに巻き込まれないようエントランスの脇にそっと横たわらせる。
「メティス様、先へお進みください。ここは私が。」
アトラスはポセイドンの前に立ちはだかる。
紋章が仄かに赤く光りだす。
「では、お言葉に甘えよう。」
メティスはアトラスに任せポセイドンに背を向ける。
「殺して構わん。」
それだけ言い残し、メティスはエントランスの螺旋階段を登っていく。
アトラスは不敵に微笑んだ。
「待て!! メティス!!!」
ポセイドンの呼びかけを遮断するように火球が襲い掛かった。
ポセイドンは咄嗟に躱し臨戦態勢に入る。
「お前は私と遊んでもらおう。」
「・・・お前と遊んでいる暇などない。すぐに終わらせる。」
ポセイドンの両手首の紋章が金色に輝く。
≪大海の神槍≫。
彼はつぶやき、手に持つ黄金の杖を天に掲げる。
すると地面から三本の巨大な水柱が天に伸びるように現れた。
「これは・・・ククク。なかなか楽しめそうだ。」
アトラスは闘争本能を掻き立てられ笑みが浮かぶ。
アトラスは全身に黒い炎を纏う。
「オリンピアの神が簡単に壊れてくれるなよ?!!」
アトラスは右手から巨大な黒炎を勢いよく噴射する。
「『開門』。」
ポセイドンが手に持つ杖を振り下ろす。
巨大な水柱が蛇のようにうねり、黒炎と激しく衝突した。
両者のぶつかり合ったエネルギーがエーテルとなり霧散する。
「一矛とはいえ、トライデントの水圧と互角とは。大口を叩くだけのことはあるな。」
「それはこちらのセリフだ。俺の黒炎に焼けないものがあったとは。」
二人は一手で互いの力量を察知した。
緊迫した戦いの中で高まる高揚感に、二人に笑顔が浮かぶ。
「フッ。それでこそ潰し甲斐がある。」
「面白い。その余裕、いつまで続くか見ものだな。」
両者の神術が再び激しく衝突し、衝撃と共に大きな黒煙が立ち込めた。
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