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第26話 精霊エレクトラ


観客席の最上段の脇に俺とピュラは腰かけた。掲示板を見ると「テッサVSオレステス」と映し出されていた。


合図の鐘が鳴り両者は中央に向かい歩き出す。


「さっきはどうも~。まさかお姉さんと当たるとはね。」


先刻、控え室にてテッサに言い寄っていた男だ。


オレステスは紳士ぶった態度を示す。


「もしかしたら俺達は引き寄せあう星の下にいるのかもしれないな。お姉さん、この戦いが終わったら俺の女になれよ。気の強い女は嫌いじゃないんだ。」


オレステスはテッサを口説き始める。控え室の時と同様、ヘラヘラした態度は変わっていない。


テッサは驚く様子もなく目を閉じ深くため息をつく。


「・・・・・はぁ。」


「あなたも懲りませんね。どういうつもりか分かりかねますが、そんな安っぽい申し出に頷くと、本気でお思いですか?」


「であるならば、あなたの底は知れています。丁重にお断りさせて頂きましょう。口だけの軽率な男性は好みではありませんので。」


テッサは右手に長剣を携えたままオレステスの求愛をきっぱりと断った。


「いいねぇ! ますます気に入ったぜ! 控え室では大事にしたくなかったから抑えたが、ここなら気にする必要はない。力で服従させたくなった。」


オレステスは腰の剣を抜き唇を舐める。


「可能とお思いでしたら、試してみると良いでしょう。」


「その余裕の面が焦りに変わるのが楽しみだ。」


オレステスがテッサへ向かい剣を振りかぶる。


足元から小さな白い魔法陣が浮かび上がった。


テッサは目を閉じオレステスが剣を振り下ろすよりもはるかに早く踏み込み飛び込んだ。


すれ違いざまに瞬時に抜刀し薙ぎ払う。


テッサは目を閉じたまま静かに長刀を鞘に納める。


「なんだ? それで斬ったつもりか?」


テッサは違和感の残る手ごたえに彼の方を振り返る。


「・・・確かに捉えたはずですが。」


よく見るとオレステスの身体が薄く白いオーラに包まれている。


全く傷ついていない。


「残念だったな。その程度の威力では俺の身体に傷をつける事はできないぜ。」


「おっと!!」


テッサはオレステスが言い終わるのを待たずに再度高速で斬りつける。


やはり変わらない。オレステスは傷一つ負っていなかった。


「お姉さん見かけによらず血の気が多いな! そのギャップもそそられるぜ!」


長刀を鞘に納めテッサは目を閉じ深く深呼吸する。


彼女の周りに土埃が集まり仄かに風が起こる。


目を大きく見開き大地を勢いよく蹴る。


体を捻り、真っすぐオレステスに向かう。先程よりも更に疾い。


「≪鋼鉄の鎧(ギガント・アーマー)≫。」


オレステスがつぶやくと身体が更に白いオーラに包まれた。


激しい金属音が闘技場に響き渡る。


テッサは彼に向き直る。


彼女の駆け抜けた軌道の溝を埋めるように、そよ風が遅れて二人に吹き付ける。


「・・・・・・」


「気が済んだかい? 早めに諦めた方がお互い楽だと思うよ。こんな埃まみれの所なんかさっさと出て、城下町の綺麗な高級ホテルでも行こうよ。可愛がってあげるからさ。」


テッサは表情を変えない。


「・・・・・できればこの力を使いたくはありませんでしたが。」


「あまり時間をかけたくありませんし、仕方ありませんね。」


テッサは目を閉じ何かに話しかけるようにつぶやいた。


「起きなさい。エレクトラ。」


左手に持つ長刀の刀身が青白い光に包まれる。


同時に、まるで儀式でも始まるかのように辺りが薄暗くなる。


闘技場に突如、季節外れの雪が降り始めた。


「な、なんだ? 雪?」


オレステスが辺りを見回すと、どこからともなく脳に直接響き渡るようなよく響く声が聞こえてきた。


〖ふわぁ~~~~~。〗


テッサの肩の上にちょこんと座るようにそれは現れた。


手のひらサイズのそれは、青白く光り蝶のように小人に羽を付けた容姿をしている。その姿色はテッサが持つ長刀とどこか似ていた。


「寝ていたところ悪いですが、少々力を貸してください。」


〖良く寝た~。珍しいね~。テッサがあたしを呼び出すの。結構久しぶりじゃない?〗


「あなたの力は私には強大すぎますので。そんな簡単には出してあげられないのですよ。」


「目覚めたばかりの所を申し訳ないのですが、すぐに決着をつけたいので。」


〖いいよ~。それじゃ、少し体借りるね♪〗


光る小さな存在はテッサの背中の中へ消えていく。


テッサの目が深い青色に変わり、背中から白銀の6枚の羽根が出現した。周囲には雪の結晶がいくつも現れ浮遊する。


その姿はどこか神々しく神秘的な佇まいだ。


雰囲気が人間のそれとはまるで違う。


【行きます。】


テッサと小人の声が重なる。


「精霊、だと?! ば、ばかな!! 実在するわけがねぇ!!」


「それに、どこかで聞いた事がある名前だと思ったらまさかお前、集剣狂(ソードコレクター)テッサか?!!」


先程までとは打って変わり、オレステスは激しく動揺する。


「ちっ!! 精霊だろうが集剣狂だろうがやることは変わらない!!」


「オラァ!!!」


オレステスは鋼鉄の鎧(ギガント・アーマー)で体を包み、テッサに向かい剣を振りかぶる。


「どうせこの体に傷は付けられないんだ!! このまま真っ二つにしてやる!!」


テッサはその場を一歩たりとも動かない。


「なっ?!」


彼女の眼前で剣筋は止まった。彼女は予期していたかのように笑顔のままだ。


「ぐあああああ!!!!」


オレステスは自身の脚の痛みに声をあげる。


足元に目をやると、オレステスの左脚は凍り付いていた。


急激に冷却された脚に激痛が走る。


「ぐ、ううぅ・・・・!!」


たまらずオレステスはうずくまった。


辺りが更に薄暗くなり、舞い降りる雪が更に増す。


やがて辺り一面が銀世界と化した。


「な、なんだその力は?! 何が起きている?!」


【あ~! やっぱり外の空気は気持ちがいいね~♪ 君もそう思わない?】


エレクトラはテッサの容姿で陽気に舞いオレステスにウインクする。


【外側が無理なら、内側から冷やせばいいだけの話だよね~♪】


「ちっ!! まだだ!! オラッ!!」


オレステスは痛みを堪え、右足で跳躍し再び彼女に襲い掛かる。


【遅い遅い! 遅すぎてせっかく起きたのにまた眠くなっちゃうよ♪】


エレクトラは神速で抜刀する。


オレステスは、己の振り下ろしたはずの剣が視界に入らなかった(・・・・・・・・・)


「・・・・・え?」


【神術って精神が安定していないと発動、維持できないよね? その証拠に。】


彼が右腕を見ると、そこにはあるはずの右腕がなかった。


鮮やかすぎる腕の断面が綺麗に凍り付いている。あまりの速さに痛みを感じない。


彼は後方を振り返る。


遥か後ろの壁に氷漬けになった右腕が張り付いていた。


「ぎゃああああああ!!!!」


【あははっ♪ 意外と可愛い声で鳴くんだね♪】


【ほらね? 言った通りでしょ♪】


深々と降り積もる雪の中、エレクトラは長刀をオレステスに向け満面の笑みを浮かべる。


【そんなものに頼らないとまともに戦えないなんて。かわいそう♪】


健気で無邪気な物言いとは裏腹に、その残虐な言動がオレステスの恐怖を駆り立てる。


戦意を喪失させるには十分だった。


【よ~し! ちょっと動いたらお腹空いてきたし、そろそろ魂頂こうかな♪】


エレクトラは止めを刺そうと笑顔で長刀を振り上げる。


「分かった! 負けだ! 俺の負けだ!! 降参するからやめてくれ!!」


オレステスの額の目の前で刃がピタリと止まった。


【そっか、残念♪】


【もう少し運動したかったけど、ここまでかな。それじゃそろそろ身体返すね。テッサ♪】


しばらくするとテッサの目に綺麗な紫水晶色の生気が戻った。


「良かったですね、止めを刺されなくて。エレクトラは気まぐれですから。」


彼女が剣を鞘に納めるとオレステスの右脚の氷が溶け、空もいつの間にか雪は止み日中の明るさを取り戻していた。


観客から大歓声が上がる。掲示板には「勝者・テッサ」と映されていた。


大歓声の中ピュラは俺の身体を激しく揺らし興奮していた。


「にけ!! あれ!! もうひとつのいいにおい!!!」


「分かったから落ち着け。」


俺はピュラを引きはがす。


「能力を使う時に紋章が浮かばなかった。やはり生身の人間か。とても人間とは思えない程の身体能力だな。」


それに精霊の存在。


精霊は伝説上の理想郷エリュシオンの住人であると記憶しているが、まさか実在したとは。


「面白い物を見せてもらった。さて。」


「ピュラ、お前のバトルもそろそろだろう。準備に入るぞ。」


「おーーーー!!!」


俺は今一つ緊張感に欠けるピュラを連れAランク闘技場を後にした。


ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!


面白いと思って頂けたら是非ブックマークお願いします!

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