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第23話 コロシアム


俺は今、コロシアムの選手控え室にて戦いのための身支度をしている。


漆黒の編み上げブーツの紐を締め直し、鏡の前に立ちボロボロの黒いマントを羽織った。


壁の外からは観客の割れんばかりの声援が届く。


広い室内を見渡せば、血気盛んな屈強そうな男たちが各々コンディションを整えていた。


参加する者を集めるための簡易的な部屋のため、それぞれ出場ランクはバラバラだ。


「・・・何故俺がこんなことをしなければならないんだ。」


俺は一人愚痴をこぼす。


事の発端は少し前に遡る―――――。


俺とピュラはコロシアムの前を通りかかった。


解放された大きな門の前で大男が呼び込みをしていた。


「さあさあ!! 挑戦者募集中だよ!! なんと、今回の選手登録費は無料だ!! 腕試しにどうだい?! 今回はシングル部門の報酬も豪華だよー!!」


「Bランク優勝者には100万Gと最高品質の神の実アンブロシア一ヶ月分!!」


「Aランクの優勝者には一太刀で空を割るとも伝えられる断界七刀の一振り、曲刀・アルシオーネ!!!」


「鍛冶の世界では知らぬものがいない、あの鍛冶神へパイストスの打った名刀だ!! これは滅多にお目にかかれない代物だよ!!」


俺は大声で挑戦者の呼び込みをする男に目もくれずに通り過ぎる。


「やれやれ。戦いを見世物にする商売というのはあまりいい気分ではないな。さっさと次の町に向かうぞ、ピュラ。」


俺は足元へ視線を落とす。


いない。そこにいるはずの赤髪の少女の姿がなかった。


辺りを見回すがどこにもいない。


ふと通り過ぎたコロシアムの方を見る。


呼び込みをしている男の脇で、見慣れた赤髪の少女が指をくわえて何かを凝視していた。


指をくわえたままピクリとも動かない。口から涎まで垂らしている。


彼女の視線の先を目で追う。


彼女を釘づけにしているのは山積みにされたアンブロシアだった。


「・・・・・・・」


少女の小さな手が景品に触れる寸前で、俺はその襟を掴んで持ち上げた。


「おい。何をしている。」


ピュラは吊り上げられて初めてニケの存在に気が付いた。


「にけ! おいしそうなくだもの!! あれたべたい!!」


宙づり状態のまま空色の瞳をキラキラさせて俺に訴える。


「だめだ。それは闘技場の景品だ。バトルに勝った者以外食べられない。諦めろ。」


俺はピュラを諭すと、掴んだ腕をゆっくりと降ろした。


「・・・・・おなかすいてきた。」


ピュラはうつむきボソッとつぶやいた。瞳には涙を浮かべている。


「・・・・・お前、本気で言っているのか?」


呆れて言葉も出ない。一体こいつの腹はどういう構造をしているんだ。


もはや生き物かどうかですら疑わしい。


俺は頭を掻く。


「飯なら後でいくらでも食わせてやるから今は我慢しろ。行くぞ。」


ピュラの手を引きその場を離れようとする。が、ピュラはその場から動こうとしない。


ここまで頑なに言う事を聞かないのも珍しい。


そんなにアンブロシアが珍しいのか。


「がっはっはっ!!! お嬢ちゃんそんなにアンブロシアが気に入ったのかい?」


呼び込みをしていた男が豪快な声で話しかけてきた。


「あれ、すごくいいにおい!! たべたい!!」


その場で飛び跳ねて男に熱意を伝える。


「がっはっは!! お嬢ちゃん元気がいいな!! だけどこれは優勝者に与えられる景品だ。くれるわけにはいかねえんだ。」


「おっ?!」


男は何かを閃いた。


嫌な予感がした。


「お嬢ちゃんも参加してみるかい? 腰の短剣から察するに、お嬢ちゃんも戦えるだろう? それならいっそのこと選手として登録して勝ち進めば手に入れられるかもしれねえぞ。」


男はチャンスと言わんばかりに選手登録を勧めてくる。


「却下だ。そんな下らん道楽に付き合っている暇はない。ピュラ、行くぞ。」


「わかった!! さんかする!!」


俺が言い終わる前に、勝手に参加表明した。


あまりに欲望に忠実な行動にさすがに少し腹が立った。


「勝手なことを言うな。コロシアムは歴戦の戦士や怪物がゴロゴロいる。場合によっては命を落とすこともあるんだ。短絡的な考えで参加すると危険だ。許可できない。」


「だいじょーぶ!! やさしくころす!!」


ピュラは元気に飛び跳ねる。


「勝つ事が前提なのか・・・確かに、その辺の奴では相手にならないとは思うが・・・」


(なんせあの巨神族の唯一の生き残りだ。万が一巨神化でもしたらコロシアムは大混乱に陥る。そうなれば物珍しさから命を狙われることにもなりかねない。)


俺が一人で悩んでいると、男がいらぬ助言をしてきた。


「なあに、景品のアンブロシアはBランクだ。俺も今までいろんな奴を見てきたが、あんたらは相当な使い手だ。所作の端々でそれは見て取れる。もちろん、そこのお嬢ちゃんもな。あんたらなら間違いなく渡り合えると思うぜ!」


俺はため息を漏らす。


「どこにそんな保証がある。適当な事を。そんな勧誘に乗るとでも・・・」


「・・・あんたら? 何故俺まで入っているんだ。」


俺は男を睨む。


「まあまあ、そんな怖い顔するなよ。一緒に参加してやればお嬢ちゃんも心強いだろう? それに、二人で参加すれば優勝も狙えるんじゃないか? 二人がぶつかったらあんたが負けてやればお嬢ちゃんが勝ち進めるし、腕試しとしてもちょうどいいだろ?」


確かに。この男のいう事にも一理ある、のか?


うまく乗せられているだけの気もするが、こうなったピュラを止めるよりも、一緒に参加して目の届く範囲に置いておいた方が楽か。


俺は頭を掻く。


「やれやれ。ピュラ、登録するぞ。その代わり、命だけは奪うな。いいな?」


「おーーーーー!!!!!」


空色の瞳を大きく見開いてキラキラさせたピュラは元気に拳を突き上げた。


こいつ、本当にわかっているのか? まあいい。いざとなれば俺が何とかする。


「決まりだな!! 登録はBランクでいいよな?」


男が後ろにある大きな黒板を指す。


黒板を見ると上からS、A、B、Cと並び、示す各ランクの横にはそれぞれの報酬と参加費が書かれている。


目的は優勝賞品のアンブロシアだ。Bランク以外に登録する理由はない。


「ああ、Bランクで登録する。」


「決まりだな!! じゃあこの名簿に二人のサインをくれ。」


俺は二人分の名前をサインした。


俺達がサインを終えると、後ろからまるで巨人のような迫力の黒フードに身を包んだ男が現れた。


「俺もBランクに登録したいのだが。」


落ち着いた太い声。


声を聞いただけでただ者ではない事が分かった。


「おう! あんたもBランクだな。じゃあこれにサインをくれ。」


サインを終えた大男は俺を一瞬見下ろす。黒い炎のような紋章が見え隠れしていた。


黒フードの男は何も言わずそのまま歩き去った。


(あの黒フード、どこかで見たような。それにあの紋章・・・)


まあいい。それよりも今はこの面倒なコロシアムをさっさと終わらせる事だけに集中だ。


俺達は、そんなくだらない動機でコロシアムに参加することになった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


評価およびブックマークありがとうございます!


とても励みになっています!


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