第21話 お約束のイベント
俺とピュラはギルドでクエスト達成の報酬を受け取るため、サングラッセンの大通りを歩いていた。
ピュラのリズミカルに揺れる手には銀色の聖杯が握られている。
時折聖杯を見てはその輝きに見とれていた。
すっかり聖杯の虜になっていた。
「前を向いて歩け。転ぶぞ。」
相変わらず、この少女には俺の声は届いていないらしい。全く止める素振りを見せない。
一度気になると周りが見えなくなるらしい。
その単純な構造がむしろ羨ましくさえ思えてきた。
「お前、洞窟では腹を空かせて死にそうになっていたはずだろう。アシーナの治癒神術で空腹まで治ったか?」
俺はため息をつきギルドのドアを開けた。
「あっニケ様! お帰りなさい!! ご無事で何よりです。やはり厳しいでしょう? 戻ってきたのは賢明です。すぐ他のクエストの手配を―――。」
俺はピュラに合図を送る。
頷いたピュラが銀の聖杯を両手で持ち上げた。
「ええええええええーーーーーー?!!!!!」
ライアの大声は、賑やかなギルド内の注目を集めるには十分だった。
冒険者たちの視線は一気に受付に注がれた。
「ほほほ、本当に魔物を討伐してきたのですか?!」
ライアは驚きのあまり実物を見ても信じ切れていない。
「ああ。聖杯も本物だ。ちゃんと聖水も湧くぞ。」
ピュラがしばらく掲げていると、じわじわと聖杯の底から透明の液体が湧き上がり間もなく虹色に光る透き通った水で満たされた。
ライアは開いた口が塞がらないといった様子で呆然としていた。
驚いたまま固まっている。
「ほ、本当にクエスト達成してくるなんて・・・・あなた方は一体何者何ですか?」
「ただ普通の冒険者だ。それよりも、報酬はしっかり出るんだろうな?」
「え、ええ。もちろんです。ギルド証を貸していただけますか?」
俺は左手の純白のブレスレットを外しライアに渡す。
「少々お待ちください。」
ライアは奥の部屋へ入っていった。
「ピュラ、もういいぞ。」
俺が聖杯をしまう様に促し、ピュラに視線を送る。
ちょうど両手で聖杯を抱え、聖水を飲み干したピュラの目と目が合う。
ピュラは満面の笑みではにかんだ。
「このみずおいしい!!」
俺は頭を掻く。
しばらくしてライアが戻り、ブレスレットを手渡された。鎖には何やら数字が刻まれている。
「ギルド証の中にお金を振り込ませていただきました。買い物をするときはそのギルド証を渡せば問題ないですよ。金貨で欲しい場合は、エーテルを込めていただければ物質化されます。」
「なるほどな。礼を言う。」
「いえいえ。サングラッセンにお立ち寄りの際はぜひまたいらしてください。いつでもお待ちしておりますので。」
俺とピュラがギルドから立ち去ろうとした時、見覚えのある大男が立ちはだかった。
後ろにはこれまた見覚えのある男が二人。
「兄ちゃん生きていたのかい! そりゃよかった! 」
「『A』ランククエストを達成したんだって? 一体どんなズルをしたんだ? 俺にも教えてくれよ」
大男は豪快に笑い顔を近づけてくる。
「いちいち大声を出すな。聞こえている。」
「それに、悪いがお前に構っているほど暇ではない。」
俺は大男を避け外へ出ようとする。
大男は太い腕でそれを止めた。
「つれねぇなぁ。俺達にも秘訣を教えてくれよぉ。」
大男は俺を睨みつけてくる。
「やれやれ。ここはギルド内だぞ。いい大人がくだらんことを考えてないで、さっさとお使いにでも行ってお小遣いを稼いで来たらどうだ?」
ライアはおろおろしながら様子を見守っている。
「いい度胸だ。兄ちゃん外に出な。」
大男が入り口のドアを指す。
「言われなくても、立ち去るつもりだったのだが。」
俺はため息をついて大男と外へでる。
ギルド内にいた連中も興味を引かれ歓声を上げ決闘を見るために次々と店の外へ出た。
ギャラリーに囲まれ大男と対峙する。
「ピュラ、ここで待っていろ。」
首を傾げるピュラをドアの前に立たせ、男と対峙する。
「一応聞いておく。目的は何だ?」
「俺と勝負しろ。俺に負けたらその金は全部いただく。」
大男は背中の巨大な戦斧を持ち上げ、先端を俺に向けた。
「やれやれ。血の気が多くて困る。その情熱は小遣い稼ぎにとっておいた方が身のためだと思うが?」
大男のこめかみの血管が太く浮き上がる。
「いい度胸だ! 後悔してもおせぇ! 真っ二つにしてやる!!!」
大男が巨大な戦斧を振りかざし、渾身の一撃を振り下ろす。
その瞬間、巨大な戦斧は粉々になって吹き飛んだ。
「!!!!!!」
大男はあまりに早い出来事に、何が起こったのか理解できていない様子だ。
観客たちも連れの二人も唖然としている。
ピュラだけは平然とニケを見つめていた。
その場で一部始終を見ていたのは彼女一人だけだろう。
「て、てめえ!! 一体どんなトリックを使いやがった?!!」
大男は青ざめた顔で俺を見る。
ニケの左手は黒い霧に覆われ、三本の爪が伸びていた。
「な、なんだそりゃあ・・・」
大男は初めて見る能力に困惑する。
そんな大男を見てため息をつく。
「トリックも何も、斧を切り刻んだだけだ。文字通り粉になるまでな。」
「これでも目で追える速さに調整したつもりだったが・・・・・」
大男は後ろに右手を回し短剣を抜く。
「まだ終わってねえ!! 死ねや!!」
「やれやれ。」
大男の短剣が空を切る。同時に、ニケの姿が黒い霧と共に消える。
「なっ?!!!」
大男がニケを見失った瞬間、ニケは瞬時に大男の目の前に現れ、強烈な蹴りで武器を握る手を蹴り上げた。
短剣はギルドの屋根の方へ飛んでいった。
「ぐああああああっ!!!」
大男は右手首を押さえうずくまる。
「これ以上は無駄だ。やめておけ。」
大男はうずくまり冷や汗をかき俺を睨む。
手首はパンパンに腫れ上がっていた。
「て、てめえ・・・」
大男は連れの二人に目で合図を送った。
頷いた二人はピュラを背後から抱えこみ首筋にナイフをあてる。
「へへへ。あのお嬢ちゃんがどうなってもいいのか? おとなしく金を渡せば命だけは助けてやる。」
大男は額に汗を滲ませながらニヤリと笑った。
「やれやれ。」
「一応忠告しておく。むやみやたらにピュラに触れない方がいいぞ。」
「はっ!! 適当な事いいやがって!! 強がってないでさっさと降伏しやがれ!」
ピュラを抱えていた男が声を張り上げた時、すでにその場にピュラはいなかった。
「え?」
ナイフを当てていた男二人は顔を見合わせる。
二人は突如落とされた影に気付き空を見上げる。
上空から獲物を狩ろうと迫るピュラの姿を捉えた。
空中で鋭く鮮やかな蹴りを放った細く小さな脚は、見事に二人の頸椎を打ち抜いた。
ほぼ同時に二人は倒れ込み意識を失った。
何とも華麗な体捌きだ。
大男は口を開いたまま固まっていた。
「ピュラ、そこまでだ。」
短剣を手に、二人にとどめを刺そうとするピュラを制止する。
「わかった」
ピュラは短剣を仕舞いニケのところへ戻る。
「これに懲りたらくだらん真似はしないことだな。」
俺は痛みにうずくまる大男を一瞥し、何事もなかったようにピュラの手を取りその場から去った。
「にけ・・・おなかすいた」
通りを歩いているといつものようにピュラの腹の虫が鳴り響いた。
もはや日常となったこの事態に驚くことも無くなった。
「お前、いつも腹が減っているな。その燃費の悪さ、どうにかならないのか?」
「まあせっかく報酬も手に入ったんだ。今日くらいは少し豪華な料理でも食べるか。」
俺は金貨の入った袋をピュラに見せる。
「おおーーーー!!!!!」
ピュラはいつになく元気に声を上げた。
俺達は夕陽が照らすオレンジ色に染まった街道を歩きレストランへ向かった。
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