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第17話 小さき戦士


ガルゴ洞窟はかつて、ある村の儀式に利用されていた。


儀式を行い始めた初めの頃、洞窟は選出された村の代表者が、最深部にて創設された神殿で祈りを捧げるためだけに利用されていた。


村が数百年と歴史を重ねる中で、ある時一人の代表者が最深部にて水が湧き出る不思議な銀の聖杯を発見する。


代表者が聖杯を手に持つと、虹色を帯びた美しい水が聖杯内に満たされていくのを目の当たりにする。


その水を一口すすると、身体の内側から活力が湧いてくるような感覚を覚え衝撃を受けた。


急いで村に戻り起きた出来事を話した。


以降、村では人間がその水を飲めば若返ることができると言い伝えられるようになり、村にとって神聖なものとなり語り継がれていく。


誰が何のために聖杯を置いたのか、誰も詳細を知らぬまま。


やがて、村人たちは誰もがその水を欲するようになった。


欲望にまみれたその村がどうなったのかは想像に難くない。


他者を出し抜いてでも聖杯を手に入れようとする者が現れ、ついに聖杯を巡り村の中で争いが起こった。


最終的に殺し合いに発展し、最後に生き残った者が我にかえった時、残されていたのは血に染まった自身の体のみだった。


辺りを見渡せば転がる死体の数々。


その血塗られた手には、銀色に輝く聖杯が握られていた。


生き残った最後の一人も、自らの起こした取り返しのつかない行動に後悔と絶望の念を抱き、最期は洞窟の最深部にて自ら命を絶った。


洞窟の最深部には今でも聖杯を欲する死者の怨念が取り巻き、聖杯を狙う者を襲うと伝えられている―――――。


俺とピュラは小さく灯るろうそくの火を頼りに薄暗い洞窟を進む。


「思った以上に広々としているな。」


そこまで複雑な作りでもなく、魔物との戦闘もないおかげで今のところ順調に進んでいる。


更に奥へ進んでいくと、所々に朽ち果てた武具らしき物や衣類であろう物が散見された。


風化が進んだ様子から、かなりの年月が経っていることが想像できる。


「これ、にんげんのにおいがする」


ピュラはボロボロの布を手に取り匂いを嗅ぐ。


「やはり昔は人の出入りがあったということか?」


俺は周りに残されている残骸を見渡す。


ふとピュラの方を見ると、大きな碧眼を見開き奥へ続く道を凝視していた。


ピュラは奥を見つめたまま腰に掛けている短剣に手をかけている。


「魔物・・・だな。それも中々の数だ。」


俺も気配に気づき、戦闘態勢に入ろうとした瞬間、ほのかな風が俺の服をはためかせた。


横を見下ろすとピュラはその場にいなかった。


短剣を抜き目にもとまらぬ速さで奥へ消えていく。


「やれやれ・・・」


頭を掻きながら後を追う。


「おいピュラ、離れるなと言ったはずだ。」


角を曲がりピュラに声をかける。


前へ踏み出すと、液体のような気味の悪い柔らかさ感触に思わず足元を見る。


眼前には緑色の液体が広がっていた。その液体をたどり目線を上げる。


そこには大型の獣に匹敵する大きさの蜘蛛の死体が転がっていることに気付く。


更に奥へ目をやると、そこには蜘蛛の死体の山が築かれていた。


その一番上でピュラは退屈そうにあぐらをかいていた。


その無邪気な少女は、蜘蛛の返り血で緑色に染まっていた。


「にけ~!! まものたおしたよ!!」


ピュラは俺を見ると元気に手を振ってきた。


返り血を浴びた顔で満面の笑みを浮かべている。


俺は頭を掻く。


「離れるなと言ったはずだぞ。何があるかわからないんだ。軽率な行動はやめておけ。」


「まものはきけん。にけがあぶないからたおした!」


意外な答えだった。俺のためにわざわざ魔物の群れに突っ込んでいったというのか。


それにしても、俺よりも早く魔物の気配に気づくとは。


巨神族のなせる業か、それとも野性の感か。


「お前が戦えることは十分わかった。だが、あまり無茶はするな。いいな?」


「わかった!!」


ピュラは短剣を持った手をあげ返事をすると、死体の山から飛び降り俺のところまで走って戻ってきた。


「少し待ってろ。」


俺は身に付けていた黒いローブの端を破り軽く叩いて埃を落とす。


ピュラの目線に合わせてしゃがみ込み、大雑把にピュラの全身を拭いていく。


ピュラはニケに身を委ね両手を広げている。


「こいつらがボス、ではないな。まだ先がある。」


蜘蛛の死体の山の脇に更に道が続いていた。


「行くぞ。」


「おー!!!」


ピュラの元気な返事が洞窟内に響き渡った―――――。


澄み渡る青空に浮かぶ真っ白な雲に青々とどこまでも広がる草原。


そんな自然が作り出す見事なコントラストに溶け込むように一台の馬車が通る。


リズミカルに揺れ、軽快な音が鳴り響く。


アシーナは荷台の後方で腰を掛け進んできた方向を見渡していた。


「いい景色ね。とても落ち着く風景。」


アシーナはニケと過ごした幼き日々を思い出していた。


「これが王の試練でなければもっとゆっくり景色を楽しめたのに・・・あら?」


アシーナは草原の中にぽつりと佇む小規模な遺跡を見つける。


馬車はそのまま遺跡を通り過ぎる。


「遺跡? 随分小さいわね。かなり古いようだったけれど。」


アシーナは何となく遺跡気になり、しばらく見つめていた。


「お嬢ちゃん、ここでいいかい? 悪いがこれ以上は進めねえ。」


軽快な馬の足音が止まる。


アシーナは前方を見る。これまでとは明らかに違う空気だ。


「ええ、ここで大丈夫よ。ありがとう。」


アシーナは軽やかな身のこなしで荷台を降り、運転手にお礼を言って馬車を見送った。


「さて、行きますか!」


アシーナは両手で頬を軽く叩き気合を入れる。


洞窟の方角は、のどかな風景とはかけ離れた異様な空気が漂っていた。


「空気が重い。これじゃ人が立ち入らないのも納得ね。」


しばらく歩くと奇妙な形の森林を抜け、(つる)に覆われた絶壁にたどり着ついた。


「ここが入り口のようね。」


洞窟へ入ろうとした時、微かに懐かしい感覚を覚えた。


「え?」


胸元のお守りが淡い光を放っている。


「前に来たことがあったかしら? 」


アシーナは光るオリーブのお守りを手に取る。


「いいえ、そんなはずはないわ。記憶にないもの。」


「だとしたら何かしら。この懐かしい感覚・・・」


ふとニケの顔が浮かぶ。


アシーナは首を横に振る。


「・・・・・まさか、ね。」


アシーナは不思議に思い、首を傾げながら洞窟の中へ入っていった。

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