第178話 引き合う闇
アキレウスはオデュッセウスを探しタルタロスへ訪れていた。
「誰が設置したかは分からないが便利なゲートだ。設置してくれた奴に感謝だな」
しばらく歩いていると、血まみれになり横たわる人影が見えた。
「おいっ! 大丈夫か?!」
急いで駆け寄り抱きかかえる。
それは、良く見知った人物の無残な姿だった。
すでに呼吸はなく冷たく変わり果てていた。
「なんてことだ・・・ 一体誰に・・・?」
アキレウスは傷跡をなぞる。
微かにエーテルの残留を感じ取る。
「・・・ネメシス」
「すぐにオリオンに伝えなければ・・・」
アキレウスは簡易的ではあるが丁重に弔った。
そして険しい表情のままその場を後にした―――。
ズグラ密林に生息する植物は、そのどれもが非常に高く大きい。
上を見上げても青い空は一向にその姿を見せない。
高くのびのびと生えた木々が、空を覆い尽くしている。
日の光がほとんど当たらず木陰になっているおかげで想像以上に涼しく、風が気持ちいい。
森は似たような形態の植物が密集して自生しており、対策なしで挑めば間違いなく帰れなくなるだろう。
そう予感させる不気味な雰囲気が漂っている。
「ここがズグラ密林です」
「あの、何も準備せずに来てしまいましたが、本当に大丈夫でしょうか?」
パイドラとアリアドネは不安そうにお互いの顔を見つめる。
「あっち!!」
ピュラは密林の奥を指差した。
「概ね正解だ」
ピュラの頭を撫でる。
「ほ、本当に分かるのピュラちゃん? この密林はケオゲー大砂海のようにとても広いんだよ? 迷っちゃった、は嫌だよ?」
アルテミスはオロオロしながらピュラの指さす方向を見つめる。
「安心しろ。数十人の匂いが一カ所に集まっている。恐らく、そいつらが巨星で間違いない」
「もう一人現れたようだ」
テッサは目を丸くする。
「そんな事まで分かるのですか。一度会った相手の匂いを記憶するとは言っていましたが、どんな姿かも分からない相手の匂いまで分かるものなのですか?」
「神も人間も、その他動植物も、それぞれある程度共通した匂いの癖というものがある。それを元に判断しているわけだが、今回嗅ぎ取った匂いは全て人間のものだ。確か巨星は神を恨む人間で構成されているんだったな?」
「う、うん。そのはずだけど・・・」
アルテミスも呆気にとられたまま応える。
「であるなら、十中八九当たりだ」
「ほえ~。ニケってほんと凄いヤツだな~。さすがは化け物たちを束ねる筆頭化け物♪」
パンドラは感心して腕を後ろで組む。
「誰が筆頭だ。今回に限っては匂いを嗅ぎ取る力が役立ちやすい環境だったというだけだ。奴らは上手く隠れているつもりなのだろうが、相手が悪かったな」
「さて。いつまでもこんな所で突っ立っていても仕方がない。さっさと行くぞ」
「おー!!」
ピュラはニケの後にくっついていく。
「ピュラちゃん、何だか嬉しそうだね」
「そうですね。一見すると凸凹コンビに見えますが、ああ見えて二人はお互いに信頼し合っています。なんだかんだ言って、ニケさんの隣が一番居心地がいいのでしょうね」
テッサは二人の背中を見て笑みを浮かべる。
「ああ。目を見れば分かる。友のあの目。あんな眼差しはぼくたちには向けない」
パンドラは二人の背中を見て優しく微笑む。
「あら? 少し残念そうに見えるのは気のせいですか?」
テッサは口元を押さえる。
「だ、誰がっ?! ぼくとピュラは固い絆で結ばれているんだ。全然寂しくなんかないさ」
『寂しいのじゃな』
ケライノも悪戯な笑みを浮かべテッサに便乗する。
「違うって言っているじゃないか! ていうか毎回勝手に顕現するの止めろよな! 結構疲れるんだぞ!」
『よく言うわ! 都合の悪い時ばかり疲れたフリをしおって! その手には乗らんわ!』
「あーうるさい! こんな口うるさいおばあちゃん、誰か貰ってくれないかなー!」
『なっ?! 黙って聞いておれば好き放題言いおって! よかろう! そこまで言うなら契約は解消じゃ!!』
「望むところさ!! 静かになって清々するよ!!」
いつの間にか喧嘩に発展した二人の様子を見てテッサは深くため息をついた。
「分かりましたから、二人とも落ち着いてください」
「仲が良すぎると衝突しちゃうんだね。あはは・・・」
互いにそっぽを向く二人にアルテミスも苦笑いする。
「誰がこんなヤツ!」
『それはこちらの台詞じゃ馬鹿者め!!』
後ろから眺めていたパイドラとアリアドネもただ黙って見守るしかなかった―――。
「・・・そうか。オデュッセウスがやられたか」
オリオンは深く葉巻を吸い込み、空に向かい煙を吐いた。
「済まない。もう少し早く見つけ出せていたら・・・ 止める事ができたかもしれない」
「時期を見てユピテリアを襲撃するつもりだったが、ここでオデュッセウスを失ったのは痛いな。ネメシスの目的も未だ不明」
オリオンはじりじりと燃える葉巻の先端を見つめる。
行く当てもない白い煙はただゆらゆらと空へ昇っていく。
「予定変更だ。ネメシスを追う。この落とし前はつけさせる」
オリオンはしばらく遥か遠くを見つめ、葉巻を地面に押し付け火を消した。
「・・・全く。この忙しい時に俺の領域に土足で踏み入る賊が現れるか」
「賊? まさか・・・」
アキレウスの握る長槍に力が入る。
「戦闘準備に入れ。間もなく闘争が始まる」
オリオンはゆっくりと立ち上がり静かに闇を纏った。
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