第177話 信頼のかたち
ガルウェングの町は、鉱石の原石の買い付けに訪れる商人で賑わっているため、他の都市と比べて商人で結成されたギルドの数も多い。
ガルウェングのギルドハウスは宿屋と併設されていて冒険者や商人が利用しやすくなっている。
長旅で疲れた冒険者たちが宿を探す必要が無いようヒュアキントス王の進言が採用された結果である。
ギルドハウス―――。
「ぷは~!! 食べた食べた~!!」
「もうたべられない・・・」
ピュラとパンドラの前には、顔が見えなくなるくらい山積みにされた皿でいっぱいだった。
「ほう。ギルドのものにしてはなかなか美味いな」
二人の横でアンブルティーに舌鼓を打つ。
「ね、ねぇニケ! レオンダーリでも言おうと思ってたんだけど、ニケはこの光景に何とも思わないの?」
アルテミスはニケの肩を揺する。
「こいつらには何を言っても無駄だからな。それならアンブルティーに向き合っていた方がよほど楽しめるという事に最近気付いた」
カップを軽く回す。
空気に触れたティーは香りが開き、鮮やかな紅色と相まって何とも言えない幸福感に満たされる。
「初めはニケさんも注意していたのですけどね。もはや恒例となってしまった光景に、ニケさんもついに考える事を止めてしまったようですね」
テッサは積み上がる皿を見上げ苦笑いする。
「それより、ズグラ密林はここから遠いのか?」
「いえ。ここからは徒歩で向かう事になるのですが、それほど遠くはないです。ただ・・・」
パイドラとアリアドネは困ったように顔を見合わせる。
「実は、ズグラ密林の奥までは踏み入れていないのです」
「どういう事だ?」
「ズグラ密林は一度踏み入れたら二度と出す事が出来ない迷いの森で有名なんだ。私も入ったことはないんだけど」
戸惑っていた二人にアルテミスが代わりに補足する。
「そんな事を気にしていたのか。心配するな。既にこの町の匂いをマーキングしている。匂いを辿れば帰ってこられると思うぞ」
幸せそうにお腹をさするピュラの頭を乱雑に撫でる。
「こいつの鼻もあるしな」
「大丈夫、大丈夫!! 最悪どうしても分からなくなったらケライノが焼き尽くしてくれるさ! あっはは!!」
パンドラの肩にケライノが軽やかに腰かける。
〖貴様、まさか儂に罪をなすり付けるつもりではなかろうな?〗
「あれ? なんで分かったの・・・?」
〖それくらい分かるわ!! 馬鹿にしおって!! お主のそういう所がなっておらんと言っておるのじゃ!!〗
耳元で騒ぐケライノに堪らず耳を塞ぐ。
「ギルドハウスに入ったのは初めてだな~。何か賑やかでいいところだね」
アルテミスは他のテーブルで笑い声をあげ、飲み食いする人々を見て自然と笑顔になる。
「全く。やかましくてかなわん」
「同意ですね。稀に、酒に酔った面倒くさい輩がいたりしますしね」
テッサはため息をつく。
「この食欲魔人が駄々をこねなければ、もっと静かな所に行きたかったんだがな・・・」
幸せそうにお腹をさするピュラの横でテッサに同調する。
「それにしてもお前といいアシーナといい、つくづく世間知らずだな。これだから神は・・・」
「え?! なんで?! 私、何か変な事言ったかな?」
「アシーナのヤツも似たような反応だったからな。全く。ギルドハウスくらい珍しくも何ともないだろう」
「あなたがそれを言いますか」
テッサは笑いを堪えボソッと呟いた。
「何か言ったか?」
「ほらピュラさん、お口まわりが汚れていますよ」
訝しむ俺を尻目に、テッサはピュラをダシにさらっと受け流した。
「へぇ~。アシーナも入った事なかったんだ」
「そうだ!!」
アルテミスは急に立ち上がり、何やら闘志を燃やしている。
「私もニケのギルドに入れてよ! アシーナが楽しそうにギルドの話をするから気になってたんだ♪」
気のせいか?
ついこの間、全く同じ光景を目にしたような気がしたんだが。
やれやれ。どうやらこいつとアシーナは似た者同士のようだな。
「お! そいつはいいね!! じゃあせっかくだし、ぼくも入れてもらおうかな♪」
「ちょっと待て。お前はすでにギルド登録しているだろう。『黒棺』はどうするんだ?」
「そんなのギルドの異動と登録抹消手続きすれば済む話さ! 『黒棺』は今日で解散♪」
そんな簡単でいいのか?
こいつの考えている事はいまいち分からん・・・
「お二人なら、私は大歓迎ですよ。ですよね、ピュラさん?」
「うん!! だいかんげい!!」
ピュラは高々と両手を挙げる。
心の底から喜んでいるようだ。
まさか、この俺が笑顔を見ただけでピュラの感情が分かるようになるとはな。
自然と笑みがこぼれる。
あんなに人を遠ざけていたのに、今ではこんなにも大勢に囲まれている。
あれほど嫌っていた神々と楽しそうに会話をしている。
「やっぱり、お前は笑っていた方がずっといい」
ふと、そんな言葉を口にする。
「何か言いましたか?」
和気あいあいとする中、テッサは首を傾げる。
「いいや。何でもない。ギルド登録は明日にして、そろそろ出るぞ」
皆楽しそうに話しながら、併設された宿へ向かう階段を登っていく。
ピュラは立ち止まり、黙って後ろを歩く俺を待っていた。
「どうした? まさか、また腹が空いたとか言わないだろうな?」
ピュラは静かに首を横に振る。
そして勢いよく抱き着いてきた。
「みんないいやつ! みんながいるとたのしい!!」
「神が嫌いとか言っていた癖にな」
「う~。にけはしつこい。そんなの、とっくにわすれた」
こいつのめちゃくちゃな言い分に思わず笑ってしまう。
「冗談だ。良かったな」
ピュラの抱き着く腕に力が入る。
「ぜんぶ、にけのおかげ。にけがいてくれたから。ぴゅらをひとりにしないでくれたから」
「にけ、ありがとう」
頭が真っ白になった。
まさかピュラの口からそんな言葉が出て来るなんて思ってもみなかった。
あんなに不愛想で何も知らなかった奴が。
ピュラは恥ずかしそうに掴む裾に顔を埋める。
夕陽のように燃える赤髪のように、その小さく尖った耳を赤く染めていた。
「・・・それは俺のセリフだ」
恥ずかしがるピュラの頭を優しく撫でる。
「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。ピュラ」
「う~~~!!」
突然、ピュラは両手を振り回し俺の脚を叩く。
そして飛び退くや否や、赤らめた顔を必死に隠しながら皆の背中を追いかけていった。
「やれやれ・・・」
耳を赤く染め駆けていくピュラの姿に、言葉にできない温かい感情が湧き上がる。
胸に光るお守りを握りしめ、その小さな背中を見送っていた。
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