第176話 笑顔の裏で
デロス島南部最大の都市・ガルウェング。
アダマンタイトやミスリル鉱といった鉱石の発掘で栄える町。
多種類の鉱石が発掘できる場所はガルウェングをおいて他にない。
貴族やお偉いさん達が住む上部エリアと、一般の民が多く住む下部エリアに分かれている。
二つのエリアに分かれているが、特別問題があるわけでもなく、むしろ双方協力して町の発展に貢献しているためお互いに尊重し合っている。
どちらも自由に往来する事が可能だ。
都市の外れには既に利用されなくなった採掘場がいくつかあり、今は動物や昆虫の住処となり独特の生態系を築き上げている。
ガルウェングの町は、険しい岩肌を削ってできた傾斜のある地形が特徴的で、坂道の移動が困難な事から、町の頂上と入り口を繋ぐ線上間を行き来するゴンドラが至る所に配置されている。
このアイディアを提案したのもヒュアキントス王である。
「おおー!! はこぶねがいっぱい!!」
ピュラは行き来するゴンドラに目を輝かせる。
「新しいものを見る度にいちいち驚くのは最早お決まりだな」
全く。よくもまあそんなに感動できるものだ。
思わず感心してしまう。
「良いではありませんか。こういう体験が、後にピュラさんの成長に大きく貢献してくれます」
「そうそう! 子供のうちから色んなもの見ておいた方が逞しく育つぞ♪」
テッサの横でパンドラは歯を見せ微笑む。
「あなたのようになってもらっても困りますけどね」
「そんな事言うなよ~! ぼくとテッサの仲じゃないか」
抱き着かれたテッサは無表情のまま揺さぶられている。
アルテミスが町を眺めていると、チラシを配って回る青年の姿が目に入った。
「もうすぐピゴラピダのカーテンが始まるよ! 今なら宿の割引券もついてお得だよ!!」
青年はアルテミスに気付きチラシを持ってきた。
「はいよ! 美人なお姉さんにもこれ!」
「へっ?! わ、私は美人なんかじゃ・・・!!」
全力で両手を振るアルテミスの目の前に一枚のチラシがちらつく。
「近日中に拝めると思うから、是非ガルウェングに滞在していってくれ」
そう言い残し、青年は人ごみに消えていった。
チラシには輝く光のカーテンとピゴラピダの詳細がでかでかと印刷されている。
エメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝いた。
「ねぇねぇニケ! ガルウェングはちょうど今の時期ピゴラピダのカーテンが見られるんだって!」
「それがどうした?」
「えっ?! あ、いや・・・」
アルテミスの顔をまじまじと見つめる。
「全く。俺達は観光に来たわけではないんだぞ」
俺は深くため息をついた。
「そ、そうだよね! ごめんなさい・・・」
「ニケさん。その言い方は酷いと思いますよ」
テッサはしょんぼりするアルテミスの肩を優しく包む。
「気持ちは分からんでもないが、俺達の目的はあくまで巨星だ。まさか忘れたわけではないだろうな・・・」
「そ、それはもちろん! ニケの言う通りだね。確かに、ちょっと浮かれてたかも」
テッサはアルテミスを抱き寄せる。
「そんな事はありません。女性なら誰だって美しい光景に憧れるものです。そこの甲斐性なしさんには分からないのでしょう。かわいそうに。これだから鈍感な殿方は・・・」
「勝手に憐れむな。間違った事は言っていないはずだぞ。というかお前、段々言葉に悪意が入り始めているな?」
「知りません。私はアルテミスさんが可哀想だと思っただけです。それに、女性は正しさを求めていない時もあるのですよ。そんなだから女性に呆れられてしまうのです」
アルテミスの頭を撫でぎゅっと抱きしめる。
「あはは! にけ、でりかしーないね!!」
ピュラはあからさまに俺を指差して笑う。
「嬉しそうに言うな。それと人に向かって指を指すな」
よく見ると、テッサの頬はほのかに赤く染まり瞳が潤んでいる。
「テ、テッサ?! またかかっちゃってる?!」
アルテミスは逃げるようにテッサから距離を取る。
「あっ。アルテミスさん・・・」
悲し気な瞳で訴えかけるテッサの後ろからゆっくりと手が伸びる。
そして両手でテッサの顔を挟み込んだ。
「お~い。戻って来いよ~」
後ろからパンドラが顔を出した。
「・・・あら?」
テッサは目をぱちくりさせる。
「やれやれ。じき日も暮れる。とりあえずどこか落ち着ける場所へ行くぞ」
「あれ! あれのりたい!!」
俺は額に手を当てる。
「だから観光に来たわけではないと言っているだろう」
「いいと思いますよ。ゴンドラで登った先は上部エリア。貴族の方々が多いせいか、私達がいる下部エリアよりも、ゴンドラで上がった上部エリアの方が落ち着いた雰囲気のお店は多いと思います」
「上部から見下ろす町明かりもとても美しいですしね♪」
パイドラとアリアドネもどこか楽しそうだ。
こいつら、絶対に何か勘違いしているな。
俺の肩にそっと手が置かれる。
「心配しなくても大丈夫だって。目的は忘れていないし、皆があまり羽目を外しすぎないようぼくが見ているからさ」
こいつもたまには良い事言う。
「そうだな。ではお前に・・・」
パンドラの口から涎が滴り落ちる。
「はっ・・・?!」
急いで涎を拭う。
「さっき歩いていたら上部には美味しい出店が多いって話しているのを聞いていたものだから、ついね!! あははっ!!」
少しでもこいつに期待した俺が馬鹿だった。
アルテミスは静かに横に立つ。
「ニケの真面目な所、私は大好きだよ。でも、絶対に失敗できない戦いに身を置いているからこそ、息抜きも必要なんじゃないかな」
「息抜き?」
「改めて言葉にするのは嫌だけど、私達はいつ死んでしまうか分からない。そんな環境の中にいる。だったら、羽を伸ばせるときは思い切り羽を伸ばした方が、万が一そうなった時に後悔が少ないと思わない?」
「たぶん、皆どこかでそうやって心の中で上手く帳尻を合わせているんだよ。その時がいつ来てもいいように。楽しもうとしているのは、そういう覚悟の裏返しなのかもしれないね」
アルテミスは優しく微笑みかける。
「ピ、ピゴラピダ見たさに言っているわけじゃないからね?!」
なるほど。アルテミスの言う事は尤もだ。
誰だって死にたくないのは同じ。
ピュラやパンドラの笑顔が目に入る。
こいつらも、それなりに不安に感じているという事か。
アルテミスの頭を軽く叩く。
「フッ。お前の言う通りかもな」
「おーい! 早く乗ろうぜー!」
パンドラがこちらに向かい手を振っている。
「やれやれ。うるさいヤツだ。いくぞ」
アルテミスは大きく頷き、嬉しそうにニケの後を追った。
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