第175話 マリオネットの戯れ
異空間迷宮・ゼウスのアジト―――。
「ほいっと♪」
ミンテ達はゲートから軽やかに飛び出した。
「ふ~。なんか帰ってきたら急に疲れたな」
ミンテは面倒くさそうにするザグレウスを見て頬を膨らます。
「も~。だらしないんだから。任務を達成できたのは私のおかげなんだからね?」
「ほ、ほら。早くゼウス様に報告しないと怒られるよ」
「分かってるよ。さっさと済ませちまおうぜ」
三人は螺旋階段を駆け下り、厳重な扉をゆっくりと開いた。
気を失い眠るペルセポネは宙を浮き両手を広げ、頭を垂れている。
「うわぁ~」
赤黒い木は、ペルセポネから供給されるエーテルに反応し時折波打つように脈動している。
それに同調するようにペルセポネの身体も僅かに揺れる。
ゼウスは腕を組み赤黒い木を見上げ、その様子を見守っていた。
「ゼウス様、お使い終わったよ♪」
ミンテが明るい声で話しかけると、ゼウスはゆっくりと振り返る。
「ほう。思いのほか早かったな。俺の見立てでは、せいぜい失敗して戻ってくると思っていたのだが」
「むぅ! ひど~い! ママの力があるんだもん! 負けるわけないんだから!」
ミンテは頬を膨らめる。
「いいから早く奪ったエーテルを流し込め」
「分かってますよ~だ!」
ミンテは舌を出し必死に抗議する。
「≪武装結界≫」
ミンテが呟くと、巨大な青い悪魔が姿を現し赤黒い木の前で両手をつき、汚物を吐くように奪ったエーテルを黒い沼に流し込んだ。
「この悪魔、いつ見ても不気味だよなー。アドニスもそう思わないか?」
「う、うん。何だかグロテスクというか、怖いよ・・・」
ミンテはとぼけた様子で首を傾げる。
「え~? 可愛いと思うけどな~。ママみたいで、とても愛おしく感じるの♪」
「あれを可愛いと思うのはたぶん世界でお前だけだと思うぞ・・・」
ザグレウスは呆れて肩を落とす。
「ククク。ガイアが上手く隠していたようだが、まさかこれほどとはな。これならばタナトスの召喚は叶ったも同然よ」
「あ~!! ネメシスのお姉ちゃんだ♪」
ミンテの声に全員が振り返る。
扉から足を引きずり肩を押さえ、全身傷だらけの状態のネメシスが歩いてくる。
苦戦を強いられた事は明白だった。
「随分壊れかけているようだが、目的は達成したのだろうな?」
「一件落着。簡単ではありませんでしたが、任務は終えました」
「フン。貴様の気持ちなど聞いていない。さっさとエーテルを注げ」
ネメシスは無表情のまま、足を引きずり沼の前に立つ。
背中のトゥヴァイハンダーを引き抜き黒沼に突き立てる。
両手剣から青白い光が漏れ、沼に浸透していく。
やがてエーテルを注ぎ終えると青い悪魔は消え、ネメシスもトゥヴァイハンダーを引き抜き軽やかに背中に収めた。
「貴様の持ってきたエーテルはミンテよりも少ないようだが、まあよい。これだけあれば召喚は可能だろう」
ゼウスは手をかざし、埃を払うようにペルセポネを引き剥がし地面に捨てる。
「エーテルは十分に集まった。そいつの命も、もはや風前の灯火。壊れた玩具に価値はないのでな。残念ではあるが、ここで切り捨てる」
『ククク。どうしようもなく非道な奴よな。利用するだけ利用して必要がなくなった途端に。容赦がないな』
「女なぞ、世界を手にした後でいくらでも補充できるからな」
ミンテ達は高笑いするゼウスを見守っている。
「これより俺達は最終段階に入る。邪魔はするな。時が来たら知らせる。その時またここへ来い」
ネメシスは一礼すると、ゼウスに背を向け足を引きずり歩き出す。
「あはっ♪ お姉ちゃん痛そうだね! そんなに大変だったの? 私達が手伝ってあげれば良かったかな~」
「無為無能。あなた方と話す事などありません」
ネメシスはミンテ達の顔も見ることなく扉の奥へ消えていった。
「ぶ~!! 何よ!! せっかく気にしてあげたのに、良くわからないむずかしい言葉ばっかり使ってさ!!」
ミンテは思い切り舌を出す。
「放っておけよ。どうせ任務でしか会わないんだ。それにあいつ、何か不気味だし近寄りがたいんだよな」
「そ、そうだよ。あんな怖い人の相手するの、やめようよ」
「それもそうだね。さ~て、私達もいこっ♪」
扉へ向かうと、地面に無残に横たわるペルセポネが目に入った。
ミンテの表情が険しくなる。
「あなたを見ていると、何かここらへんが痛くなるの。なんでかな? すごく気持ち悪い・・・」
ミンテは胸を強く押さえる。
「あぅ?!」
突然、割れるような激しい頭痛に見舞われた。
ミンテは頭を抱え、堪らず膝をつく。
「どうした?!」
「だ、大丈夫?!」
駆け寄る二人の手を振り払う。
「あああっ!!」
頭を抱えるミンテは無作為にゲートを開き、悪魔の腕を伸ばしペルセポネを掴むと、そのまま黒いゲートへ投げ入れた。
やがてゲートは収縮し消えていった。
「ハァッ! ハァッ!!」
肩で息をしていたミンテはふらつきながら立ち上がる。
「な、なに・・・? この気持ちはっ・・・ とても重い・・・ とても・・・かなしい・・・?」
締め付けるような胸の痛みに困惑したまま、ミンテはその場に立ち尽くしていた。
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