第14話 主神の選択
オリンポス神殿、王の間。
一つの大きな星の下で、神や人間、動物たちが星に祈りを捧げる様子が描かれた、巨大なステンドグラスが玉座の後ろから王の間に日の光を導いている。
鮮やかな色のステンドグラスは日光のフィルターとなり、より温かみのある色彩となって王の間を照らしている。
心が安らぐような、とても神秘的な光景である。
その真下には、背中に円を描くように無数の剣を神々しく背負い、左手に剣を持ち空に掲げた像が堂々と立っている。
ゼウスがしばらく像を眺めていると巨大な扉が開いた。
腰まで伸びる美しい青色の髪をなびかせ、細身の穏やかな印象の青年が海を連想させる青色のマントに身を包みゼウスの元へ歩いてくる。
右手で持つ黄金の輝きを放つシンプルな形の杖が軽快に音を立てる。
「進捗はどうだ? ポセイドン。」
ゼウスは振り向き青年に尋ねる。
「残念ながら、今の所これといって成果はないな。」
「他の神やサングラッセンにも協力を仰いではいるが・・・」
穏やかな顔に影を落としポセイドンはため息交じりにうつむいた。
「そうか。これだけ探しても見つからないというのも不自然だが、死んだとも思えぬ。」
「メティスの実力と聡明さは誰もが知るところだ。何か事情があるのかもしれん。正直、メティスの抜けた穴は大きい。オリンポスの国力に影響する。それだけ彼女の能力は貴重だ。ゼウスよ、大丈夫なのか?」
「それはその通りだな。しかし戦力だけで見るなら問題ない。」
ゼウスの意外な答えにポセイドンは眉を上げる。
「あのメティスに変わる存在がいるのか?」
ゼウスは剣を掲げる像を一瞥して答える。
「アシーナをアテナ島の領主に据える。」
「アシーナだと?! お主本気か?!」
一転してポセイドンは声を荒げた。
「既に本人にも伝えてある。」
「ポセイドンは幼少期のアシーナしか知らぬ故、無理もない。アシーナの力は本物だ。歴代の神々の中でも屈指の実力。メティスと同等。いや、それ以上かもしれぬ。」
ゼウスが己以外でここまで他人を評価することも珍しい。彼女に対する信頼はそれほど大きい。
「な、なんと。ゼウスにそこまで言わせる程か・・・」
「確かにあの子は明らかに他の子とは違った。幼子でありながらすでに神術の片鱗を見せていたのだ。そのような者は極めて稀だ。推したくなる気持ちは分からなくはない。」
ポセイドンは深呼吸し自身を落ち着かせる。
「しかし、いくら実力が本物であってもお主の実の娘だぞ? 戦場に放り込むような真似をしていいのか? 命の危険がつきまとうのだぞ。」
「お主は実の娘の死期を早めるようなことをして何とも思わないのか?」
ポセイドンはゼウスを説得する。
「そんなことは百も承知だ。戦力が欠けていることが公になれば国の存続に関わる。選り好みしている時間はない。」
「万が一この事がアースやタルタロスに知れれば、隙を突いて攻め込まれる可能性すらある。それに、遅かれ早かれ実践を積むことになるのだ。」
ゼウスは表情を崩さない。
「これは国の、ユピテリアのためなのだ。」
「そうかもしれないが・・・」
「心配するな。そもそも戦争が起こらないように国を三分割したのだ。私の治めるこの天空域ユピテリアは最も安全といえる。私がいる限り、な。」
ゼウスはうつむくポセイドンを横目に扉へ向かい歩き出す。
「愛娘を軍に招き入れるなど正気ではない。国のためとはいえ、命の危険がある事にどうして巻き込めようか・・・私は反対だ。」
「相変わらず慎重な男だな。そこまで他人の事を思える者はそうはいない。素直に感心する。」
「だが、いつかその優しさが命取りになるぞ、兄上。」
そう言うと、ゼウスは巨大な扉を開け王の間を後にした。
「ゼウス・・・お主は王としては優秀だが、親としては最低の男だ。」
そうつぶやくと、ポセイドンは剣を掲げる像を見つめた。
巨大なステンドグラスから注ぐ光はいつしか燃えるような夕焼けに変わり、剣を構える像と佇むポセイドンを照らしていた―――――。
日も傾きサングラッセンの町に明かりがちらほら灯り始める。
派手な看板やおしゃれな店が建ち並ぶ大通りの外れにある、いかにも老舗の雰囲気漂う木造のレストランから明かりと人々の笑い声が漏れている。
店の中は酔っぱらい大声で笑い料理を頬張る者や、飲み比べをしているグループで賑わっている。レストランというより酒場に近い。
そんな賑わう店内の奥、少人数向けのスペースで俺とピュラは食事をとっていた。
「立地的に人があまりいなさそうだったからこの店にしたが、どうやら失敗だったようだな。」
俺はアンブルティーを飲みながらため息をついた。
ピュラはそんな俺にお構いなしといった様子で、目をキラキラさせながら彼女には不釣り合いな大きさの肉を夢中で頬張っている。
「このにくうまい!!」
彼女の目の前には肉の他にも魚介や野菜等のプレートが数枚置かれている。
「お待たせしました!」
そこへ、元気のいい女性店員が笑顔でこんがりと焼けた肉のプレートを置いていった。
焼けた肉の匂いがいい具合に食欲を刺激する。
「・・・お前、よく食うな。一体どこに収まるんだ。」
俺は呆れながら、猛スピードで料理を平らげていくピュラを見る。
「にふぇ! みすひょーだい!!」
「食うか話すかどちらかにしろ。」
俺はコップに入った水をピュラの前に置く。
ピュラはそれを一気に飲み干す。
「ぷはぁーー!! ここのりょうりうまい! 」
満面の笑みで聞いてくる。今まで見た中で一番の笑顔だ。よほど幸せらしい。
「にけはたべないの?」
「俺はいい。」
そういいながらアンブルティーをすすった。
「明日の朝にはガルゴ洞窟に向かう。今日はゆっくり休んで明日に備えるぞ。」
「おーー!!」
ピュラは両手をあげて返事をする。
「今更だが、危険を伴う可能性がある。お前、戦闘経験はあるのか?」
俺は一応確認する。まあ、戦力として数える気もないが。
いざとなれば俺が全力で守る。
また巨神化でもされたらたまらんしな。
「さとでまいにちかりをしていたからだいじょうぶ!!」
ピュラは元気に答えた。
「ムーロ村に来る前の話か。お前、一体何故・・・」
何故少女のままなのか。何故ピュラだけが助かったのか。
聞きたいことはいくつかあったが、それはまた別の機会にしておくか。
「狩りと魔物討伐は違うと思うが、まあ大体そんな感じだ。」
「そこの料理を食べ終えたら宿へ行くぞ。」
俺はピュラの前に置かれているプレートを指さした。
「はーい!!」
ピュラは再び凄まじい勢いでそれらを平らげていく。
「・・・・・・」
俺は猛烈な速さでプレートが積み重なっていく様を、黙って見ているしかなかった。
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