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第13話 ギルド結成


サングラッセンの町はクレタ島最大の城下町である。


島のほぼ真ん中に位置しており、クレタ島の経済の中心であると同時に有事の際には町を覆う巨大な壁が要塞となり島を守る。


この城を任されているのがミノス王だ。


人間でありながら神術を発現させた数少ない人物である。人当たりがよく裏表がない性格から、市民から好かれるだけでなく神々からの信頼も厚いカリスマ性を持った人物。


そんなミノス王が治めるサングラッセンの町はいつも賑やかで活気があり、城下の商店も大いに盛り上がっている。


「おおーーー!!! にけ! でっかいいえがある!!」


都会の街並みに、はしゃぎ飛び跳ねている赤髪の少女を見てため息をつく。


「おいピュラ。いちいちはしゃぐな。目立つだろ。」


「だって! こんなおおきいたてものみたことない!」


都会を目にしたことがないのだろう。彼女の透き通る碧眼は日の光を浴びた宝石のようにキラキラと輝いていた。


「まずはギルドに入る。行動するにも資金がないとどうにもならないからな。」


「ぎるど?」


ピュラは首を傾げる。初めて聞いた、といった反応だ。まあ予想はしていたが。


「簡単に言えば身分証明のようなものだ。ギルド証を持てばそれが世間での信頼になる。」


ギルド協会は世界中に支店があり、神でも人でもそれ以外の種族でも利用できる。


一度ギルド登録を澄ませばそのメンバーの人権は保たれる。


例え俺のような災厄であったとしても。


ピュラは眉間にシワを寄せて両手をこめかみにぐりぐりと押し付けていた。


こんな説明されても子供には分からないか。


「つまり、何人かで一つのグループを組むんだ。組んだ仲間と協力してクエストと呼ばれる、お使いみたいなことをこなして金を稼ぐってことだな。」


俺はできる限り簡単な言葉を選んで答えた。


するとピュラの表情が急に明るくなった。


「おつかいならわかる!!」


俺が生きていることはそう遠くないうちにゼウスの耳に入るだろう。


余計な邪魔が入る前にギルド登録を済ませておけば、少しは動きやすくなるはずだ。


「よし。行くぞ。」


城へ真っすぐ向かうように綺麗に整備された大通りを歩く。幅の広い開放感のある道路は、馬車や魔物の引く荷車やらが行きかっている。


脇には小奇麗なレストランや服屋、武具屋やアクセサリーの店等様々な店が並んでいる。どこからか美味しそうな匂いも漂ってくる。いかにも都会と言った風景だ。


しばらく大通りを歩いていると前方に巨大な円形の建物が見えてきた。


「にけ!! あのまるいのなに?」


横を歩くピュラが円形の建物を指さした。


「さあな。宿、にしては大きすぎるか。」


建物を見上げながら道に沿って迂回すると入り口らしき場所に、声を張り上げる筋肉質の大男が目に入った。


「さあさあ!! 今日の目玉はヘラクレスVS邪竜ヒュドラだよ!! ぜひ見ていってくんな!! 白熱する事間違いなしだよ!」


大男の周りには人だかりができている。


「なるほどな。コロシアムか。」


俺は人だかりをそのまま通りすぎた。


「ころしあむ?」


ピュラが人だかりを見送りながら聞いてくる。


「ああ。コロシアムは闘技場のことだ。人や魔物等、とにかく生物同士を戦わせる場所だ。」


「ふ~ん。」


ピュラはあまり興味を示さなかった。


「あそこか。」


城へ通じている道の脇に、少し豪華な佇まいで「GUILD HOUSE」の文字を掲げた建物が見えた。


中へ入ると、木造で統一された開放的な作りをしており、机の奥では酒の入ったジョッキを片手にスタッフと楽しそうに立ち話をする人や、テーブルを挟んで豪華な食事を楽しむ人、武装した人であふれていた。


「騒がしいな。」


俺はため息をつき、入ってすぐにある受付に向かった。


「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


爽やかですがすがしい印象を受ける受付嬢が元気に尋ねてきた。


ネームプレートには『ライア』と書かれている。


「どこかメンバーを募集しているギルドはあるか? 詳細は特に気にしない。」


「少しお待ちくださいね。」


受付嬢はリストが載ったファイルを上から順に見ていく。


「申し訳ございません。現在メンバーを募集しているギルドはありませんね。」


「そうか。では新たにギルドを立ち上げることは可能か?」


募集していないなら作るしかない。


「それでしたら問題ありませんよ。メンバーはそちらのお子さんと二人でよろしいですか?」


「ああ。それで問題ない。」


「ギルド名はいかがいたしましょう?」


全く考えていなかった。


名前か。正直、名前などどうでもいいがあまり適当でも恰好つかないか。


「そうだな。」


俺はふとピュラを見る。首を傾げてこちらを見上げている。


「アストラス・・・」


俺は無意識にその名をつぶやいた。どうしてこの名前が浮かんだのかは分からないが、何故かしっくりきた。


「ギルド名はアストラスで登録を頼む。」


「アストラスですね! わかりました。代表者様のお名前をお願いします。」


「ニケだ。」


「ニケ様ですね。それではギルド証を作成しますので、こちらへ。」


ピュラを部屋の前で待つように促し、俺は受付嬢についていき奥の小さい部屋へ入る。


中は何やら色々と物が積まれ、テーブルの上には綺麗な金属性の何の変哲もない腕輪がいくつか並べられていた。


受付嬢は腕輪の中の一つの、シンプルなものを手に取り手渡してきた。


「この腕輪にエーテルを注ぐように念じてみてください。イメージするだけで結構です。腕輪がその人を象徴する色に変化し、唯一無二の腕輪となります。ですので、悪用される心配はありませんよ。」


受付嬢は笑顔で説明する。


エーテル。簡単に言えば生物に流れる命の源であるエネルギーの事だ。


「なるほどな。俺は少し特殊だが大丈夫か?」


「それは大丈夫ですよ! ユピテリアのギルド協会が生成した自慢のブレスレットです。変わるのは色のみですし、どんなことをしても壊れたりしないので安心してください。」


受付嬢は少し自慢げに腰に手を当てて胸を反る。


「そうか。それなら安心だ。」


俺は目を閉じ神経を左手に持つブレスレットに集中する。


するとブレスレットは一周するように真っ白に染め上げられ、更に一周回り鎖の形に変わっていく。


ゆっくり目を開ける。左手には白い鎖に形を変えたブレスレットがまばゆい光を放っていた。


ガタっと音を立てて受付嬢はテーブルにもたれ掛かった。まるで未知のモノに遭遇したような反応だ。震えた両手で口を塞いでいる。


「これでいいのか? 形が変わってしまったが・・・」


呆然とする受付嬢に尋ねた。


「な、何ですかこの色・・・白いのに透き通っているような、不思議な色。」


「色々な人を見てきましたけど、こんな色初めて見ました。それも形まで変わるなんて・・・あなたは一体・・・」


受付嬢は少し怯えた表情で、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。額には汗が滲んでいる。


まるで化け物を見るような目。こういう反応には慣れている。


「おい、これで終わりなのか?」


「はっ! す、すみません! あまりにも珍しい色でしたので、つい・・・」


部屋を出るとピュラが黙って椅子に座っていた。部屋から出てきた俺の姿を見ると、勢いよく抱き着いてきた。


「これでギルド登録は完了しました。」


「あ!! 申し遅れました!! 改めまして、私はライアと申します。今後は私がニケ様のギルドの担当になりますので、分からない事があれば何でも言ってくださいね!」


ライアは元気よく挨拶をする。


「ああ、よろしく頼む。」


俺はふと受付横の張り紙を見た。


「早速クエストに挑戦してみますか?」


大きい掲示板らしき木製の板に上から順に文字の書かれた紙が何枚も張られている。


紙は五つの行に区切られており、左端に上からSS、S、A、B、Cの文字が書かれていた。


「上に掲示されている依頼ほど報酬が高いのか。つまり難易度の高い順になっているわけか。」


掲示板に張られた依頼はAから上は何も張られていなかった。


「S以上はないのか?」


「このギルドではA以上の依頼は今のところありませんね。」


「初めは慣れるためにもCランクのクエストがいいと思いますよ。いきなり高難易度に挑むのは危険ですし。」


「特に、Aランク以上になってくると普通の人では難しいと思います。軍に所属し訓練を積んだ神様か、よほどの実力のある方でないと命の危険を伴うクエストがほとんどです。」


「そうか。」


ライアのアドバイスを聞いていたとき、急に後ろから何かがぶつかってきた。


振り返ると、俺が見上げるほどの筋肉質の男が長い顎髭を撫でながらクエストの張り紙を覗き込んできた。

背中には自身の身長ほどの戦斧が担がれている。


男の後ろには片手剣を腰につけた男と、背中に大弓を担ぐ男が二人。


「兄ちゃん見ない顔だな。新入りか? あまりにも小さくて気づかなかったぜ。悪かったな。」


大男はわざとらしく謝ってきた。


謝ってはいるが悪びれていないのは態度でわかる。


「おい、このクエストをやりたいんだが。」


いちいち構うのも面倒だ。俺は大男を無視してライアに一枚の紙を見せた。


『ガルゴ洞窟最深部の魔物討伐 報酬500,000(ガルド)』。


紙の左上には赤色で「A」の文字が書かれている。


「ええ?!!」


紙を見たライアは、賑わうギルド内に引けを取らない大声で叫んだ。その声にギルド内の注意が一気にライアに向いた。


ピュラはそんな空気は気にも留めず軽やかに跳び、俺の肩に座って大男と視線を合わせた。


「おじさんおおきい!!」


「・・・・・・」


大男はピュラを見て一瞬目を丸くした。


「プっ!! がはははははは!!!!」


いきなり大男は急に大きい声で豪快に笑いだした。


ピュラは大男を見て首を傾げる。


「最高だよ兄ちゃん!! いやあ面白い冗談だ!! こんなに笑ったのは久しぶりだ!!」


大男は笑いを堪え声を絞り出す。後ろにいる仲間二人も口を押え、必死に笑いを堪えていた。


「無知ってのは怖いな! 初心者はおとなしくCランクのおつかいをしてお小遣いを稼いでいた方が身のためだぞ!!」


「その嬢ちゃんのためにもな!!!」


ピュラを指さす大男の言葉でさらに笑いが巻き起こった。


いつのまにか面白半分で見に来た野次馬に囲まれていた。


俺はため息をつく。


「おいピュラ。いい加減降りろ。」


毎度のことだがピュラは言う事を聞かない。


ピュラはニケの肩の上で、大笑いする大男を見て首を傾げる。


「危険ですニケ様!! さすがにいきなりAランクは危なすぎます! Bランクですらクエストによっては命にかかわる物もあります! とても許可できません!!」


ライアは困惑した様子で説得する。


「いや、これでいい。手っ取り早く金を稼ぎたいからな。」


俺は大男を避けライアに紙を手渡す。


「証拠品はその魔物の首か?」


「え? あ・・・ガルゴ洞窟の最深部には聖水が湧き出る銀の聖杯が眠っているらしく、その聖杯を魔物が守っているそうです。」


「ですので、その聖杯を持ち帰っていただければ大丈夫ですが・・・その依頼を受けて生きて帰った冒険者はいません・・・」


ライアはそこま言いい言葉を止めうつむいた。


「クエストの張り紙を出してはいますが犠牲者が多いので、ミノス王も対策を講じようと動いてはくれているのですが、なかなか・・・」


「聖杯を持ち帰ればいいんだな。分かった。」


「本当にやるんですか?!」


心配するライアに背中越しに手を振り、俺はピュラを肩車したまま外へ出る。


「兄ちゃん死ぬなよーー!!!」


背後から、うるさいくらいの笑い声が聞こえてきたが遮断するように扉を閉めた。


「おいピュラ。そろそろ降りろ。」


俺はピュラの両脇を掴んで降ろした。


「にけ。おなかすいた・・・」


確かにしばらく食事をしていなかった。


「それもそうだな。宿に行く前にどこかで食うか。」


「おーーー!!!」


俺はピュラの手を引き大通りへ向かった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


評価およびブックマークありがとうございます!


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