第109話 星の裏側
異空間迷宮のとある廃墟―――。
「ふぁ・・・ 何だか疲れちゃったわね」
ペルセポネはあくびを押し殺しながら建物の中へ入って行く。
古びた玉座の前に朽ち果てたテーブルが置かれており、何やら口論をする二人の人影が見える。
「お前、それはズルだろメガイラ!」
青髪ショートに、サメのように鋭い歯。全身を包む黒いローブが耳の金属製のピアスを一掃引き立てる、派手な出で立ちの女性が声を張り上げている。
額の一本角が光沢を帯びている。
「そんな事ありませんわ。 アレクトがルールを覚えていないだけでしょう?」
怒鳴る青髪の女性とは対照的に、大人しく貴族のような丁寧な言葉遣いの女性は盤上の駒を弾き、手に持つ駒を一歩進める。
同じく黒いローブを身にまとう女性は、ウェーブの黒髪も相まって全体的に暗い印象だ。
角はないが、背中には悪魔のような羽が生えている。
「そんなルールあったか? 私の記憶ではそんなのなかったぞ?」
「どこかの国の貴族様みたいな事言わないでくださいますか? 全く、これだから学のない輩は困るのです」
メガイラは肩をすくめる。
「何ぃ?! 今お前ちょっとバカにしただろ?!」
「違います。かなり、です」
「よし、分かった! 喧嘩を売ってるんだな? いいぜ、やってやるよ!」
アレクトは胸の前で拳を合わせ立ち上がる。
勢いあまってテーブルにぶつかり、メガイラに倒れた駒がぶちまけられる。
「あなた・・・」
メガイラは無言でアレクトを見上げた。
黒髪から覗く赤い瞳が苛立ちを物語っていた。眉間にシワが寄っている。
「あらあら! 二人とも元気そうで良かったわ♪」
「ペルさん?!」
互いに睨み合っていた一触即発の二人は同時に声の方を振り返った。
「ペルさん聞いてくれよ! メガイラのヤツがゲームでズルしたんだ!」
「ルール上全く問題ない戦術ですよ。、言いがかりは止めて頂けます?」
ペルセポネはハッとする。
「まさか私が負けたのって、メガイラのイカサマのせいだったの・・・?!」
メガイラは、わざとらしくその場に座り込むペルセポネを見て呆れかえる。
「そんなわけないでしょう。誠に言いにくいのですが、ペルさんはゲームの才能がですね。その・・・壊滅的であります」
アレクトは激しく同意した。
「それは違いねぇ! ペルさん、分かりやす過ぎるんだよ」
「そ、そんな・・・?!」
ペルセポネはショックのあまり白目をむいた。
「それより、戻ってきたって事はアースの防衛は成功したのですね?」
ペルセポネはスイッチが入ったように立ち上がり胸を叩く。
「当たり前でしょ? この私が加勢したんだから!」
二人はため息をつく。
「でも実際、私が行って正解だったわ。まさか、ゼウスがあそこまでの化け物だとは思わなかった。加えて、その娘まで暴走する始末・・・あなた達ではちょっと手に負えなかったかも」
「全く。親子揃ってタチが悪いったらないわ」
ペルセポネは肩をすくめる。
「そんなに強敵だったのかい? ペルさんにそこまで言わせるなんて」
「相手はあのゼウスだし、ある程度は予想していたけどね。想像以上だった」
「クロノス様は一緒ではなかったのですか?」
「ええ。クロノス様はユピテリアでやる事があるみたいだったから、先に私が様子を見に戻ったというわけ」
「ゼウスは戦いの最中に突然姿を消した。クロノス様は、ニケ様の妨害が目的で『奈落の闇』である私達と、あの子達が標的になる可能性が高いと言っていたわ」
アレクトとメガイラは唾をのむ。
「仮にゼウスの目的が『奈落の闇』なら、必ずあの子達を狙うはず。それは阻止しないといけない」
「では、様子を見に行きますか?」
「ええ」
ペルセポネは黒いゲートを開き先に中へ入る。
アレクトとメガイラの二人も後を追った―――。
異空間迷宮は、ユピテリア・アース・タルタロスのどこからでもアクセス可能であり、その数も無数に存在する星の裏側のような場所だ。
闇の力を持つ神術使用者でなければ黒いゲートは開けない。
そして、黒いゲートでなければ異空間迷宮に繋ぐことはできない。
だからこそ『奈落の闇』は拠点として利用している。
そんな異空間迷宮のある場所にだけ、真黒の液体が溜まる底なし沼のようなものが存在する。
まるでエーテルをすり減らし傷ついた星に膿ができたように。
傷を癒すかのように、そこから一定期間ごとに闇の力を宿す人の形をした生命体が生まれている事が、ペルセポネにより数年前に発見された。
「特に変わった様子はないみたいね」
「ここも異空間迷宮だしな。ペルさんの結界のおかげで簡単には分からないはずだよ。それにしても・・・よく一人でこんな広い空間を管理しているよ」
「アレクトの言う通りです。普通そんな事できませんよ」
三人は瓦礫や廃墟が空中に漂う、大きく開けた場所を見下ろしている。
「あはっ! ほら、私ったら時間も体力もエーテルも有り余ってるから♪」
「返答に困る振りは止めて頂けると助かります・・・」
メガイラは肩を落とす。
「いい年して誰にも貰ってもらえないってのも、可哀想なもんだよな。ま、ペルさんは文字通り悪魔みたいな人だから、男が敬遠する気持ちはよく分かるけどな」
「ちょっとそれどういう意味よ? 私だってその気になれば彼氏の一人や二人余裕よ! それに、今はクロノス様やニケ様がいるし~♪」
「恋はやっぱり追われるよりも追った方が燃えるわよね♪」
ペルセポネは一人で浸っている。
「ま、ペルさんは順序を飛ばしたようなものだけどな。彼氏もいないクセに、先に子供を持っちゃってさ。しかも、あんなにたくさん」
アレクトは見下ろす先を指差した。
「あらあら。今日はその口、随分と調子がいいのね♪」
ペルセポネは手刀を思い切りアレクトの頭に打ち付ける。
「いってぇーーー?!!」
「フフ。自業自得です」
メガイラは、頭を押さえのたうち回るアレクトを見て笑顔を浮かべる。
三人が見下ろす先には、かなり大きい廃墟が立つ巨大な一枚岩のように広い大地が浮かんでいる。
かつて栄えた神殿の庭だろうか、廃墟の敷地らしき場所に百人はくだらない程の、人の形をした何かが生まれたままの姿で徘徊していた。
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