第108話 鍛冶神の娘
「パン、ドラ・・・」
「そうだよテッサ。久しぶりだね。あの時以来かな?」
真剣な面持ちのテッサに微笑みかける。
「あの時・・・?」
アシーナはテッサの緊張した面持ちに不安の色を示す。
パンドラは張り紙を受付嬢に手渡す。
「ぼくの所属する『黒棺』もこのクエストに参加する。そうすれば、彼らもクエストに挑戦していいんだよね?」
「え、ええ。ルール上は問題ございません。ですが、あなたのギルドは確か・・・」
受付嬢はギルド名簿を漁り始める。
「まあまあ。細かい事はいいじゃないか」
パンドラは名簿を捲る受付嬢の手を止める。
「わ、分かりました。それではクエスト依頼を受理いたします」
「それじゃ、早速討伐に向かおうか」
ギルドを出ようとするパンドラの肩を掴む。
「待て。色々と勝手に決めてくれたようだが、一体どういうつもりだ?」
「ただ君たちを助けてあげたかっただけだよ。君たちはクエストを受けたがっていたように見えたけど、気のせいだったかな?」
「いえ。その通りです。ありがとうございます」
アシーナは深々と頭を下げた。
「美しい所作だ。その左腿の紋章といい、神の中でも高貴な出身かな?」
「アシーナと申します。以後、お見知りおきを」
パンドラは顎に手を当てる。
「ふぅん。なるほどね」
「おや?」
パンドラはテッサの抱える長刀をまじまじと見つめ、その手に触れようとする。
「さ、触らないで頂けますか? 穢れてしまいます」
パンドラは一瞬目を丸くするが、すぐに大笑いする。
「あっはは!! 穢れるって酷いなあ!! 幼馴染に断界七刀に触る権利くらいあってもいいじゃないか!!」
パンドラの様子を見て、テッサはより警戒しエレクトラを抱きしめる。
パンドラの表情が一変する。
「エレクトラが沈黙している。どうして封印を解いた? まさか、それが何を意味するか分かっていないとでも?」
「そ、それは・・・」
テッサは反論する事ができず、ただうつむいた。
アシーナはテッサの前に立つ。
「クエスト依頼を受諾された事については感謝します。ですが、これ以上友達を困らせると言うのなら、ここでお別れにしましょう」
「大変失礼だとは思いますが、テッサに対するあなたの態度からは敬意が感じられません。幼馴染と言うのなら、もっと他に接し方があるのではありませんか?」
「アシーナさん・・・」
パンドラはしばらく黙ってアシーナを見つめる。
「あははっ!! ごめんごめん!! そんなつもりはなかったんだ!! 気を悪くしたなら謝るよ」
あまりの変わり様に、アシーナは目をぱちくりさせる。
「ぼくはヘパイストスの娘だ。だからね、見れば分かるんだよ。中にいる精霊がどのような状態なのか」
「断界七刀を所有するという事は、精霊に気に入られているという事だ。程度は個人差があるけど、その好感度によって力の解放段階が変わって来るのだけど・・・」
パンドラは意味深にテッサを見つめる。
「複数の断界七刀を所有できる者はいないんだ。普通ならね。無理に一本以上扱おうとすれば、膨大な精霊のエーテルに浸食され主の器が崩壊する」
「彼女の持つ剣を見るに、既に四体の精霊と契約を交わしている。絶対に在り得ない事なんだよ」
テッサの顔色が悪い。
「テッサ・・・」
アシーナはテッサの肩を支える。
「とにかく。そんな彼女と行動を共にする君たちに興味が湧いたんだ。そういう事だから、仲良くしようじゃないか」
どこか油断できない感覚があるが、今に限って言えば特に殺気も感じられない。
何かあればすぐに対処できる。とりあえず様子を見ておくか。
「分かった。どの道、お前がいなければクエストに行く事も出来ない。ただし、エレクトラの事でこれ以上踏み入るのは厳禁だ。いいな?」
パンドラは肩をすくめる。
「了解だ。その件に関しては口にしないよ」
アシーナも一息つく。
「それで大丈夫? テッサ」
「え、ええ。そうですね」
テッサはまだ顔色は優れなかったが、一旦了承した。
「おまえ!! すごくいいにおいがするーーー!!」
ピュラは勢いよくパンドラに飛びかかる。
「うわぁ?!!」
パンドラは咄嗟に飛び退く。
「やめろ」
俺はピュラの首根っこを掴む。
「にけ!! こいつ、すごくいいにおいがする!!」
大きな碧眼がキラキラと輝いている。
夢中になりすぎて涎まで垂らしている。
「分かったから、そのすぐ匂いを嗅ぐ癖はどうにかならないのか?」
「それにしても、ここまで夢中になるのも珍しいな」
とりあえずパンドラから引き離し地面に降ろす。
「はぁ~。ビックリしたぁ・・・」
パンドラは胸に手を当て息を吐く。
「もう。ピュラちゃん、お口が・・・」
アシーナは小さな布を取り出しピュラの口周りを拭う。
「よく見ると、その小さい子もとても不思議なエーテルだね。すごいメンバーの集まりだ」
「君がリーダーだろ? そんな人たちを束ねる君は、さぞ面白いのだろうね」
パンドラの視線が熱い。
「そうでもない。普通だ」
俺はそっぽを向く。
「よく言うわね」
アシーナに肘で小突かれる。
「あははっ!! これは退屈しないで済みそうだ!! しばらくよろしく頼むよ!!」
俺達は、突如行動を共にする事となったパンドラと共にレルネ湿原へと向かった。
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