第106話 未来に思いを馳せて
四人の座るテーブルに凄まじい速さで料理の皿が積み上がって行く。
アシーナとテッサはその光景を目の当たりにし、ただ口を開け驚くばかりだった。
「ピュラちゃんて、こんなに良く食べる子だったのね・・・」
「ニケさんはこの事を言っていたのですね」
テッサは目の前に積み上がる皿を避けるように首を曲げて俺に話しかける。
「だから言っただろう。良く食うのは構わないが、これのせいで周りから一気に注目を集めるんだ。見られながらの食事なんて、あまり気持ちのいいものではない。飯時くらいリラックスしたいものだ」
「た、確かにみんな箸を止めて見ているわね・・・」
三人は一斉にため息を漏らす。
ピュラはそんな俺達におかまいなく目の前に用意された料理を掃除機の如く吸い込んでいく。
「お待たせ致しました! 猪の照り焼きになりますっ♪」
ウェイトレスはご機嫌な様子でリズミカルにこんがり焼けた豪快な肉を乗せた大皿を置き、舞うように去って行った。
それを見て更にため息をついた―――。
「ごちそうさまでしたっ!!」
「分かったから、じっとしていろ」
俺はピュラの口を乱暴に拭く。
「もう。それじゃ痛いわよ」
アシーナはピュラの横に座り、優しく口を拭う。
「ふふ。こうして見ていると夫婦みたいですね」
拭うアシーナの手がビクッと強張る。
「な、何を言い出すのよテッサ?! そ、そういうのはまだ早いというか! い、色々と順序があるというかっ・・・!!」
あまりの動揺に早口になる。
「『まだ』という事はいずれそうなるおつもりなのでしょう? それならいいじゃないですか」
「そ、それはそうかもしれないけど! あ、いや! そうなれたらいいかなくらいでっ!」
「おや? ニケさんは満更でもなさそうですよ?」
アシーナは頬を赤らめながら、上目遣いで伺うように熱っぽい視線を送ってくる。
「どうした?」
「え?! あ、や、なな何でもないっ!!」
アシーナは思わず視線を逸らす。
「そんなに動揺する事か?」
「ニ、ニケは恥ずかしくないの?! ふ、夫婦とか言われてっ・・・!!」
「いずれはそうなるんだ。驚くほどの事ではないだろう?」
テッサは思わず目を覆う。指がスカスカで、まるでその役割を果たしていない。
(ニケさん!! その意味を分かって言っているのですか?! そうなのですか?!)
(こ、これは面白い展開になりましたね!! メティスさんにも見せてあげたいです!!)
「ちょっ?! え?! 何それいきなりプロポーズ?! ここで?! こ、心の準備がっ・・・!! ていうか、もっとこう、ムードというものがあるでしょう?!」
アシーナは急に身だしなみを気にし始め、必要以上に手櫛で髪を整える。
「何をそんなに慌てているんだ・・・?」
俺とピュラは首を傾げてアシーナを眺める。
「アシーナさん。ご結婚、おめでとうございます」
テッサはアシーナの耳元でそっと囁いた。
「けっ・・・?!!」
アシーナの中で何かが爆発したような音が響く。
「きゅ~~~・・・」
真っ赤にした顔から煙が立ち上る。
「あら? ちょっとやりすぎてしまいましたか」
「お前・・・この類の話になると人格変わるよな・・・」
「アシーナさんが天然記念物級・・・いや、もはや絶滅危惧種級に純情なものですから、つい」
「分かったから、そのキラキラした目で俺を見るな」
俺は深くため息をついた。
「こ、こほんっ!!」
テッサは咳払いして席に戻る。
「う~・・・ん?」
アシーナはニケとテッサの話し声で目が覚める。
「お前も飲むか?」
アシーナの前にアンブルティーを置く。
爽やかな果実の香りが広がり、心が落ち着いていく。
「落ち着いたようで何よりです。アシーナさん」
「も、もう! あなたのせいでしょう?! 全く。テッサって結構したたかよね。イメージ通りというか何というか・・・」
アシーナはアンブルティーを口へ運ぶ。
「さて、これからどうする? 何か買い物でもするか?」
「そうですね。せっかくですし、色々と見て回りたい気もしますが、それだとどうも落ち着きませんね」
ある意味、テッサの反応は普通かもしれない。
俺達は一般人ではない。命を賭けた神との戦いを何度も切り抜けてきている。
実際のところ、平和な町に来てみても何をしたらいいか分からない。
「そうだ! ニケってもうギルド結成してたんだっけ?」
「金が必要だった事と、身分証代わりに一応な。あの時は追っ手を警戒していたからな。それがどうした?」
「ね! もし良かったら私とテッサもギルドメンバーに入れてよ! いい機会だし、買い物するよりもクエストこなす方がワクワクしない? それに、少しでも多く解決できれば国の為にもなるし! 案内すると言っておいて何だけど・・・」
アシーナは苦笑いする。
「俺は構わないが、お前達はそれでいいのか? せっかくの観光だ。こんな時くらいゆっくりしておいた方がいいと思うが・・・」
テッサはしばらく考え込む。
「いえ。アシーナさんに同意します。買い物と言っても特に欲しい物もありませんし、体を動かしている方が気が楽です」
「お前達がそう言うなら止めはしない。ピュラもそれでいいか?」
「うん!! はやくまものたおしたい!!」
俺はため息をつく。
買い物よりも戦闘を求める女たち、か・・・俺が言うのも何だがこいつら、少々逞しすぎないか。
会計を済ませ外へ出る。
「てっさ! おんぶ!!」
ピュラは勢いよくテッサの背中に飛び乗った。
「おい。ちゃんと自分の足で歩け。テッサも、こいつの言う事いちいち聞かなくていいからな」
「私は構いませんよ。ピュラさんの相手をしていると、とても癒されますので」
「やれやれ」
テッサの背中を見て頭を掻く。
「この先にギルドハウスがあるわ。そんなに遠くないから安心して」
アシーナはテッサの後を追う。
ふと、レストランでのテッサの話を思い出す。
遠い未来の事を想像してみる。
満面の笑みで我が子に微笑みかけるアシーナと、それを見守る俺。
何とも言えない温かい気持ちになった。
夫婦、か。
アシーナの横に並びその頭を撫でる。
「ど、どうしたの?」
「どうもしない。何となく、だ」
「そ、そっか・・・」
こそばゆい空気に、アシーナは地面を見つめる。
二人の間に沈黙が流れる。
「いつか。いつかその時が来たら、ちゃんと言葉にする。だから・・・それまで待っていてくれ」
見上げると、ニケは恥ずかしさでそっぽを向いていた。
耳が赤くなっている。
そんなニケを見て何だか安心する。
「うん」
アシーナは、ニケの優しく包み込むように撫でる心地いいリズムに、しばらくその身を任せていた。
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