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第105話 観光日和


俺はオリンポス神殿の北にある裏山から見事に復興した神殿を見下ろしていた。


「おお~!!」


ピュラは丘の下に広がる広大な景色に目を輝かせていた。


「神殿の裏にこのような裏山があったのですね。いい景色です」


そよぐ風にテッサは髪を押さえる。


「以前はとてもそんな風には思えなかったがな」


ここから見る風景を特別気に入っているわけではない。


むしろ幼少期の嫌な思い出の方が遥かに強いぶん、俺にとっては苦痛の思いの方が大きい。


まさかこんなにも穏やかにこの景色を見る事になるとは。


俺は自分の事ながら驚く。


「神殿の様子も随分と変わりましたね。前回見た時と比べると華やかさがかなり抑えられている印象です」


再建された神殿は黄金素材ではなく至って普通の、言ってしまえばそこら辺にある神殿と区別がつかない程控えめな印象だ。


アシーナが金色にするのを止めたらしい。


「あいつは真面目だからな。権威をあからさまに示す佇まいが落ち着かないのだろう」


「今までが派手すぎたのよ」


ゲートから出てきたアシーナが補足する。


「全く。ゲートを使い遅れて登場とは、さすがは主神様だな」


「し、仕方ないじゃない! 色々と忙しいのよ!」


「それに、ゲートはゼウスが神にだけ使えるように改良した神術だし、実際便利なのよ。そう言うニケだって、半分は神の血が流れているでしょ? それもとびきり貴重な」


「横着しているといつか肥えるぞ」


アシーナの顔が真っ赤に染まる。


「さ、最低!! 余計なお世話よ!! 女の子にそんな事言うなんて!! ニケのバカ!!」


「何を怒っている? 俺はただ事実を言っただけ・・・」


テッサとピュラの冷たい目線を感じる。


「男としてクズですね。そういうところ、出会った頃と全く変わっていません」


テッサは呆れかえっている。


「にけ、でりかしーがない」


「・・・そこまで言うか?」

 

まだテッサに言われるのは理解できる。


だが、ピュラにまでそんな目で見られるとは心外だった。


一丁前に色気付いてきたか。


それよりこいつ、いつデリカシーなんて言葉覚えたんだ?


アシーナは黙って俺を睨んでいる。


「・・・悪かった。アシーナ」


「これから行く店、全部ニケの驕りだからね」


アシーナは腕を組み、頬を膨らませる。


「それは名案です」


「でしょ?! テッサが話の分かる人で良かったわ♪」


「アシーナさんにそう思って頂けるとは。恐悦至極でございます」


二人はすっかり意気投合する。


寂しそうに指をくわえていたピュラがアシーナの服を引っ張る。


「安心して。ピュラちゃんだけ仲間はずれになんてしないわ。誰かさんは知らないけど」


アシーナはピュラに頬ずりする。


仲睦まじく笑い合う三人を見て自然と笑顔がこぼれる。


「いつまでもじゃれ合っていないでさっさと行くぞ」


「ピュラちゃんもテッサも、まだちゃんとオリンポスを見た事ないのよね? 今日は色々いい所を見せてあげるから楽しみにしててね♪」


「ゲートは禁止だからな。こういうのは風情が感じられた方がいいからな」


「そ、それくらい分かってるわよ」


テッサとピュラは顔を見合わせ笑顔になる。


「はい。よろしくお願いします」


「それじゃ、行きましょうか!」


四人は浮き立つ心を抑え、丘を下った―――。




オリンポス神殿の南には、城下町のように大きな町が広がっている。


「ここがアルカディア。ユピテリアを代表する、オリンポス島最大の都市よ」


サングラッセンの数倍の面積があり観光場所としても有名で、一年を通して各浮き島から観光客が絶えず訪れる、非常に賑わう活気のある都市だ。


最南端には全島へ渡る方舟の運航を行う港もあり、貿易や交通の要所としての機能も併せ持つ。


東西南北それぞれに入り口があり、四つの門は全て装飾が違う。


これもアルカディアの特徴の一つといえる。


ニケ達の見上げる北門は、森の中をイメージした植物をあしらったもので、門からアーチ状に植物が施されている。


細部までこだわった装飾はまるで本物がそこに在るかのような迫力だ。


「おおーーーー!!!!!」


ピュラは感動を両手を挙げ感動を全身で表している。


「さすが、ユピテリア最大の都市ですね。物凄い人の数です」


「北エリアは神殿からのアクセスもしやすいから、町の中でも特に人口は多いかもしれないわ」


ピュラは両手を伸ばし走り出す。


「あまり遠くへ行くなよ。迷子になっても知らんからな」


「ぴゅら、においでわかるからだいじょうぶ!!」


やれやれ。こいつも意外と頑固なんだよな。


「いいじゃない。私達がちゃんと見ていてあげれば大丈夫よ」


「それが面倒だという話だ。お前はあいつの奔放ぶりを知らないからな。厄介だぞ。はしゃいでいる時のあいつは」


「ふふ。保護者も大変なんですね」


テッサは走って行くピュラを見つめる。


「そう思うなら変わってくれ。引き取ってくれるなら大歓迎だぞ」


「ダメだよニケ。そんな言い方したら可哀想じゃない。あんな天真爛漫な子がいたら、毎日楽しそうだけどなぁ」


「そうですね。ピュラさんがお望みなら私は全然構いませんよ。一緒に理想郷エリュシオンを探すのも楽しいかもしれません。ですが・・・」


「それはあり得ないでしょうね。ピュラさんは、ニケさんから離れる気はないようですので」


テッサはニケに微笑みかけた。


「そうか? テッサには喜んでついていきそうなものだが」


「無理矢理引き離そうものなら、何をしでかすか分からないくらいニケさんにベッタリですよ。命の危険すら感じます」


いまいちピンとこないが、そういうものなのだろうか。


確かに、俺自身はピュラの事はそれほど嫌とは思わないが、ピュラがどう思っているのかは分からない。


ピュラには人を惹きつける魅力がある。自覚がないのが余計にタチ悪いのだが。


本当に不思議な生き物だ。


「あれ? ピュラちゃん急に立ち止まって、どうしたのかしら?」


俺は嫌な予感がした。


ピュラの送る目線を追う。


でかでかと焼いた肉が描かれた看板を派手に掲げるレストランが、食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせていた。


「・・・まずいな」


「え? 何かまずい事でもあるの?」


「中へ入れば分かる」


アシーナとテッサは首を傾げる。


「ちょうどお腹も空いてきたし、いいんじゃない?」


「私も同意します」


「俺はその辺で待っているからさっさと済ませてこい」


ピュラの食べっぷりが目立つため、同じテーブルにつきたくないのが本音だった。


「何わけの分からない事言ってるの。あなたも入るのよ」


アシーナは不自然に離れようとする俺の腕を掴み、強引にレストランの中へ引きずり込んだ。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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