第103話 時節到来
「い、いきなり何を言い出すのよアレス?! 今はふざけている場合では・・・!」
動揺するアシーナにアレスの眉が上がる。
「お前は馬鹿か? ここでふざける意味なんてねぇだろうが。倒すべき相手は明確になった。ゼウスと戦うにはリーダーが必要だ。どの道、いずれは誰かが統率して国をまとめていかなきゃならねぇんだ。これ以上ないタイミングだと思うがな」
「で、でもっ・・・!!」
「ったく相変わらずメンタルくそ雑魚だな、てめぇは。周りを見てみろ」
アレスが面倒くさそうに顎で指す方向を振り返る。
「俺はアレスに賛成だ。アシーナ意外に適任はいないと思うぞ」
アポロンはアシーナに微笑みかける。
「アポロン・・・」
「私は別に誰が主神となろうが王となろうが全く興味はないけどね。まぁ、アシーナが上に立つって言うなら支えてあげなくもないけど・・・」
「本当はすごく応援したいのよね? アッフィーったら照れちゃって可愛い~♪」
ガイアは悪戯っぽい笑顔でアフロディーテを小突く。
「う、うるさいわね!! そんなんじゃないわよ!!」
「あれ~? 顔が真っ赤じゃないの~。アッフィーったら分かりやすいんだから♪」
ガイアの甘えたような声が余計に怒りを煽る。
「こ、このロリババァ!!」
もみくちゃしている二人を尻目にアルテミスが前に出る。
「私は・・・ずっと、アシーナ様に憧れていました。ずっと、アシーナ様のお傍に居ました。誰よりも近い場所であなたを見てきました。あなたはこの国を引っ張って行くべき存在です。あなたにしかできません」
「前を向いてください。私達エポヒが、みんながあなたを支えますから」
「アルテミス・・・」
アシーナが見渡すと、皆が力強く頷いた。
「アレスの言う通り、私は自分でも嫌になるくらい精神的に弱い。もしかしたら、また道を踏み外してしまうかもしれない・・・正直、うまくやれる自信はない」
胸の前で拳を握る。
「だけど・・・私は前を向くと決めた。もう決して迷わないと。もう、どんなことがあっても逃げたりしない。目を背けたりしない。絶対に。ここに誓います。だから・・・」
アシーナは深く頭を下げる。
「私についてきてください。みんなの力を貸してください」
「お願いします」
アシーナの肩に、そっと手が置かれる。
「みんなの答えはもう決まっていますよ。みんな、あなたが決心してくれるのを待っていたんです。望んでいたんです。あなたのその言葉を」
顔を上げるとアルテミスは微笑んでいた。
エメラルドの瞳は美しく滲んでいる。
「それに、私は初めからそう言っていたよ?」
「アルテミス・・・」
「私達が傍に居るからね。アシーナ」
ミノス王はエポヒの四人に囲まれるアシーナを見て笑顔がこぼれる。
「頑張って。アシーナちゃん」
俺とテッサは、新たなユピテリアの王の誕生を目の当たりにしていた。
「アシーナさんなら、きっといい国にしていけますね」
「ああ。そうだな」
ユピテリアの事など、どうでも良かったはずなのだが。
あれだけ神の存在を憎んでいた俺が今やこれだけの神に囲まれている。
だが不思議と悪い気はしない。
ふとソフィアの笑顔が頭をよぎる。
「不変のモノなどない、という事か」
「何か言いました?」
テッサは首を傾げる。
「何でもない。気にするな」
「おめでとうアッシー!! あなたが王になったらアースはもちろん、タルタロスともきっといい関係が築けるわね♪」
「あ、ありがとうございます。女神ガイア」
アシーナは頭を下げる。
「アースの件は、本当に申し訳ございませんでした。ゼウスに変わりユピテリアを代表し、この場を借りて謝罪致します」
「ちょ、ちょっとアッシー?! 急にどうしたの? 顔を上げて?」
ガイアはアシーナの顔を覗き込む。
「謝って済む問題でない事は重々承知しております。不本意だったとはいえ、結果的にゼウスの蛮行を止める事が出来ず、あまつさえ、暴走した私はこの手であなたやクロノス様を殺めようとしてしまいました。決して許される行為ではありません」
「お望みとあらば、喜んでこの命を捧げます」
「そんな事言わないでアッシー。あなたが悪いわけではないわよ。千里眼で視たけど、あれはほぼゼウスの独断じゃない。ね? クロッチ!!」
「ああ。アシーナがそこまで思いつめる必要はない」
クロノスもガイアに同意する。
ガイアは困った様子でアシーナの顔色を伺う。
「ですが、王となるからには責任を取る必要が・・・」
「王となってすぐ処刑とか冗談やめてよね。国中がより不安になるだけよ。あなたが変えていけばいい。 それに・・・」
ガイアはアシーナの頬にそっと手を触れる。
「命を絶つ事だけが責任を取る唯一の方法ではないでしょう? 死んでしまえば簡単よ。それ以上、本人は咎められる事がなくなるのだもの。生きて、必死にもがいて、生涯をかけて自分なりに誠意を見せていく。そういう償い方もあるんじゃない?」
「ガイア様・・・」
「あなたは一国の王として、これから様々な決断を下さなければならなくなるわ。けれど、独裁的なやり方ではいつか必ず限界が来る。国の意思とはすなわち国民の意思。勿論、その全てを聞き入れる事は難しい。だからこそ、支えてくれる仲間が必要なの」
「先輩からのアドバイス♪」
アシーナはガイアの言葉を深く心に刻み込む。
その表情に迷いはなく、彼女の中で誓いはより強固となる。
「これだけの信頼を集める君主も中々いないし、これだけ優秀な仲間も簡単には見つからない。あなたは恵まれているわ。頑張ってね」
どこまでも慈悲深いその微笑みに、アシーナは再び頭を下げた。
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