表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/294

第99話 神託


俺は・・・ずっと一人だと思っていた。


誰からも愛されない存在だと思っていた。


心の奥底でそれを受け入れ諦めていた。


紋章を持たない俺は、神として認めてもらえない。


普通で良かった。


普通が良かった。


他の神々と違う出生がどうしようもなく嫌で仕方がなかった。


だけど、違った。


ソフィアもアシーナも、こんなにも長い間俺を愛してくれていた。


一人じゃないって、心から思えた。


初めて、生まれて来た事に感謝する事ができた。


「痛い・・・ニケ。痛いわ」


「・・・済まない」


ソフィアの言葉で我に返る。


「温かい。胸の奥が、とても温かいんだ・・・」


ふいに、包み込むような温もりを背中に感じる。


「良かった・・・本当に良かったよぅ・・・ニケぇ・・・」


背中越しにアシーナのすすり泣く声が聞こえる。


「ああ。そうだな・・・」


優しく見守るソフィアの目にも涙が滲む。


「私の役目はここまでかしら」


ソフィアは高くそびえる神木を見上げる。


「ソフィア、一つ聞いていいか?」


「あら? もう『母さん』って呼んでくれないの? 寂しいじゃない」


「母親はいないと思って生きてきたからな。名前で呼ぶ方がしっくりくるんだ」


ソフィアは苦笑いする。


「それより、どうしてオリーブの木の中にいたんだ?」


ソフィアは人差し指を顎に当てる。


「う~ん。中にいたというより、このオリーブの神木が私なのよ」


「そうだったのですか?!」


俺の横に立つアシーナも驚きを隠せない様子だった。


「私もてっきりエーテルとなって星に還るとばかり思っていたんだけど、還るどころか大地に根を差しちゃうなんて、我ながら驚きよ。まだ役目が終えていないって事なのかしら?」


「という事は、神託(オラクル)を授けるのって・・・」


「そう。この私よ」


俺は腕を組む。


「話を聞いていると、その神託というのは予言みたいなものだろう? そんなに重要なものなのか?」


「もちろんよ。神託で告げられたことは将来必ず起こる事だもの。お父様は神託を聞くことでユピテリアの方針を決めていた部分も大きいわ。でも、まさかその神託を授けていたのがニケのお母様だったなんて・・・」


「そもそも、神託って誰でも聞こえるわけではないのよ。むしろお父様以外で聞いた事のある人を知らないくらい。私も神託が授かりたくて神木に何度も訪れていたけど、結局聞けずじまいだったの。お父様の娘だし、聞けるかなって思っていたんだけど・・・」


ソフィアは残念そうにうつむくアシーナを見て苦笑いする。


「神託はね。この星を救う事のできる可能性を秘めた者にしか聞けないのよ。ゼウスに授けてもダメだったみたいだけど・・・神託を授けた者はゼウスと、後はメティスちゃんくらいかしら」


「あ、あのっ!! 自分の能力を棚に上げて不躾な態度なのは承知でお聞きしますが、どうして私ではダメなんでしょうか?! 何か至らないところがあるのでしょうか?!」


アシーナは食い気味にソフィアに顔を近づける。


「お、落ち着いてアシーナちゃん。あなたは神託を聞ける素質は十分すぎるくらい持っているわ。本当ならあの時の、オリーブの実をあげた時のあなたの年齢でも十分聞けたはずよ」


「だったら、どうして・・・」


アシーナは肩を落とす。


「そもそもね。私が選り好みして授けているわけではないのよ。神託は、言わば星の声そのものだから。神託を聞く素質がある者が訪れた時、私の意思とは無関係に神託を伝えるの。と言っても、今まで授けた事があるのは二人だけなんだけど」


「でも、アシーナちゃんにだけはまだ伝えるべきではないと、星の代弁者としての本能がそれを止めたの。正直、授ける内容は私には聞こえないから、どのようなものかは分からない。だけど悟ってしまった。アシーナちゃんが背負うであろう運命は・・・その道のりは決して楽ではない事を」


「アシーナちゃんはまだ精神的に不安定な所があったから、神託を授けてしまえばアシーナちゃんが壊れてしまうんじゃないかって思ったの・・・」


「・・・おっしゃる通りです・・・」


俺はうつむくアシーナの頭を撫でる。


「その神託は俺にも授ける事はできるのか? 俺もアシーナも、この世界を救う可能性のある、星にとって重要な存在だろう?」


「であるなら、俺とアシーナの神託の内容が同じ可能性だってあるはずだ。俺が聞くことでアシーナの負担を半減できるなら、代わりに俺が聞く」


「ニケ・・・」


ソフィアは首を振る。


「母親の私が言うのもなんだけど、あなたはこの世界にとってかなり異質な存在。恐らく星もニケという存在の可能性を読みあぐねている。あなただけは、誰にもその運命を決められないのでしょう」


「・・・そうか」


不安そうに俺の裾を掴むアシーナの顔色を伺う。


「アシーナちゃん」


ソフィアは改めて身なりを整えアシーナの前に立った。


「身も心も成長した今のあなたなら神託を聞くことができるでしょう。ですが、正直あなたにどれだけの影響を及ぼすか私には分からない。神託を聞くことで後悔する事になるかもしれない。それでも・・・神託を聞きますか?」


アシーナは姿勢を正す。


燃えるような真紅の瞳は真っすぐソフィアを見据える。


「はい。聞きます」


ソフィアはしばらくアシーナの瞳を見つめる。その覚悟を試すように。


「・・・分かりました。では、片膝をついて目を閉じて下さい」


アシーナは言われる通りの姿勢を取り意識を集中させる。


すがすがしい風景が一転、空は雲に覆われ辺りは薄暗くなる。


アシーナの脳裏に声が響く。



『新たに生まれし創造の星が黒き破壊の星を喰らう』


『創造の星が半身削ぎし時、数多の光が世界を照らす』


『地に落つ半身から葉脈は芽吹く』


『若葉は歌う。循環する安寧の箱庭の中で』



「・・・・・・」


ゆっくりと目を開けたアシーナはしばらく片膝をついたままだった。


「納得できる内容だったかしら?」


「いえ・・・正直、まだピンと来ていなくて・・・」


「まあ、案外そんなものだったりするのよね」


「私は思うの。例え未来が、起こる事が決まっている運命だとしても、結果が分かっているなら変えられる。変えられるという事は未来が変わる。未来が変われば運命が変わる。だとしたら、未来も運命も、私達が選び取る数だけあるんじゃないかって」


「そういう意味では、結局未来の事なんて誰にも分からないのよ」


ソフィアはアシーナの手をそっと握り優しく包み込んだ。


「この先どんな未来が待ち受けていようと、アシーナちゃんは自信を持って進めばいいんだからね。あなたが考えて選んだ道なら、きっとそれが正解。それだけは覚えておいて」


「ソフィア様・・・」


ソフィアはアシーナの頬を伝う涙を指で拭う。


「アシーナちゃんたら、泣き虫さんね」


「す、すみませんっ・・・!」


「いいの。いいの。いつまでも純粋で、優しいままでいてね」


ソフィアはアシーナの頭を優しく撫でる。


突然ソフィアの身体が淡い光に包まれた。


「あら? そろそろ時間かしら」


ソフィアは後ろで手を組み俺達に笑顔を向ける。


「まだまだ話したかったけど、どうやらお別れみたいね。こうして二人に会えて良かったわ」


「もう・・・会う事は出来ないのか?」


「どうでしょう? 神託やら未来やら色々偉そうな事言ったけど、分からない事も多いから・・・」


「だけど、きっとまた会えるわ。なぜか分からないけど、そんな気がする」


ソフィアは不安を滲ませるアシーナに優しい眼差しを向ける。


「アシーナちゃん。心を強く持って。それさえできれば、あなたは人々を導く立派なリーダーになれるわ。あなたにはそれが出来る」


「辛い時や挫けそうな時は、周りを見渡してみて。頼ってみて。きっと、みんながあなたを助けてくれる。きっと、みんながそれを待っている。遠慮なく肩を借りちゃえばいいのよ。そんな素敵な魅力が、アシーナちゃんにはあるんだから」


「そして、ニケを愛してくれてありがとう。こんなにも一途に息子を想ってくれるあなたを、自分の娘の事の様に誇りに思います。少し頼りないかもしれないけど、隣で支えてあげてね」


アシーナは溢れる涙を拭い何度も頷く。


「ニケ。あなたがこれからどういう道を辿るのか私には分からない。いいえ。きっと険しい道のりが待っているのでしょう」


「でも、あなたは決して一人じゃない。私がいる。クロノスもいる。アシーナちゃんもいる。あなたを支えてくれる仲間もいる」


光に包まれるソフィアの身体がうっすらと透けていく。


「生まれて来てくれて、本当にありがとう。ずっと伝えたかった。傍に居てあげる事はできなかったけど、あなたは私の何よりも大切な宝物。どうか、それだけは忘れないで」


消えゆく中、ソフィアは陽だまりのように優しい笑顔を向ける。


「愛しているわ。ニケ」


涙で景色が歪む中、光の玉となって空へ舞い上がり神木へ還るソフィアを見送った。


「ありがとう・・・母さん」


俺とアシーナは自然とその手を繋ぐ。


別れを告げるように、二人の胸のお守りは強く、優しく光り輝いていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


とても励みになっています!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ