『祝・棄却』
「何という事だ……」
墓の前で男は涙を流します。
「我が子を失ったというのに、かの会社は責任を取ろうともせず、司法もそれに追随する。世論も賠償金目当ての訴訟ゴロ呼ばわり。何という世の中だ、正義はどこにある! 正義は! 我が子はどうすれば浮かばれる? その為なら何だってするのに、そう……何だって」
『迷える子羊よ』
その時、雲間から光が射し込み、白い羽を生やした光り輝く男とも女とも付かない者が現れました。
「あ……あなたは神様……」
『汝のその怒りと悲しみ、我らの元に届いた』
「え」
『願いを言葉にせよ。さすれば現のものとなる』
「は、はひっ」
男は眩む目を細めながら上ずった声で続けました。
「世界から、あの商品を消して……いや、もっと沢山の子供を、救いたいのです」
大きく深呼吸して、跪き、両手を組む。
「人から、凍らせて食べたぐらいで、喉に詰めて命を奪う全てのものを、遠ざけて下さい。そうして頂けるなら、私の全てを差し上げます」
『その願い、叶えよう。汝の全てと見合うだけの間』
「ホット・マグマド・ラム」
地獄の四丁目のバーのカウンター席で、悪魔のヘッテルギウス氏は煮えたぎるカクテルを傾ける。
「――ふぅ。冬はこれが一番だ」
「お疲れのようですね?」
バーテンダーのニスシチが、空いた手でピクルスを漬けながら尋ねる。
「好景気の弊害ってヤツだ」
ヘッテルギウス氏は微笑みながら、小皿の上のジャーキーを噛む。
「この一ヶ月の魂の多さと来たら! あのナベルスさんがご機嫌でしたよ。お手柄でしたね」
「ま、あの男が捧げた、自分と家族の魂と財産だけでは、渇水も後三日が限界だがね」
「そうですか」
ニスシチは、瓶にコルクの蓋をして、蝋で固める。
「後三日で、何人死者が出るでしょうね?」
「あんまり沢山出ても、契約の手が足りないがね」
空いたグラスと黄銅貨を置き、ヘッテルギウス氏は席を立つ。
「じゃ、ごちそうさま」
「またどうぞ、上着をお忘れなく」
「ありがとう」
発光蛆がびっしりとたかったコートを引っ掻け、ヘッテルギウス氏は店を出て行った。
【完】