『クリスマスの夜に』
ドスン!
暖炉に落ちて来たのは。
赤い服に白いヒゲ、肩に担いだ大きな袋。
彼はリビングを横切り、階段を昇って坊やの部屋へ。
坊やは静かに眠っています。
「坊や、坊や」
彼は坊やをゆすります。
「だれ……?」
寝ぼけ眼の坊やは、あくびをひとつ、ふたつ。
「あっ、サンタクロース!」
「騒いじゃいけないよ」
彼は袋から包みを取り出します。
「プレゼントが欲しいかい?」
「うん、ほしい!」
「魂と取り替えても良いかい?」
「タマシイ?」
「なあに、ちょっとしたものさ」
「だったらいいよ、そんなのあげる!」
「よおし、契約成立だ!」
「我ながら上手い手を考えたものだ」
窓から飛んで出た悪魔のヘッテルギウス氏は、サンタ帽子をかぶり直す。
「この地域のクリスマス・イブは、いつの間にか、黒ミサに匹敵する性的欲望が渦巻く夜になって、聖気は全く失せていた」
飛びながら、宙返りを一つ。
「なのに、子供たちは一番無防備」
魂と、プレゼントの入った袋を揺する。
「暖炉の下にも火は焚かれていない、窓の鍵も閉まっていない、プレゼントさえ見せれば遠慮なく魂を差し出す、ククク」
夜の街の上を、ヘッテルギウス氏は飛びながら、また新しい家に近付いた。
「ボーナスだな!」
「ボーナスかい」
「ああ、ボーナスだとも――ん?」
「カニバリオレンジ」
カウンター席にだらりと身体を預け、ヘッテルギウス氏は注文する。
「どうしたんです、お客さん」
髑髏模様のタンブラーを拭きながら、バーテンダーが不思議そうな顔をする。
「この前、クリスマスの魂狩りの話したろう」
ヘッテルギウス氏はためいきをつく。空気がひゅうと漏れた。
「ええ、極簡単に魂の契約が取れるんでしたね」
「ああ、誰も気付かんと思ったら」
目の前に置かれた血の色のカニバリオレンジを、ヘッテルギウス氏はストローで一口飲む。
「ヘビー級の亜光速パンチを持った商売敵が、な」
原型を留めないぐらいにグチャグチャに砕かれた身体を、ぽきぽき戻しながら、ヘッテルギウス氏は大きなため息をついた。
「今でもあいつのホーホー笑いが耳に付いて離れやしない!」
【完】