『美の追求は、犬も喰わない』
「サンズ・リバー!」
ヘッテルギウス氏は、空になったダイキルのグラスを置くのももどかしく注文をした。
「どうしました、ピッチが早いですね、旦那」
鎖骨のマドラーを磨きながら、バーテンダーが首を傾げる。
「最近の仕事が、どうもな」
「また上手く行ってないんですか?」
「……またって言うな」
「これは失敬」
バーテンダーはサンズ・リバーをヘッテルギウス氏の前のコースターに置く。
「売り上げには、繋がってるんだけどな」
ヘッテルギウス氏は、サンズ・リバーをごくりと飲み込んだ。
「――お呼びしましたかな」
煙と共に、ヘッテルギウス氏は人間界に現れた。
「わ、わわっ、な、悪魔!?」
魔道書を持ったまま、女が尻餅を付いている。
「まさか……本当に、現れるなんて」
「私、美を司る悪魔、ヘッテルギウスと申します。あなたの魂と引き替えに、傾国の美しさを差し上げましょう」
ヘッテルギウス氏はウインクをする。
「本当に、本当に美しくなるの?」
「はい、それはもう。お望みのままの姿になれますよ」
「望みのまま……かぁ。って事はさ?」
「はい」
「この写真の女を、醜くすることも出来るわよね!?」
「は、はぁ。まあ」
「――みんながみんな、それさ。どっちが悪魔だか分かったもんじゃない」
【完】