『平等に』
「なあ、カノジョの家に行ったら、ゼクシィ置いてあったんだけど、プロポーズ催促されてるのかな?」
「そうだろうけど、結婚したいなら自分から言えって話だよな。時代は男女平等なんだろう? 男だって『あなたが好きでたまりません、結婚して下さい』なんて、言うよりは言われた方が嬉しい訳だし」
「だよなぁ……大体デートの時も、こっちにエスコートさせるし、金は払わせるし。内容が気に入らなきゃ、何にも言わずにただ不機嫌になって、こっちが機嫌取りやらされるし。セックスも大概マグロだし……あああ、何だか腹立って来た! 捨てよう」
「デビルファーザー!」
地獄の四丁目のバーで、悪魔のヘッテルギウス氏は注文を出す。
バーテンダーのニスシチは、ロックアイスを入れたグラスに、アマレットとウイスキー、それに香り付けのシアン化カリウムのポーションを垂らし、ステアしてカウンターに置く。
ヘッテルギウス氏は、一気に飲み干し、氷をかみ砕く。
「おかわり」
「荒れてますね」
ニスシチは手早く同じものを、今度はクラッシュアイスで作り、やや長めにステアしてから差し出す。
「ナベルスのヤツ、散々怒鳴りつけやがった」
「何か失敗でも?」
「猜疑心をあおって破滅させ、神を呪詛する魂を量産してたんだが」
「難しそうですね?」
「そうでもないさ。雑誌の一冊も仕込めば良い」
「そうなんですか」
「調子は上々だったが、横槍が入った」
ヘッテルギウス氏は、つまみの甲虫を一掴みにして頬張り、バリバリと咀嚼する。
「新しい魂が生まれて来ないだろってさ」
「ああ、なるほど」
「破滅させるにゃ孤独が一番だ、新しい魂が生まれたって、洗礼でもされりゃこっちの売り上げにならないってのに、まったく場当たりで指示出すなってんだよ」
「そういう指示は困りものですね」
ニスシチは苦笑しながら、ブラッディ・マリーを差し出す。
「お気落としなく、これは奢りです」
「ありがとう」
眉間の皺をやや弛めて、ヘッテルギウス氏は赤い液体で満たされたグラスを傾けた。
【完】